第七話 宿の一夜
今回はギャグ気味です。
第七話 宿の一夜
「誰が、そっちだと言った。」
姉様の視線はあくまでベッドに座ろうとするカル爺の足下、脇の板張りの床。
渋々正座させられた爺さんいや、狒々じじいに仁王立ちで迫る姉様。
「爺さんの趣味については人としてどうかとは思うが、そこは相手もそれを生業として居るなら何も言うまい。だが嫌がる幼女に無理矢理しかも立場を利用して強要するのは許せん。しかもあんなに怯えさせて・・・。我はおぬしを見損ねた!男として、いや人として恥ずかしいとは思わぬか?申し開きがあるなら延べよ!」
「うむ、ここはわしが浅はかであった。冗談が過ぎたようであった。あの娘にも詫びを入れねばなるまい。女将そなたにもいらぬ迷惑を掛けたようじゃな、すまなんだ。」
「カルバドス様申し訳ありません。私共にとってあの娘は我が子も同じ。本来なら全てをなげうってでも守らねばと思っておりましたのに、私もどうかしておりました。死んだ娘の思い出にすがり、生きている娘を生け贄にするなど私は母親失格です。主人に言われて目が覚めました。私達はどのようなお叱りでも受けますのでこれ以上あの娘にはお手をあげないでくださいまし。伏してお願いします。」
ひざまずき頭を床にこすりつける勢いで懇願する女将。
しかしこの狒々じじいは目を背けながらとんでもないことを言った。
「それは出来ぬ相談じゃな。あれはわしが目を着けたんじゃ。他の誰にもわたさんし触れさせん。あれは全部儂の物にする。誰にも奪われんように、おわっ!」
一瞬のうちに襟首を掴みあげられて姉様の顔のすぐ近くまで引き寄せ、その瞳をのぞき込んで、聞き返します。
「きさま本気か?!」
ちっ、おかげで私のナイフが床に刺さった。本気で急所を狙いすぎたか。気付かれる前に回収しないと。
「いかにも。わしなら十分彼女を養えるし、それが最良だろう。」
「それを決めるのは貴様ではなく彼女だ。だがそれには彼女はまだ幼い。誰かがついていてやらねばならんのは分かるが、きさまはそのまま彼女をおもちゃにして連れ回す気か?」
「それも良かろう。わしが飽きるまで十分楽しませてもらうとしよう。」
無言で右手を振り抜こうとするお姉さま。
姫騎士と呼ばれ、戦時中でも素手で敵兵をなぎ倒してきたその右手、本当に当たっていればこんなじじいの息の根を止めることも出来ただろう。
『止めるです!老師もそんな嘘をへぶっ!!』
ちょうどジジイを庇う様に白い何かが割り込んできました。
止め損ねた右の平手をまともに食らって錐もみしながら壁に突き刺さる白い妖精(?)。
「・・・これは精霊じゃな。付喪神か?」
胸ぐらを掴まれたままのジジイと姉様、女将もあたしも呆然と壁にめり込んで何とか出ようともがいている3等身の少女を見つめる。
『あ、改めましてお初にお目にかか、掛かります自分は、元近衛部隊第37区画検疫所備品、登録番号586号多目的有害物質検出器「ケンチ君7号」であります。』
外見は獣人の子供。
白衣の下から覗くのは古代機獣文明時代の騎士服で下は布を撒いたような形のタイトスカートこの時代ではでは裾が短く奇異に見える。いまの女性は生足を出すのを嫌う。
要は女性軍服の上に白衣を着ている感じ。
足は短い体毛に覆われて獣人特有の〈かかと〉の無い足。
産毛の生えた長い耳。見事に赤タン青タンで腫れ上がって原型が分からない顔。
敬礼して報告(?)する精霊に痛々しい視線を送りながら注視する面々。
「すまない手を上げる気はなかったのだが、痛かったか?本当にすまぬ。」
あ、あ、あ、こんなに可愛い子に我はなんと言うことを・・・
精霊に触れたのは初めてだがこんなに小っちゃくて可愛いのにちゃんとうごいてお話も出来るとは。
ああかわいい。
触ってはいかんだろうか?
怪我の手当をしたいがどうすれば良いだろうか?
なあカル爺さんどうすれば良いだろうか?
・・・カル爺さんは首を絞めたまま抱きしめていたため気絶し掛かっていた。
「ゴホッ!本気で殺されるかと思ったぞ。まったく多少はクッションがあったが骨が当たっていたかったぞ。」
あわ、そう言えばさっき湯殿に行くために胸当ての類は外して居ったのじゃった。
カル爺さんの顔が直接、我の・・・あそこに?
(注:布越しです)
かぞくいがいのおとこがわたしのからだに・・・
(注:キィの親父が慣れないおむつ替えで体中触りまくったのは秘密です)
・・・は?
皆耳を押さえてびっくりしている。
いつの間にか胸を隠すように腕で胸元を押さえて座りこんでいた。
精霊ちゃんはベットに倒れて目を回していた。
あれ?なにが?
「コホン、爺さんこの子の傷を癒やしたいがどうすれば良い?」
「あ・・・ああ。おそらくそなたの魔力を分け与えてやれば良いと思うのじゃが。」
「うむ、やってみよう。」
ベッドの上で痙攣している精霊の子に震える手を伸ばす。
ああ、逃げないで、怖がらないで。
いつも動物に触ろうとすると逃げられたり攻撃してきたり、唯一撫でるのに成功したのは軍馬だけだった。
それでも触ると硬直してしばらく動けなくなるぐらい消耗してしまう。乗る分にはそれほどではないのに。
以前はかわいい物を愛でるのは威厳を損なうと我慢していたけど、もう良いよね、今のこの姿なら・・・
指先が触れると彼女も気が付いたのか体を起こしてこちらを向き指をにぎって来た。
『失礼したであります。自分のことはナナと呼んで欲しいであります。ひぎぃ!』
指先で火花が奔り、尻餅を着くナナちゃん。
「ご、ごめんネ、いたかったでちゅか?力の加減間違えちゃった。痛いとこは何処でちゅかぁ?」
『・・・子供扱いしないで欲しいであります!なりはこうでも人よりずっと、ずーっと年上であります!』
今の一瞬で顔の傷も消えて整った顔立ちの美少女がベッドの上に立ち抗議する。
何?このかわいいモノ。つい抱きしめそうになって、それを見たナナが怖れて頭を抱えてうずくまる。
ああ、怯える姿も・・・う、さっき連れ出した少女の姿が重なる。
カル爺さんの気持ちを理解してしまった。
恐る恐る背後をふり返って見る。
口を開けて呆然とこちらを見ているキィ、意地悪そうににやけているカル爺、かわいい物を見ているような暖かい目の女将。
あう、でもこんなチャンスは二度と無いかも。
ベッドに目を向けると頭を抱えたまま上目遣いでこちらを伺っていたナナちゃんと目が合った。
「怖がらせて済まぬ。あ、あの、少し撫でさせてはもらえんだろうか?嫌ならそう言ってくれて構わん。だめか?・・・」
しばらく迷っていたようだが意を決して立ち上がると我の目線まで飛び、逆に私の頭を撫でてくれた。
『構わないであります。自分に触れる人が居たので驚いただけであります。そんな置いてけぼりを喰らった子犬のような顔は貴女には似合わないであります。さあ、自分も撫でて欲しいでありますぅ!!』
思わず飛びつきそうになったところで背後からぼそりと小さな声が聞こえた。
「・・・じぶんもなでてほしいであります・・・・」
背筋に悪寒が奔る。
うん、聞かなかったことにする。
ゆっくりと頭に手を乗せて手を動かす。
目を細め気持ち良さげにしているナナちゃんが可愛くてだんだんい大胆になっていく・・・
『あ、あ、気持ちいいであります。あふ、そんな・・・・こ、これは、あふ、あふ・・・・』
首元からあごの下側背中へと撫でていく。
腰の辺りで白衣の間から子鹿のような純白の小さな尻尾が覗いているのに気付いた。
ホンの出来心ですごめんナナちゃん我慢できません。
『ちょ、そこはだめで、ああー!わあーいい、ぐぅー!・・・・かはっ、はぁはぁもう止めるですもう我慢できないです。』
息も絶え絶えと言った様子で尻尾を守るように仰向けに横たわる。
ぷるぷると震えているのを見るとついまた手を伸ばしてしまう。
『お腹はダメです!気持ちよすぎて、あふ、あう、あう、ああー!!』
着衣が乱れるのも構わず撫でていると、突然光り出しました。
しまったやり過ぎた?
『はあはあ、あれ?自分気絶して居たでありますか?失礼したであります。は?あわあわ・・・なんじゃこりゃあ!!』
ベッドの上で乱れた服を直そうとして気付いたようだ。
今ベットに横たわるのは人の子供ぐらいの背丈の妙齢の女性、容姿は昔の我にうり二つ。
背丈が合えばすり替わっても分からないぐらい似ている。
呆然としているナナ・・・さんにカル爺さんが近寄り簡単に診察する。
「どうやらシズカの魔力を取り込みすぎたようじゃ。さっきまではあの娘の力が勝って居ったから獣人の姿じゃったのじゃな。」
『そ、それじゃあ主どのが変わってしまったでありますか?』
泣きそうな顔でカル爺にすがりつく。
そんなに嫌か?我は歓迎するんじゃが。でも前の姿の方が可愛いのじゃ。
「ナナと言ったな、主は既に〈個〉として確立しておる。もはや自分の意思で考えれば良かろう。」
『良かったであります。自分はまだ主と居たいであります。自分はまだ主に何もしてあげられてないであります。』
ついまた頭を撫でてしまいます。こんどは抱き寄せて。ん?また少し背が伸びたかな。
『どうすれば元に戻れるでありますか?』
「自分が調整できるまで魔力を抜いていくしかあるまいまあこんどは吸い取る感じで撫でていけば戻るじゃろう。」
ちょっと意地悪そうな笑みでカル爺さんが答える。
また撫でて良いの?
つい同じような笑みを浮かべて両手をわきわきと・・・
ベッドの上でぐったりとする2頭身のナナちゃん、もはや赤ちゃんですよ。
『うー』
ごめん取りすぎちゃったまた戻すね。
『・・・自分の体を弄ぶのは止めて欲しいであります・・・』
結局明け方まで我が堪能するまで繰り返しなで回してしまった。
すまん、ナナ。この埋め合わせは必ずするから。
女将には早々に口止めをしてお引き取り願い、部屋には3人と一つ。
隣の部屋の二人はよく寝ているようで寝息が聞こえる。
大きなあくびをしつつ終わるまで待つ。
ベッドは占領されて居るので立ったままじゃ。
背後にはぶつぶつと何か言いながら珍しく殺気を出しておるキィが居るため外に出ることも出来ん。
「のう、キィさんやいくら盾の魔法が掛かっておるからと言っていい加減にナイフで切り付けるのを止めてくれんかのぅ。一張羅が台無しじゃ。」
少し長めになりましたが進展は次回に