第4話 レイカの訓練
主人公視点ではなくヒロイン視点回です。
午前の戦闘訓練場。
私は手にした木剣を構えながら、視線だけは別の場所を追っていた。
――拓海。
今日も短髪の男子に挑んで、そしてまた倒されている。
前よりは防いでいるけど、それでも顔や腕に新しい打撲が増えているのが見える。
あの相手、本当に容赦ない。いや、訓練だから仕方ないけど……。
でも、私が気になるのはそこじゃない。
戦闘が終わると、拓海はいつも水城教官のところへ真っ直ぐ行く。
何やら真剣に話し込んで、あの人は時々、ほんの少しだけ笑う。
(……なによ、あの距離感。私だってそんな顔、見たことないのに)
胸の奥でぐつぐつとした感情が煮えていく。
別に拓海は私のものってわけじゃない。でも……いや、やっぱり気に入らない。
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「おい、レイカ。お前の番だ」
相手役の女子に呼ばれ、私は慌てて構えを整えた。
戦闘は得意じゃないけれど、魔力制御はだいぶ安定してきた。
そして午後――いよいよ私のメイン、スキル訓練の時間。
「レイカ、お前は召喚系だな。発動範囲を覚えておけ」
「はい!」
私の覚醒スキル【階層召喚】は、その階層にいるモンスターをランダムで呼び出し、使役できる。
……ただし、どんなモンスターが来るかは完全に運だ。
魔方陣を展開し、魔力を流し込む。
光が弾け、現れたのは――小型のスライム。
「よし、これは当たりだな。制御を続けろ」
教官の声に従い、私はスライムを動かす。命令すれば跳ねたり、転がったりする。
二回目。
現れたのは……牙を剥いた狼型モンスター。
「きゃっ……!」
魔力の繋がりを強く意識して、なんとか暴走を抑え込む。
制御が途切れれば、即座にこちらへ襲いかかってくる。
召喚系は“呼び出すだけ”じゃない。従わせるまでが一苦労だ。
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訓練後、片隅で雨を降らせたり晴れさせたりしている拓海の姿が目に入った。
あの真剣な横顔は、午前の戦闘よりずっと強そうに見える。
だけど……どうしてそんなに一人で頑張ろうとするの。
(……私だって、隣に立ちたいのに。あの教官じゃなくて、私と並んでほしいのに)
胸の奥のもやもやは、ヤキモチと、置いて行かれる不安と――そして、いつか並んで戦いたいという願いだった。
次回、適正武器が決まります。