<第一章:農家編>第5話 農家、二度目の水攻め
ザーッ!という豪雨の中、水城教官が必死に叫んでいる。
「拓海! 今すぐそのスコップを置けぇぇぇ!」
「え!? でも作物には水が――」
「作物はいいから! 村が流されるわ!」
しかしその雨は、不思議なことに山の斜面から貯水池へ集中して流れ込んでいた。
そして――またしても取水口の奥のダンジョンへ、滝のように吸い込まれていく。
隊員A「教官! 水が全部……ダンジョンに入ってます!」
隊員B「村の方には一滴も行ってません!」
水城「……は?」
つまりこうだ。
俺が呼んだ雨は、まるで意思を持っているかのように、村を避けてダンジョンを水没させた。
結果、村は浸水を免れたが――
「……これじゃ調査できないわね」
水城教官が額を押さえる。
「ダンジョンの中、また満水。潜水艇でも呼ばないと調査できないわ」
俺「お役に立てて嬉しいです」
水城「いや、役立ってるけどそうじゃないのよ!」
そして翌日。
村の雑貨屋の前で、俺は幼馴染の古城レイカとばったり出くわした。
腰まである黒髪を一つにまとめた、剣道仕込みのキリッとした目を持つ女。
ただし今は、両手に野菜の袋を抱えて俺を睨んでいた。
「……あんた、ダンジョン沈めたってほんと?」
「え、まぁ……雨降らせたら勝手に」
「勝手にで済むわけないでしょ! ニュースで『二日連続・ダンジョン水没』って全国放送されてたわよ!」
「いやぁ……農業って水が命だから」
「その命の水でダンジョン潰すな!」
近所のおばちゃんが通りがかり、
「拓海くん、ありがとねぇ〜。おかげで村が助かったわぁ」
と言って去っていく。
レイカはため息をつきながらも、わずかに頬を赤くして呟いた。
「……まぁ、村を守ったのは偉いけど……」
「え、褒めた?」
「褒めてない!」
ツンデレヒロイン登場です。