<第一章:農家編>第6話 農家、スキル禁止令をくらう
二度目の水没から三日。
貯水池の水位はすっかり落ち着いていた。
水城教官と協会の調査隊が、貯水池の一角にぽっかりと開いたダンジョン入口を見つめている。
「……見てください、この状態」
調査隊員が声を潜めて言った。
ダンジョン内部は水没したはずなのに、ほとんど水がなくなっていた。
まるで水が魔素に吸収されたかのように、空洞だけがぽっかりと口を開けている。
「これが……ダンジョンの魔素による吸収作用か」
水城教官が眉間に皺を寄せた。
協会の分析によれば、今回沈めたダンジョンは中のモンスターもボスも完全討伐されており、魔素もほぼ使い切っている。
つまり、復活までに最低でも一年はかかるということだった。
俺はぽかんと口を開けた。
「ということは、もう一年は安心ってことですよね?」
水城教官は冷たい視線で俺を見つめた。
「……いや、問題はそこじゃない。
あなたのスキル《農家の慈愛》をダンジョン外で使うのは禁止にする。
もし許可なく使ったら――」
俺は苦笑いしながら言った。
「鍬で殴られるんですよね?」
水城教官は怒りを抑えながら頷いた。
「あなたのスキルは災害レベルなのよ。畑の水やりで村が水没しそうになるなんて、常識外れもいいところよ。コントロールの危ういうちは絶対禁止!」
横でレイカが口を挟む。
「ほら、ちゃんと協会のルール守りなさいよ。無茶はだめ」
「でも、水は命だから…」
「それが問題なの!」
こうして俺は、農家でありながら農業スキルの外部使用禁止令を受け、静かに暮らすことになった。
とはいえ、この禁令がまた次の騒動の始まりになるのだが……。
次回、第二のダンジョン登場です。