牢屋
少し書けたので投稿。
投稿頻度はどうなっていくかわかりません。汗
書き溜めるの苦手なので・・・。
――――――ポタリ。
――――――ポタリ。
一定のリズムを刻むように水滴が垂れる音がする。
城の地下に作られた牢屋に俺は居た。
両手は手錠で繋がれ、服装は無地の粗悪な布一枚だ。囚人と分かり易くする為か中心に大きくドクロマークが書いてある。かつて脱獄囚がおり、その時民衆に紛れて逃げられたことから得た教訓らしい。確かにこの服は目立つ。
石畳の牢屋の中には木で出来た簡素なベットが1つ。トイレはゴミ箱みたいなモノが1つ。その中に入れておけば二日に一度看守役の兵士が回収してくれる。せめて蓋をつけてくれと要望したが聞く耳は持ってもらえなかった。自身の汚物の匂いを嗅ぎながら反省しろということだろう。
俺が一体何を反省すればいいのかわからないが・・・。
神器を盗まれたことをだろうか?それとも魔王を討てなかったことだろうか?死ななかったことだろうか?
木のベットに腰を下ろし、檻の中から通路を見つめる。
体が重く、熱を持っている。呼吸もいくらか荒い気がする。
申し訳程度に手当された頭部の傷口が疼いた。思い出されるのは数日前の出来事だ。市民から石や罵声を投げられ、なじられる。
―――悪意・憎悪・敵意。
黒い影となって俺の体に襲いかかってくる。震えが止まらなくなる。
日本にいた時のイジメられていた時とは比べ物にならなかった。
肉体的な痛みよりも、精神的な痛みが響く。抜き身の刃物で腹の中を弄り回されているかのようだ。
半年ほど前までは勇者様と讃えられ、幾千もの紙吹雪が舞う中パレードを行いながら歩いた道は手のひらをくるりと返し、地獄の道へと変貌していた。
・・・俺はどうして勇者なんかやっていたのだろう。
この世界で生きている理由を無くし、もう生きる気力も湧いてこない。
舌でも噛み切って死んでしまおうか。
いっそ皆も俺が死んだほうが喜ぶだろう。
ゴロンと横になると体の熱と裏腹に冷たい床の感触が気持ちよく思えた。
冷たい・・・。
俺はそのまま意識を手放した。
「――――――――――ッしゃ!!――――――――――ゆう!!
――――――――――――――――――ゆうしゃどの!!勇者殿!!」
大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえる。長いこと硬い床の上で眠っていたようだ。体はすっかり冷え込み、体調の悪化は更に増していた。
聞こえてきた声は牢屋の外からだ。一人の兵士が俺に向かって声を掛けていた。暗くて顔がよく見えないが、声はどこか聞いたことがある気がした。
「おまえは・・・?」
「はっ、ユーテリア大戦時、勇者殿に助けていただいたアルバスと申します。先日は人類の英雄である勇者殿に対して大変失礼な振る舞いをしてしまい誠に申し訳ないです」
ユーテリア大戦、それは勇者として戦争に挑んだ一番最初の戦争だった。神器を使いこなし始め、調子に乗っていた時代だろう。1年半ほど前になるだろうか。魔王側は四天王の一人魔将が参戦していたが俺が突撃していき一騎打ちの上で討ち果たした。
アルバスはその戦争でどうやら俺の近くで戦っていたらしい。
「勇者殿の戦いぶりはまさに闘神のごとく、一刀ごとに相手を着実に屠りゆく様はまことに―――――――――――ってそんなことを話している場合ではないのです。勇者殿今すぐにこの場からお逃げください。王はどうやら勇者殿の処刑を目論んでいる様子。あさっての朝には打ち首になるでしょう」
アルバスはそう言うと牢屋の鍵を開け、俺の手錠も外してくれた。さぁ、と急かすアルバスに対して俺は動こうとすらしなかった。
「どうしたのですか――――!?もしやお体が―――」
「いや、違うよ。もう疲れてしまったんだ。神器もない、勇者でもない俺が生きてく意味なんてないさ…」
そう疲れてしまった。前世で自殺し、神に請われるまま勇者なんて引き受けたが俺にはそもそも荷が重すぎたようだ。神器のチートで殆ど気にはならなかったが、プレッシャーも相当のものだったと今だといえる。ある種神によって思考誘導されていたからできたのだろう。あれが無ければ、冒険者になった最初の戦闘の時に足がすくんでしまっていたかもしれない。
そう考えると神が俺の脳に埋め込んだ蟲は、俺を思ってのことだったのかもしれない。蟲ってという言葉の響きと脳から出てきた蟲のディテールは最悪であったが…。
「そ…そんな。
いや、それでもあなたは生きるべきだ!民衆の機嫌取りの為だけに殺されるべきではない。此度も私を含め数人の兵士が結託し、勇者殿に生きていただきたいと思った所存であります。あなたは我々の希望だ!必ず再び光当たる舞台へと戻ることになるでしょう!」
アルバスは熱心に俺に呼びかける。しかし俺は未だに動かない。正直なところ動こうと思っても体がいう事を聞かずに動くこともできないのだが。
「―――ッ、私はあなたが拒んだとしても生きていただく。恨まれようとも…。それがあなたのためであり、人類のためだと思うから」
アルバスは俺の言葉を聞くよりも速く俺の懐に潜り込むと担ぎ上げた。
俺は動かせない体を預けるようにアルバスに運ばれる。ただ心にあったのは虚無感だけだった。
よほど切羽詰っているのか、乱暴に担がれながら牢屋を出る。そこで、麻袋を被せられ外の様子はわからなくなった。時々アルバスに話しかけに来る兵士がいるがどうも共犯者のようだった。日は既に沈み、時間としては深夜のようだ。城下はとても静かだ。
先日の昼間の熱気が嘘のように感じる。麻袋に入れられただけで、薄い布一枚しか着ていないので寒さが肌にささる。
アルバスが小声で「馬車に乗せます。このまま王都を出て、国境まで逃げます。逃走先はニケリア王国です」と話、俺は上の空ながら聞いていた。ニケリア王国か…。比較的魔族からの被害が薄い国であり、俺は行ったことがない。勇者としての顔も知られていないだろうから逃亡先としてはうってつけかもしれない。逃げたところで俺が何をするんだという話ではあるが…。
揺られる馬車の中でも麻袋からは出されない。貨物のふりをしながら、国境を抜けるまではこの状況を維持するようだ。一番近い国境までは馬車で飛ばして半月。中々苦痛な旅になる。王都を抜ける検問は特に問題は起きなかった。御者台でアルバスが何やら衛兵に聞かれていたが、緊急の指令で物資を国境付近に届けるのだという風に述べているのが聞こえた。
アルバスは軍務を放り出してまで俺を助けようとしているのか。馬車には俺の他にアルバス・他二名の兵士が乗り込んでいる。物資は一応火薬や剣、鎧等だが、スピードを重視するため王都を抜けてすぐの茂みに投げ捨てた。
日が昇る頃には大分王都から離れた。しかし馬車を止めることはしない。今頃王都では俺が脱走したことはバレていることだろう。直ぐさま追っ手を放ち、捕まえ次第王都へと連れ戻され、処刑されることになっている。民衆へも既に明後日、(もう明日だが)に俺の処刑のお触れは出ているようだ。今更延期などできないだろう。
町を1つまた1つと抜けていく。
大分田舎道に来ているようだ。兵士の一人が俺に被せていた麻袋をとってくれる。
「勇者様、このような扱い申し訳ないです…。ですが王都からはある程度離れることが出来ました。あと問題があるとすれば王都からの追っ手と国境付近です。ここでは馬車の中にいる分には問題ないでしょう」
そういうと朗らかに笑った。この兵士はよく見るととても幼く見える。名前と年を尋ねるとショーン、18歳だという。俺の一つ下であった。一重瞼にのっぺりとした顔はどこか日本人を思い出させるような顔立ちだ。茶色のくせっ毛は完全に異世界人のものだが。
もう一人の兵士はクレイと名乗った。こちらは二十歳過ぎといったところか。巨漢である。腕の太さは俺の太ももほどもあり、俺の体であればあっさりと持ち上げられてしまいそうである。
荷台で二人と向き合う。アルバスは御者台に座っている。
二人共兵士であるが、どこか優しい顔立ちだ。とてもではないが処刑の決まった勇者を助けるために軍務を放棄するような性格には見えない。彼らにも家族はいるだろう。あの国王のことだ、連座制をしいて彼らの家族が殺されてしまう可能性はある。思いとどまるならば今だと思い彼らに話す。
「俺を助けることで、君たちの命は勿論、家族の命まで脅かされる可能性がある。今ならまだ俺の脱走に気がつき、追いかけたと言い訳もできる」
こんな生きる意味を見失った人間に君たちの命を懸けるべきではないと伝える。俺は君たちが思うような勇者にはもうなれないんだ。
しかし彼らの答えは違った。
「勇者様、…僕らに家族はいません。皆魔族に殺されてしまいました。」
ショーンは悲しそうな瞳で、しかししっかりと俺と目を合わせながら話す。
「2年ほど前の話ですかね。勇者様が冒険者に成たての頃の話です。アルカディア光国の外れにある寂れた村でした。魔物が比較的に出にくい土地だったのですが、とある日に魔族が近隣に住み着いた為魔物被害が大きくなり始めました。
被害がで始めてから国と領主様に助けを求めましたが小さな村の要請なんて聞き届けてくださるはずもありません。貧しい村ですし、男手のみで魔物を討ち滅ぼす毎日でした。普通の魔物ならなんとかなるはずでした…。しかし魔族の影響か魔物は普通のモノよりも圧倒的に強かったです。一人、また一人と魔物に殺されていき次第に村の活気は無くなっていきました。最後には村丸ごと魔物に蹂躙され、ぼくらは村を捨てて隣町に逃げることにしました。その途中でも魔物に追われ、家族をなくしていきました。残ったのは13人でした。隣町は大人の足でも三日は掛かるし、けが人も大勢いた為どんどん遅れていきました。
道中に魔物の大群に襲われ、流石にもう駄目だと思ったときにぼくは一人の冒険者に助けられました。
まるで風の如く走り、ひと振りで魔物を骸に変えていく。魔物の攻撃魔法から僕たちを守ってしまう。それはもうかっこよかったですよ。お陰でぼくらは命が助かりました。勇者様にいただいた命です。ならば、あなたの力になれるのなら本望であると―――。僕は思います」
ショーンが真摯に話すとクレイも同じくというように頷く。彼の家族も魔族に殺されてしまったようだ。そして敵を討つために兵士に志願し、どこかの戦場で俺に助けられたということらしい。口下手なようであまり言葉を話さない。
故にこの度の脱走計画に賛同したものは皆どこかの戦場で俺が助けたものが多いらしい。勇者として我武者羅に魔物や魔族を殺していた俺をそんな風に思ってくれる人がいるなんて知らなかった。
もっと兵士の人や仲間たちと話せば良かったと、今更ながらに思った。人間不信であった俺にそれが可能かどうかと言われれば、答えはNOだろう。しかしだ、不器用なら不器用なりに言葉を交わせばいい、伝わらないなら伝わるまで話せばいい。
今はそう感じた。しかしそれを俺はショーン達に今伝えることは出来なかった。なぜなら声を出せないほどに泣いてしまっていたからだ。
「―――――――ぉ、俺のやった事に意味があったのか…」
膝を抱え、縮こまるように俺は声を殺して泣いた。異世界に来てから初めて泣いた。きっと再び、勇者として俺が生きることはないだろう。
でも、自分のやってきたことが意味のあったこと。生きてきた意味がそこにあったことが俺にとって何よりの救いであった。
―――――――ありがとう。
ぐじゃぐじゃになった顔で俺は三人に礼を言う。
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