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第1話 農家、入学する

農家の長男・高山拓海は、平凡な日常の中で突然、村の貯水池に現れたダンジョンと遭遇した。農業の知識を活かし、ダンジョンを大量の水で水没させるという前代未聞の方法で、世界初のSSSランクダンジョン完全攻略を成し遂げる。


しかし、未知なる力に目覚めた拓海の旅はまだ始まったばかり。ダンジョンの秘密と新たな脅威が、彼と幼馴染のレイカを待ち受ける——。



瀬戸内の海風って、もっと爽やかなもんだと思ってた。

 実際は湿気をたっぷり吸い込んだ蒸しタオルみたいな風が、じわじわと体にまとわりつく。


 俺――高山拓海は、その風に押されるように、コンクリート塀と有刺鉄線に囲まれた門の前に立っていた。

 門の上には、無駄に立派な金属プレート。


自衛隊 岩国駐屯地 覚醒者訓練校


「……本当に来ちゃったな」

「なにそれ。嫌なら帰れば?」

 隣でポニーテールを揺らす幼馴染――古城レイカは、いつもの強気な声で言い放つ。

 でも俺は知っている。こいつが“村を守るため”と言いつつ、本音は別にあるってことを。


 軽口を叩いていたその時――


 ギィ、と金属音を立てて門が開いた。

 現れたのは、深緑の訓練服を纏った女性。黒髪を後ろでまとめ、鋭い目をしている。

 胸元の名札には、こう刻まれていた。


水城 沙織 教官


「高山拓海、古城レイカ。……よく来たわね」

 低く通る声。言葉よりも、その視線だけで背筋が自然に伸びる。

 まるで稲刈り前に田んぼを見回る祖父の視線に似ている……いや、もっと怖い。


「今日から三ヶ月、あなたたちのステータスは“私の手”で制御されます」

「制御って……どうやって――」

 言い終える前に、水城教官が俺の腕に軽く触れた。


 ……ん? ちょっと体が重くなった気はするけど、それだけだ。

 田植え後に長靴に泥が少し入った、くらいの鈍さ。


「え?」と首をかしげる俺に、水城教官が片眉を上げた。

「……おかしいわね。普通はこれだけで一般人レベルになるはずだけど」

 背後から「え、マジ?」「触られただけで膝から崩れたのに……」という訓練生たちのひそひそ声が聞こえる。


「高山の場合、半減にするには最低でも一分は触れ続けないと無理ね。……ふむ、十倍の十分快なら一般人レベルまで落とせるか」

「いやいや、十分快って……試すなよ?」

 俺が後ずさると、水城教官の口元にわずかな笑みが浮かぶ。

 その“余裕の笑み”がやけに挑発的に見えて、レイカが一歩前に出た。


「……あんまり、長く触らないでくれます?」

「ふふ、嫉妬?」

「なっ、ち、違……!」

 レイカの耳が真っ赤になる。

 俺はすでに、この三ヶ月の訓練が戦闘より精神的にきついんじゃないかと確信していた。


 訓練校の敷地に足を踏み入れると、真新しい平屋の校舎と、奥には土の匂いが漂う広い訓練場が広がっていた。

 そこかしこで、迷彩服姿の男たちが走り込みや模擬戦をしている。


「午前中は座学。午後は基礎体力と武器訓練。まずは教室へ案内するわ」

 水城教官に続いて教室棟に入ると、すでに十数人が席についていた。

 半分は迷彩服の男たち。残りは、俺たちのような私服や軽装の一般覚醒者だ。


「おい、新入りだ」

 奥の席から、ガタイのいい短髪の男が俺たちを値踏みするように見てきた。

 隣のスキンヘッドもニヤリと笑う。


「へぇ、女連れかよ。……後で混ざってやるよ、訓練にな」

 嫌な笑い方をしている。

 ああ、こういうタイプは村にもたまにいる。相手にすると面倒くさいから、まずはスルーが正解だ。


「座って」

 水城教官の一言で、その場の空気がピタリと止まった。

 俺たちは空いている前方の席に座り、午前の座学が始まろうとしていた――。

第二章、訓練校編スタートです。

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