30話:過去(小さな約束)
少し過去の話になりますが……
気付いた時には、彼女はいつも傍にいた。
微笑みかけると、彼女もにっこり笑い返してくれる。
それが、当たり前だった。
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僕がまだ6歳の頃。
今でも覚えているあの日の約束。
美奈の姉の結婚式で僕らは教会に来ていた。
「ねぇ、セナ。すっごい退屈だよ」
隣で美奈が欠伸をしながら言った。
「だめだよ。ちゃんと聞かなきゃ」
小声で美奈に耳打ちした。
美奈は僕の忠告を無視して続けた。
「そうだ、セナ。これが終わってみんなが居なくなったら、またここに来てよ」
きらきらと悪戯な瞳でそう言った。
「なんで?」
「なんでも」
そう言って、僕の肩にもたれかかり、美奈は寝てしまった。
僕もつられていつの間にか寝てしまった。
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真っ暗な教会は凄く不気味だった。
「セナ、こっちだよ!!」
静けさを可愛く幼い声が破った。
声のする方へ目を凝らしてみると、美奈が手招きしている。
「あのね、セナ。ここ立って」
そう言って、祭壇の前を指さしている。
僕は言われるがままにそこに立った。
「私ね、お姉ちゃんと一緒の事する。私がお嫁さんでセナがお婿さんね」
美奈はきらきらと瞳を輝かせている。
多分、うんと言わざるを得ないだろう。
「指輪の交換、とか言ってたよね?」
そう言って、美奈はポケットの中からきらきらと輝る指輪を取り出した。
「実はね、お父さんとお母さんから……盗ってきちゃった」
美奈は悪戯っぽくぺろっと舌を出した。
「だめだよ! ちゃんと返さなきゃ」
そう言ったが、美奈はにこにこと笑っている。
「大丈夫だって。ばれないから」
にこっと笑って、一つ指輪をセナに渡した。
そして美奈は自分の小さい手を差し出す。
僕はその小さい指にそっと指輪をはめた。
「誓いのキス、だよね?」
美奈は白い頬を少し赤らめながら言った。
僕は少しとまどいがちに口づけをした。
「私、大人になったらセナのお嫁さんになるね」
そう言って、美奈ははにかんでみせた。
そして小指を絡めた。
幼いころの、小さな約束。