5話:よろしくお願いします
ふわあ~。大きな欠伸をすると、眼をこする。
昨日は全然眠れなかった。
自分の言ったことがどれほど無知だったことか……。
「萌花~~!! セナが呼んでる!!」
「えっ!?」
ドアの方を見ると、あの整った顔がこちらを見ている。
私はまた気づかれないようにそろ~りとドアへ向かう。
しかし、やっぱりばれてしまうわけで……。
「あんた、何~!?」
「セナ様に気やすく近づいてんじゃないわよ!!」
など、罵声を浴びせられる。
しかし、やっぱり彼は気にも留めない感じでにこっと笑っている。
「裏庭行こう。ここはうるさいから」
「え、ええ」
教室から背を向けても、まだその声は聞こえ続けるのだった。
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「この前は……悪かった。心までブスとか言って」
セナは少し目を伏せながら、小さい声で呟いた。
こちらも少し渋い顔をしてしまう。
「うん……。こっちも悪かった。せっかく、グロス……つけてくれたのに」
「いや。僕が無神経な事をしたから」
「ううん。あの、またつけてくれる? グロス……」
「じゃあ……ミスコンで優勝したらね」
またにこっと微笑みながら、言った。
ミスコン……そうだった!! 昨日、あんなこと言っちゃったんだっけ。
私がまた渋い顔をしたのを分かったのか、彼はまた口を開く。
「大丈夫。絶対優勝させてあげるから」
その自信たっぷりの言葉に疑問を抱く。
「どうして、そんな自信たっぷりに言えるの? 前もグロスとか持ってたし…何者なの?」
そんな私の質問攻めに苦笑いをしながら、答えた。
「お母さん、フランス人なんだけど、モデルなんだ。それで、僕がマネージャーをやってて……。グロス持ってたのはたまたまだけどね」
「そう……。じゃあ、なんで私をいろいろ助けてくれるの?」
セナは少し困った顔をして、続けた。
「似てるんだ……」
「誰と?」
「僕の、初恋の子に」
聞いちゃ……いけなかったかな?
彼があまりにも悲しそうな顔をするので、そう思ってしまった。
すると、彼が私の心を読み取ったように続けた。
「いずれ、話すことだったし、聞いてくれてよかったよ」
「そう……。あの、本当にいいの? 私みたいなのが可愛くなれる?」
「うん。自信持たなきゃ」
「そうだよね。じゃあ、よろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
すると彼はくすっと笑った。
「何か、忘れてない?」
「えっ?」
「代償……キス」
わ、忘れてたー!!
あたふたしていた私に、また混乱するようなことを言う。
「前払い、しとく?」
耳元でそう囁く。
そして、意地悪な笑みを浮かべながら顔を近づけてくる。
「そういうのは、ちょっと……」
押しのけようとしても、ビクともしない。
わわっ~。ど、どうしよう!!
目を思わす閉じたとき、彼の唇が来ることは一向になかった。
代わりに額にキスをされた。
「焦りすぎ。顔真っ赤」
不敵な笑みを浮かべながら、耳元で囁かれる。
甘い声が耳朶をくすぐる。
ぼんっ。顔が一気に熱くなるのを覚えた。