第6話 最後のタイムリープ
ベットで目が覚め、それから3時間ほどボーっとして頭が冴えるのを待つ。
ふと思った。まだもう一人、元妻の後悔があった。
元ツマ ↓
彼女はボンちゃんと同じく八方美人タイプで結婚するまでの半年間ハラハラドキドキ、男性からのアタックがあるたびに安心できなかったことも多かった。
性格が悪いわけではなかった。それゆえ早く安心したいと結婚を早めた。
今の妻とはバツイチで結婚しているので別人であり、美男美女の多い芸能界で仕事をしているだけあって、元妻と違い八方美人で気楽に男性の誘いに乗るという事は決してないので、寧ろ安心できている。
他の男性と食事にでも行ってパパラッチされても大変という事で、一般人より警戒心が非常に強いのが現在の愛妻である。
さて、元妻との離婚の原因はよくわからず、いきなり「離婚したい」と机の上に手紙が乗せられていて、そんな気持ちでは結婚生活は維持できないと同意して離婚した。
後に彼女の趣味とは言えないゲームの会合やらがあったなぁと思い出し、八方美人タイプの女性のNTRっぽい雰囲気を感じてかなり凹んでしまって僕の恋愛観は『一途な娘』一択となった。
せっかくタイムリープが使えるのだから元妻の件も後悔を無くそうと実施した。付き合う前に飛んで、徹底的に「僕は恋人はいらない」と彼女に吹聴した。
これで僕が告白しても「あなたの気の迷い」だとか、「あなた以前言ってたよね、言葉が軽い」等々反論されてオツケイ、無問題であろう。意外と付き合う前に”彼女要らない”宣言をすれば有言実行を好む女性には効果てきめん、と思う次第だ。
二連発で八方美人タイプの女性とNTRっぽい別れをしたので、恋愛観は変わって、一途の女性を求めるようになった僕。
数回の恋を経てから、女優である今の妻に至るわけだが、芸能人というのは実力がないのに騒がれるグループと、実力があるのにそんなに持ち上げられないグループにはっきり分かれる。
色々と大人の事情があるわけだが、我が愛妻は実力グループである。スタッフ、局員、多々男性が近寄ってきても無碍にするので持ち上げられずに実力のみで生き残っている。
さて無事にタイムリープから帰ってきたわけだが、思い起こせば僕のタイムリープは小説・アニメ・ドラマ他で紹介されてきたタイムリープ物と少し違うような気がする。
まずいことに身体の薄まりが半端なく、よく観れば半透明に近いほどだ。
自分自身を観察し続けて半日、今日は妻も仕事で東京に出かけているので妻に身体を観てもらって感想を聞くわけにもいかない。
体がふらつき、目眩もする。
椅子に腰かけると体が動かず持ちあがれない。ベットで目覚めてからすでに6時間以上は経っているのに眠気が酷い。
ベットに戻って仮眠をとることにしよう。
★★★★★
目が覚めると夜になっていた。
隣で妻が寝ているので深夜になっているみたいだ。なぜか彼女は泣いている。すすり泣きではなく号泣に近い。
どうかしたのか、と心配して愛妻の肩を触ろうとしてビックリした。
なんでか僕の手が素通りする。
「む……」
壁を触ってみた。微かな抵抗を感じた。
扉はなんとか開けれたし、人間の肌感覚には影響を与えず、無機物には何とか触れられるといった感じなのか、考察を繰り返さないとマズい展開だと冷や汗をかいた。
何が出来て、何が出来ないのか、心霊現象の秘密みたいなものを解き明かしてしまうのか、僕の思考が科学的っぽく見えるが、実はテキトーだという自覚もあり、やや冷静さに欠けている。
自己を統制できないことって、かなり深刻なのではなかろうか、と焦る気持ちも芽生えた。
愛する妻を再度観察してみた。号泣がやんでいない。
悲しみや怒りというのは30分ほどしか持続しないという知識があるので、様子を引き続き観てみるが、嗚咽の中で声がしない。
この妻の様子って愛する人が死んだりしたケースじゃない?