32話:過去(紙切れ)
あれから2週間。
美奈はたびたび全身が凄く痛いと訴える事が多くなった。
病院に行こうと勧めたが、断固として行こうとしなかった。
「美奈。病院に言って治療してもらわないと……」
「どうせ、一か月だけしか生きられないんだしいいよ」
1ヶ月。もうそんなにないかもしれない。
不安で顔をしかめる。
途端、美奈がえづきだした。
「せ、セナ。く、くる、しい」
僕は急いで傍にあった洗面器をさしだした。
美奈は苦しそうに血を吐いた。
「やっぱり、病院に行かないと!!」
背中をさすりながら声を荒げた。
すると、美奈は振り向いた。
「の、残された時間を、びょ、病院で、過ごしたく、ないの」
そう言って、弱弱しく微笑む美奈をそっと強く抱き締めた。
「大丈夫。僕が守るから」
そう言っても、僕は無力で何もできるはずもなかった。
だけど、そう言ってあげるしかできなかったんだ。
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あれから1ヶ月が過ぎた。
しかし、美奈の容態に変化はなかった。
……だから、油断したのかもしれない。
『セナ君!? 美奈の容態が急変したの!!』
そう美奈の母から電話が掛かってきた。
頭が真っ白になった。失うかもしれない。
凄く、怖くなった。
『国立病院に居るわ!! 早く来てくれないと、み、美奈は……』
それ以上を聞きたくなかった。
美奈の母が言い終わらないうちに電話を切った。
それから急いで病院に向かった。
どうか、どうか、お願いだ。美奈を奪わないでくれ。
ただひたすらそれだけを願って。
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病院に着くと、急いで美奈の病室へ向かった。
しかし、そこには苦しそうな美奈はいなかった。
美奈は安らかに眠っていた。
「う、うぅ、み、美奈、ね、眠っているみたい、でしょ、う?」
「ど、どういう意味ですか? み、美奈は眠っているんですよね?」
信じたくなかった。
眠っていると言って欲しかった。
しかし、美奈の母は僕を睨みつけると、声を荒げた。
「こんな事言わせないでよ!! 美奈は……死んだのよ!!」
そう言って、美奈の母はすすり泣きをした。
僕は目の前が真っ白になった。死んだ……そう、死んだんだ。
「死んだ……」
足に力が入らず、ぺたりと座り込んだ。
ただ状況が掴めずにぼうっとしているしかなかった。
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それから1年後。
僕は毎日美奈の仏壇の前で手を合わせる。
今でも、美奈が死んだなんて信じられなかった。
「セナ君。これを……」
そう言って、美奈の母から差し出された紙切れ。
「実はね、美奈の部屋からこんなものが出てきてね。セナ君に読んで欲しいのよ」
美奈の母は弱弱しく微笑んだ。
そしてその紙切れを僕に渡した。
過去編は次回で終わりです。