第1話 君は星。いつも輝いている。
木漏れ日の家。
君は星。いつも輝いている。
ずっと忘れていたことがあった。なにかに夢中になること。なにかに夢中になって、とっても楽しいって思うこと。(まるで小さな子供のときみたいに)そんな大切なことを僕はずっと、ずっと忘れていたんだった。
「鼻血が出るまで頑張らなくてもいいのに」
くすくすと笑いながら(なんだか楽しそうな顔をして)淡の横にお邪魔しますって言って座りながら恋は言った。
「別に頑張りすぎたわけじゃないよ。最近、本当にあんまり体を動かしていなかったから、久しぶりにたくさん動いて、体がびっくりして、それで鼻血が出ただけだよ。別に疲れてないし、どちらかと言うとすごく調子がいいんだ。いっぱい体を動かしてなんだかとっても気持ちいいし、心も体も、『木漏れ日の家』にくる前よりも、とても良くなったみたいなきがする」
真っ赤になってしまったティッシュを鼻にくっつけている淡が子供みたいな顔をして笑って言った。
「悪い血や古い血が出て良くなったってこと? でもやっぱり痛そうだけどな」
恋は淡の赤い血に染まった鼻に詰めているテッシュを見ている。
もう鼻血は止まっているみたいだったけど、それは何回か交換したテッシュで、けっこういっぱい血は出ていたみたいだった。
「そんな感じだと思う。本当に調子が悪くてってこともあるから、別に無理をするつもりはないし、そのときはちゃんと休むけど、今はそうじゃない。たぶんそうなんだと思う。なんだか『体のさび』までとれていくみたいだよ。なんだか生まれ変わったみたい」
「心配だけど、まあ、確かにすごくいい顔になったよね。淡くん。はじめて会ったときは、なんか『半分死んでいるみたい』な顔したたもん。あんまり笑わないし、元気もなかったしさ」
恋は笑う。
たしかにそんな顔をしていたのかもしれないと淡は思った。(そのときの自分はそんなことを思っていなかったけど、そうだったんだろうって思った。もしかしたら本当に半分くらい死んでいたのかもしれない)
淡にとって森の中にある小さなレストラン木漏れ日の家は現実そのものだった。どこよりも現実がはっきりとしていた。(色も声も匂い味もなにもかも)そこには居場所があって、会いたい人がいて、やるべきことがあって、そして……、やりたいことがあった。(つまり、全部が小さなお店の中にあったのだった)
僕はきっと『再生』するために、木漏れ日の家にたどり着いたんだと淡は思った。
大きな大きな海を漂う小さな浮木がどこかの小島の白い浜辺に流されてたどり着いて、そこでその島で暮らしいている小さな子供に面白がって拾われるみたいに。
きっと運命に導かれるようにして、あるいは神様に救われるみたいにして、木漏れ日の家の古い木の扉を叩いたんだって思った。
それは、『きっと本当にそうなんだ』って、まだ心も体も自分の全部が真っ赤になって火照ったままになっている、すごく忙しかったディナーの時間の終わりの休憩時間に、街の中では見ることができないような、美しい満天の星空を木漏れ日の家の外にある小さな木の階段のところに座って涼しい森の中に吹く風の中で熱を冷ますようにながら、そんな瞳の中にたくさんの光が飛び込んでくるみたいな星空を恋と一緒に眺めながら、そんなことを淡は思っていた。(淡はいつの間にかなんだかとっても嬉しい気持ちになって、自分でも気がつかないうちに笑顔になっていた)
そっと恋が淡の手を握った。
その手を淡も優しく握り返した。
夜空では砂をまいたようなたくさんの小さな星がとても美しく輝いている。
美しい星空の夜。
とても幸せな夜だと思った。




