第10話 農家、炎竜人と戦う
「炎竜人!? 属性から考えても水没ダンジョンから転移してきた可能性が高そうだな……」
秋山リーダーが槍を構えながら唸った。
炎竜人は低く唸り、赤い瞳を光らせた。
だが、ここはCランクダンジョン。魔素は少ない。
奴の魔力はまだ完全には回復していないらしい。
「今のうちに討つぞ!」
秋山が号令をかける。
俺も拳を握りしめるが――
数秒後、現実を思い知らされた。
Cランクパーティの攻撃は炎竜人の硬い鱗に弾かれ、傷一つ付けられない。
俺はというと、素人丸出しの動きで拳が全く当たらない。
「くそっ……!」
頭の片隅でスキル「天候操作」のことが浮かぶ。
雨を降らせて動きを鈍らせられるかもしれない。
だが――
「やめろ高山! 制御できなきゃ、俺たちも溺れるぞ!」
秋山の一喝で思考が止まる。
その時、後衛のカナが叫んだ。
「ねぇ、地形操作で“畑”作れない? 柔らかい土で足場を悪くして、こっちは氷魔法で固める!」
なるほど、それなら安全に動きを封じられる……はずだ。
「よし、やってみる!」
俺はスキルを発動――
――ボコッ、ズズズズズッ……!
結果、10層のボス部屋すべてがふかふかの黒土に変わった。
炎竜人も、パーティ全員も、腰までズッポリ。
「お、おい……っ、なんで私まで埋まってるのよ!」
レイカが怒鳴り、ミズキが青ざめた。
「やばい! これじゃ私たちまで動けない!」
だが、俺だけは平然と土を蹴って炎竜人へ突進する。
「足場なんて関係ねぇ!」
鋭い拳が、鈍った炎竜人の腹部にめり込む。
「ぐあああああっ!」
炎竜人の巨体が宙を舞い、そのまま壁に激突し、動かなくなった。
その余波で、すぐ横にいた正規のCランクボスもまとめて吹き飛び、沈黙。
「……倒した?」
「……倒したな」
戦場に、妙な静けさと黒土の匂いだけが残った。
次回、一章ラストです。