9話:怒ってる?
「あの、天童君? もうちょっとゆっくり行かない?」
もうセナと私の距離は大分離れていた。
大声で叫ばないと届かないぐらいだ。
私の声は届いたみたいで、彼は後ろを振り返った。
汗ひとつかいていない顔をみると、無性に腹が立つ。
しかし、セナは自分のぺースに合わせてくれたのでほっと溜息をついた。
彼は私の隣につくと、溜息と共に言った。
「こんな遅いんじゃダメだね。ミスコン優勝も」
息切れ一つせず言うのも腹が立った。
「だ、だって……セ、ナさんがはやいん……だもん」
はぁはぁと息を立てながら、やっと言った。
そんな様子を少し気遣ってくれたのか、やっと止まってくれた。
「ふぅ、少し休憩しようか」
「はい!!」
休憩が嬉しくて思いっきり笑顔で返事してしまった。
そんな私をセナは怪訝そうに見つめた。
「休憩って言っても、1分だけだからね」
後付けのようにさらりと言う。
まじでスパルタだ。
お茶を飲みながらセナを思いっきり睨んだ。
「今の萌花、凄く恐いよ。あ、お茶頂戴」
「はい」
「あれ、間接チューとか気にならないの?」
「……別に」
別に気にならなかった訳でもない。
そう思って、また続けた。
「あなたも喉が渇いてると思って」
「ふーん」
セナは気のない返事をして、またお茶を飲んだ
そして、気付いたようにまた言う。
「じゃあ、代償も気にならないとか?」
「ま、まあね」
真っ赤な嘘だ。
キスなんかしたことないのに、緊張するにきまってる。
「ふーん……。でもそれって、なんだかむかつくね」
そう言って、無愛想にお茶を返した。
あれ? 何か……怒ってる?
しかし、またにっこり笑って言った。
「それじゃ、続き行こうか」
そう言って、さっきよりも早いスピードで走っていく。
すぐについていけなくなった私は止まってと叫んだ。
しかし、彼は聞こえないのかそれとも無視したのか、そのまま走って行った。
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「ねぇ……萌花ちゃん、何かしたの?」
ひそっとレアは耳打ちした。
「え? 何が?」
「セナ、超怒ってるわよ」
いつもと変わりのない様子だったので、怒ってるなんて全然分からなかった。
そんな私の様子を察したのか、教えてくれた。
「セナって怒ってるとき、首元をさするの。回数が多いほど、それほど怒ってるって証拠よ」
確かに。
セナはずっと首の辺りをさすっている。
いや……叩いてる感じだ。
さっきから、ずっとテレビを見ていたセナはいきなり口を開いた。
「用事があるからもう行く。じゃあね」
そう素っ気なく言って部屋を出た。
その様子に思わずレアと私は顔を見合わせた。
「やっぱりあなた、何かした? あんな怒ってるとこ、初めて見たんだけど」
「……分かんない」
そうぼそっと呟くと、私も少し機嫌が悪くなった。




