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勇者をやめて冒険者になる。  作者: ミルハ
プロローグ
2/9

2 伝説の勇者

本日2話目投稿 

書きだめしたところまで一気に投稿予定。

あと二話投稿します。


土地は荒れ、空気は澱み、生き物は死に絶えた。


世界は救いを求めていた。求めに応じたのか人の世に舞い降りた一人の英雄がいた。


かの者は冒険者として名を挙げていき、光の速さでS級冒険者に成った。


誰もが彼の強さに驚き、慄いた。彼は常に一人でクエストをこなし、仲間なんて必要とさえしなかった。神級とも思える装備で身を固め、単身戦場や迷宮を駆ける姿は見るものを魅了した。


S級になりすぐに彼は聖アルデリア光国、聖教会から勇者へと任命された。

人々は魔王討伐を単身でもこなしてしまいそうな彼に期待し、希望を寄せた。


任命された勇者には幾人もの仲間候補が名乗りを上げたが、彼が認めたのは側仕えに二人ほどだった。他の者は実力が不足していたのか、それとも別の理由からかはわからないが、同行は許されなかった。


勇者は幾つもの戦場を駆ける。時に絶望的な戦地に赴き、戦況をひっくり返した。


時に一万の魔族に対して、単騎で殿をつとめた。


時に魔族の魔将を打ち取る。


おとぎ話のような勇者の活躍。


彼の快進撃は止まるとこを知らなかった。






その牙はついには――――――――――――魔王に届く。





眼前にそびえ立つのは魔王の城。断崖絶壁に囲まれ、周囲は魔大陸独特の暗い雰囲気に包まれている。空気中には魔力が漂い、訓練された人間でないとあっさりと魔力酔いを起こしてしまいそうなほど魔力が濃い。さすがは魔王の拠点と言える雰囲気である。


しかし人の軍勢は総勢1万を越える。

その誰もが活気づいていた。否、既に勝利を確信しているようで皆気が緩んでいた。戦場の第一線だというのに兵士たちは酒を煽り、警備は眠たそうにあくびをしている。


この理由は単純である。人の兵隊たちは勇者が認定されてから一度の敗走がないのである。最強無敗。勇者がいれば自分たちが負けるはずがない。彼らにとっては今現在の状況は遠足となんら変わりはなかった。それほどまでに勇者の力は絶大だった。



「――――勇者様、お食事の準備が整いました」


執事のセバスが天幕の中にいる勇者に声をかける。セバスは勇者が勇者として旅を始めてからずっと共にしている。最近では少し心を開きつつある。


「あぁ。すぐに行くよ。どうせゴルーグ中将にツラを見せながらの食事だろ?」


「・・・はい。申し訳ございません」


「いいよいいよ。セバスが悪いわけじゃないしな・・・本人は酒を飲み、俺のご機嫌取りが仕事だからな」


乾いた笑顔を浮かべると勇者は重い腰をあげる。この世界に来てから未だ二年。たった2年で魔王討伐を完遂してしまいそうになっていることは早いのか、遅いのか判断のつけにくいところだろう。なにせ勇者には神から授かりし力があるのだから。


前回神が送り込んだ勇者とやらはもう50年も前だそうだ。その当時、5年ほど戦争は続いたらしい。勇者側・人間側の敗北で終戦していたが、魔族側は追撃もせずにある程度の反撃をした後は攻めてこなかったらしい。そもそも人間と魔族が戦争を行っている理由も互いに受け入れられないという理由ではないようだ。

人間側の特権階級の者が魔大陸に眠る魔力結晶目当てに戦争を起こしているらしい。この世界では魔力とは万能の力である。しかし生物が己が身に宿せる魔力の総量は決まっている。魔道士と呼ばれる者たちでさえ上級魔術の行使がやっとである。


時間逆行や時空間転移といった大魔術の施行には魔力結晶が必要なのである。中には永遠の命を実現させる魔法も存在するとか・・・。

そんなこと勇者には関係ないけれど、ただ魔王を倒す。それだけが彼の使命であった。


中将の天幕に移動している最中、一人の冒険者とすれ違った。歴戦の戦場を渡り歩いてきたことは容易に想像できる佇まいだ。身のこなしは一流どころの冒険者だ、しかしながらどこか幼い。その冒険者は勇者を見つめるとなんとも言い難い感情を瞳に宿す。何か言いたいような、ためらうような表情を浮かべながらも一礼すると去っていってしまった。


どこかであったことがあったのだろうか?



中将の天幕に赴くと既にアルコールの匂いが充満していた。条件反射的に鼻をつまんでしまう。前世から合わせ、二年異世界で暮らしている為アルコールもたしなめる年齢に達してはいる(異世界では)。


しかしながら好きになれないのはどうしてだろうか。飲みたいとすら思えない。


「おぉ、勇者殿!ようやく来てくださったか。勇者殿のお陰で我が軍も消耗は殆ど無くここまで来れた!かかった経費は主に兵糧のみだ。今日は祝杯といこうぞ。明日には魔族の連中もおしまいなのだからな、ガハハ」


豪快に酒を煽り、飲み干す中将閣下。給仕のひとりが俺に杯を渡してくる。杯の中にはやはり酒が入っている。万能のお守りの力で酒を浄化できないものか試して見るがやはりできないようだ。全ての状態異常を解消してしまう恐ろしい能力を持つお守りでもアルコールを飛ばすことはできないようだ。あの神ならば「酒がおいしく飲めなくなるじゃないかー」とかいう理由な気もする。


杯を覗き込むと俺の顔が写っていた。やつれて、少し疲れているように見える。誰も頼ることなく魔族や魔物を屠ってきた。戦って闘って戦って闘って…。二年間休んだことなんてなかった。人を信用するということができなくなっていたからか、心休まるところがなかった。最初はRPGのようで面白いと思っていたが、途中から神器によるヌルゲーのようになっていた。ただただ叩き潰すだけ、作業でしかなかった。


彩のなくなった世界で生きていたが、勇者という肩書き以外に俺に生きる道はない。


今更勇者をやめても意味がない。魔王を倒したあとの俺は何者なのだろうか?この世界にずっと居続けることになるのだろうか。それとも別の世界に連れて行かれて再び魔王を倒す旅をするのだろうか。


少し・・・疲れたな・・・。耳の奥の方で、延々と俺のことを褒める中将の声が木霊しながら俺は杯を傾けた。





グラグラと揺れる頭の中、ガチャガチャと音がする。

誰かが俺の服を脱がせてくれているようだ。


「ぅ・・・ありがとう・・・」


朦朧とした意識の中感謝をする。


「○×○×・・・・」


誰かに何かを頼まれた気がする。俺は陽気にその提案に了解をだし・・・そして・・・zzz







夜、天幕で目を覚ました。どうやら酒に俺は異常に弱かったらしい。水が欲しい・・・。


「セバス!すまんセバス・・・水を持ってきてくれ」


いつも天幕のすぐそばに控えているセバスならすぐに水を持ってきてくれるだろうと考え、布団の中で姿勢を戻す。酒を飲む前は何を考えていたのだっけ?ものすごく疲れていたような気がする。酒に酔ってぐっすり眠れたので、疲れも大分抜けたように思える。どこか体も軽くなった気もする。体というよりも肩が軽くなった。試しに腕を回してみると意外と動きが悪かった。

気分とは裏腹に体は驚く程動かない。なんだこれは?


手を見てみてグローブがついていなかった。

というか俺は真っ裸だった。

そしてようやく異常に俺は気がついた。手につけている筈のグローブがない。棚に立て掛けてあるはずの剣が無い。盾もブーツもお守りもマントも・・・。



―――神からもらった神器が10つのうち9つが消えていた。




魔王城攻略の朝。


兵士たちの士気は高かった。それもそうだろう、長かった魔大陸攻略・魔王の討伐がすぐ目の前なのだ。更にはその戦で負けるはずがない―――勇者がいるのだから。自分たちは勝ち馬に乗るだけで祖国に戻れば、英雄の仲間としての凱旋が待っている。兵士の中には魔王の首をとってやると息巻くモノさえ存在する。


軍隊の各所で勇者の名を讃え、己を鼓舞する掛け声も聞こえる。時には自分の故郷の名を、時には聖アルデリア光国の名を、時に光の聖女の名を―――。


その場の端、未だに片付けられていない天幕の中は外とは異なり沈痛な雰囲気が漂っていた。陰鬱と言っても差支えはないだろう。それこそ絶望的な表情をした大人が5人ほど面を向き合わせていた。


「―――それで、勇者の神器が盗まれたというのは誠のことか?」


重い空気を切り裂くように話しだしたのは壮年の男性だ。顎に蓄えられた白髭に彫りの深い顔。刻み込まれた皺は歩んできた戦場の数に等しいだろう。

人間側の軍、総大将クラディウス・レノアはため息をつかずにはいられない。否、ため息どころではない。人類の希望であり、最大戦力である勇者の神器が盗まれたのだ。勇者一人でも戦争に勝てるが、そもそも勇者がいなければ魔王の直属軍に勝てるはずがない。

その意見にその場にいる全員が同意なのか神妙な表情をしている。当の本人である勇者自身は放心したような表情を貼り付けている。


「い、いったい誰がこんな真似を!?」


焦った声を上げたのはゴルーグ中将だ。犯人を一番知っているはずなのは勇者と昨夜共にしていたゴルーグ本人だというのに。

「貴様がそれを言うのかゴルーグ!!昨夜勇者殿を泥酔させ、このような事態に陥ったのは貴様の責任だろう!むしろ勇者殿の神器に目を付け、あわよくば奪おうとすら画策していたのではなかろうな」

ゴルーグの向かいに座る同じく中将のベイドル中将は顔を赤くして糾弾する。


「な、馬鹿にするな!なぜ私がそんなことをせねばならぬ!」


次第にヒートアップしていく二人の会話をグラディウスが止める。


「やめないか。責任の擦り付け合いをしている場合ではない。今は神器がどこにあるのかを探すべきである。勇者殿、神器を奪ったものに心当たりは?」


グラディウスの質問から勇者はハッ現実に立ち返る。自分の神器を奪った者。

そんな者は一人しか考えられなかった。


「今朝から身辺を任せていたセバスという者が行方不明です。おそらくは・・・」


信じ始めていた・・・。その矢先に神器を奪われてしまった。また俺は騙されたのか?勇者は不安に押しつぶされそうになる。


「ならば、そのものの行方を内密に調べさせることにしよう。昨夜の出来事ならまだそう遠くには行っておらんはずだ!一刻も早くそのセバスという者を捉え、神器を取り戻すのだ」


グラディウスが使いの者にそう命令すると、数人が天幕の外へと消えていった。一先ずの方向性は決まった。今日予定していた魔王城の攻略はどう考えても延期になることだろう。しかしいつ再開するのか、撤退するのか、そういったものを話し合わなくてはいけない。将軍たちが再び頭を悩ませ始めたその時、遠くの方で爆発音が響いた。


「で、伝令ッ!!魔王軍が城を出て我が軍に突撃してきました!!」


最悪なタイミングでの敵襲だった。


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