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RYO-age 18  作者: らくだ
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学校に行けなァイ!

 オヤジにマンションを追い出された僕は、例に倣って原宿の街にCBを駆り立てた。ジャケットを置いてきたのは正解だった。日が暮れてから、いっそう蒸し暑くなってきている。

 この街で若い女の子に適当に声をかけようと考えていたが、時刻は午後七時、原宿も潮のひくのが早い街だ、若い娘どころか、人影も薄い。

 僕は原宿を諦め浜のほうまで行ってみようかと考えながら、近くの軽食店の前まで来たところで、僕の視線はその店の入り口で一人立っている女の子を捉えた。僕は店の向かいの路地にCBを停め、遠くから女の子を観察した。少し赤みがかったブリーチのショートヘアに端正な顔立ち、目尻はやや釣り上がっていてキツめだが、そこが魅力的でもある。それに青のタンクトップにミニ・スカートという刺激的な衣装が僕の目を惹いた。レースアップのサンダルがやけに似合っている。

 見たところ二十歳くらいか、化粧を落とすと、もっと若いかもしれない。

 僕は青いグラサンを掛け、さっそく道路を横断し、彼女の前に立ち声をかける。

「お姐さん、こんにちは」

「あんた誰?」

 お姐さんは、見た目どおりクールな口調で訊いてきた。別に警戒した様子はない。

「僕は亮。一人で居ても暇だったから声かけてみたの。お姐さん、お連れさんは?」

「いないわ。なんで?」

「晩御飯、僕が奢りましょうか?」

「それで口説いてるつもり?」

「イエ〜ス」

「ガキンチョ」

「あいたたた」

 僕はグラサンをはずしてオーバー・リアクションでよろめいた。

「あれ、意外とカワイイ顔してるね君」

 彼女は僕の顔を見て食いついてきた。

 こうなればしめたもので、僕はグラサンをジーンズのポケットに挟み、背を伸ばして言った。

「食事の後に、バイクでドライブなんていかがでしょう」

「ふふ、いいわ。じゃあ奢ってよ」

「はいな〜」

 それから僕達は店で食事をとり終えると、CBに跨って横浜までぶっ飛び、そこから海沿いに浜松まで走りぬいた。

「涼し〜」

 彼女はメットを脱ぎ、髪を潮風にさらしてはしゃいだ。

 僕は海の見えるモーテルの前でバイクを停め、ポートから夜景を眺めた。

 姐さんは僕の前に立ち、セーラムに火を咥えた。僕はすかさずその背後から手を伸ばしてジッポの火を差し出す。

「ありがと」

 彼女は言って火をうつし、フッと煙を吐いた。

 僕はそのまま自分のマイルドセブンに火をうつし、パチンと蓋を閉じてポケットにしまった。

「亮、あんたイカしてるよ」

 姐さんは僕を振り返り、微笑みかけた。こうして並んでみると、彼女がかなり長身だと分かる。踵の高いサンダルを履いているせいもあるが、頭の位置は僕とそれほど変わらない。それに、思ったよりスタイルがいい。

 僕も笑みを返し、言ってみた。

「ねえ、これから暇?」

「まあ、暇かな?」

「なら、これから二人で楽しいことしようよ」

 僕が言うと、彼女は悪戯っぽい表情で返してきた。

「ナニかな、楽しいことって」

「ぷあぷあ〜」

「バカ」

 彼女は笑って僕を小突いた。

「でも、別にいいよ、アタシ一人暮らしだし。ウチに来る?」

「ワンワンッ」

 喜びの鳴き声。

「犬みたい」

「くぅ〜ん、くぅ〜ん」

 僕は犬のマネをしていて、自分で『キモッ!』と叫びたくなった。女を一人おとすには、これぐらい自分を下げないといけない。が、もう大詰めだ。

「じゃあ行こうか。案内してよ」

 僕はフル・フェースを被ってCBに跨った。

 姐さんがケツに跨る感触を確かめると、僕はバイクを発進させた。

「どちらまで?」

「吉祥寺のほう」

「あいあいさ〜」

 彼女に言われるまま、僕はバイクを走らせた。


 姐さんの自宅は、吉祥寺の人気のない小さなマンションの五階にあった。表札には『南』と書かれている。

 2LDKの部屋の中は、正直今時の女の子らしくない、整然と家具が配置された部屋だった。まあ、僕はそのほうがいいんだけど。

 ともかく二時間ほどで用を済ませた僕達は、ただベッドの上で寝そべっていた。

 僕が横に寝ている姐さんを見やると、彼女は裸のままシーツを抱き込んで寝息を立てている。暗がりでよくは見えないが、やはり素顔はとても幼い。

 僕はもう一度シャワーを浴びたくなり、そっと立ち上がって、服をもってバス・ルームに行き、ヌルめのシャワーを浴びてから、タオルを一枚拝借し、それで水気を拭き取って服を着た。

 僕は寝室には戻らず、ソファに腰掛けて濡れ髪をタオルで拭いていた。と、突然ポケットの中のケイタイがバイブした。部屋の時計を見ると、ただいま深夜の二時。こんな時間に電話をかけてくるのは……

「もしもし?」

『亮か、俺だ』

 龍之介オヤジ。

「なにさ?」

『今どこだ?』

「ホテルの中」

『ウソつけ』

「ウソ、知らない女の子の部屋の中」

『なるほど。やるな、お前も』

「そんなことを言いに電話したの?」

『まさか。今戻ってこれるか? 仕事の話しだ』

「今から?」

『ハッスル中か?』

「いんにゃ」

 でもハッスルが済んで眠たいんですけど……。

『じゃあ戻って来い。待ってる』

 言い終わると、オヤジは電源を切った。

 僕は溜息をつくと、ケイタイをしまい、近くに落ちていたチラシの裏に自分のメール・アドレスを書き込み、『またドライブしたくなったらメールして』と残し、眠い目を擦ってマンションを出た。

 仕事の話しとなると、どうせ朝まで続くことだろう。

 はぁ……これじゃ、明日も眠くて学校に行けなさそう。

 

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