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第3話 愛する彼女と爽やかに別れる

 彼女に手を上げず成功したタイムリープ。相変わらず朝は気怠く頭のめぐりが悪い。頭が冴えて思考が戻ってくるのに3時間はかかっている。


 頭の中にはタイムリープのバタフライエフェクトは発生しておらず、恵子さんと新たな展開があったりなどの記憶の挿入もなかった。


 自分の後悔の解消が目的とは言え、相手にも何らかの好い影響を与えていると良いなと期待はしている。しかし時が流れすぎていてこれぞといった効果は把握できていなかった。


 彼女たちに何らかの影響は出たのだろうか?幸せになってはいるのだろうか?


 というより現在なら僕のことは覚えてもいないだろうし、ラブコメの王道である再会して云々というのも後悔の出来事が昔過ぎて今更感がさく裂しているよな。


 故郷で偶然ホームセンターなどで出会ってもお互い顔が分からないよね、多分。しみじみだ。


 とはいえ自分の自己満足であるのは承知の上、次にタイムリープをするのは大学時代だ。


 同科、同級生の清楚で真面目、頑張り屋の彼女に1年生時から惚れられて付き合い始めた。名を加奈子さんという。


挿絵(By みてみん)


 彼女は僕と一緒で初めて同士だった。最後まで行くという性的な経験がなく、まさにウブといった出だしだった。


 そして恋人になって3年経つうちに「こんな可愛い彼女に惚れられている僕すごい」という思春期の終わりに近い男性的な我儘が増長してしまって、いかにも簡単に僕は調子に乗ってしまった。


 増長はますますエスカレートし、可愛い彼女に冷たいことを常に浴びせたりした。すぐに別れようと言ったり、その言葉に傷ついた彼女が可愛く感じて更に傷つけまくるという悪循環。


 キングオブカス男と化していた。


 結果、我慢の限界を超えた彼女に別離宣言をされるにいたる。


 そもそもの最後のきっかけは、彼女に恋する他の男子学生が出てきたことから始まった。


 僕は言う。「あいつと付き合ってもいいんじゃないか?」と。


 他の男性に触れた言葉に彼女がすごく悲しそうな顔をし、目から涙が出そうな状態を観て「可愛い、可愛すぎる」と思ってしまったのが癖になってしまったのだと思い返す。


 繰り返すが、これこそまさに後悔の念の塊である。


 対処として、まず考えたのは、彼女を傷つける前に別れるということだった。出来れば肌を触れ合わす前にしよう。


 くどいようだが、僕の初めてが彼女であった。「僕のことが好きなら出来るよね?」という脅迫みたいなセリフで初夜が過ぎた。


 こうなる前に彼女と別れ、僕では叶えられなかった幸せを祈りたいと思う。


 肉体的接近の時期を思い返す。


 それは付き合って3か月ごろが過ぎたあたりだった。


 喫茶店で「僕のことが本当に好きであるなら、エッチしよう」と宣言してイヤイヤっぽくではあったが彼女がうなずいたので、自分のアパートに連れて行った。


 いちゃいちゃしながら最後まで行くという経緯だった。


 その喫茶店で、宣言せずに何もせずに、恋人という立場をなくして、別れるという目標を立てた。


 いつも通りのピンポイントな時間にタイムリープした。


 喫茶店で彼女を待つ。

 少し遅れて彼女が着た。


 何かの拍子に彼女の悲しむ様子が見たくて脅迫めいたセリフを若き僕の精神の影響で言ってしまうから、くれぐれも傷つけるようなセリフを吐かないよう気をつけたい。


 いや、気をつけるも何も、真剣に考えて何も言わなきゃいいのだ。


 そもそも、こんな風になったキッカケは何だったのだろう、詳細だけは記憶にないんだよね、これが。


 強いて詳細をあげれば、男子学生が彼女に惚れて、僕にその件を告白してきた。


「そ、その、お人形さんみたいな加奈子さんに告白したら、上手く行くかな?」とあろうことか僕に頼ってきた。


 その男子学生とは実験で一緒になったことがあり、もちろん加奈子さんも一緒だった。それで顔見知りになり会話をしたから、一目惚れみたいになったのだと教えてくれた。


「すまん、その娘、加奈子さんは僕の彼女だよ、恋人として付き合ってるんだ」と教えたところ、彼が真っ青になって狂乱のごとく振舞った。


 好きな子を友人に相談したら、その友人が彼氏で、速攻で失恋したという悲劇が彼を襲い、冷静ではなくしてしまったようだ。


 特に彼は、壁に頭を打ち付けるという異常な行動を示した。


 その異常行動から、自殺に及ぶ恐れがあるのでは?と考えた僕は、後に心理学の教授に相談したりした。


 いずれにしても当時は無知ながら対策・対処を考え、些細なことは置いておき、そんなに彼は真剣に彼女のことを好きだったのかと察し、驚きつつも、僕は友情をとって身を引くか、彼女をとるか、真剣に悩んだ。


 彼女が大切なのは言うまでもないのに、妙に男気が出てきたりする僕は、友情の大切さ何てのも口に出して親身になったつもりで彼と会話を続けていた。


 大人になってから分かったが、これはもう放置一択が最適解だった。


 僕にとって変に作用したその反動が、歪に彼ではなく加奈子さんの方に向かって出てしまい、彼女を大切にするどころか傷つけまくるという言動に走ってしまったと反省時代に思い至った。


 つまり、愚かすぎる僕の黒歴史であったとしか言いようがない。


……という彼女との昔を思い出しながら、喫茶店で5分ほど待った頃だった。加奈子さんが「お待たせ」と可愛らしく登場した。


 確かに色白でお人形さんみたいな、腰がくびれてスタイル抜群な姿に、ああ、素敵な女性だったんだよなとしみじみ哀愁を漂わせてしまう。


 しばらく雑談した後で僕は覚悟して話し始めた。


「なぁ加奈ちゃん、僕たち相性が悪いと思うんだ。それに僕は後輩から告白されてね。その子の方が好いように感じていてさ、色々と好きというか愛情が安定しないんだ。こんな気持ちで付き合うのは加奈ちゃんにも失礼だし、ごめんだけどお付き合いするのやめよう」


「えっ」


 もちろん後輩からの告白は嘘であるし、クズ男を演じていた。


 加奈子さんには思いっきり惚れている。それゆえ様々な結果が僕の後悔となっており、相当な年月が足かせのごとく前に進むのを止めさせていた。馬鹿をやって、大切な人を失い、後悔を何年も続けた。


 失敗から学ぶという思春期の通過儀礼というやつであった。


 彼女との幸せな結婚というのも、キスもしていない初期の頃に出るほど精神的な惚れ込みようはお互いにあったと思う。


「相性が悪い、付き合うのをやめよう」こんな内容では彼女は到底納得いくはずもなく、混乱しながら悲しい顔をするだけであった。


 以前の僕ではなく、おっさんになった精神の僕の顔は、こんな辛いことを宣言して彼女を傷つけているという良心の呵責がとんでもないことになっていた。本当に申し訳なく反省時代に立ち返っていた。


 加奈子さんというのは控えめで彼氏を立てるタイプであり、彼氏に言われたら、まずはその言葉通り信じて要望を飲むという姿勢がいわゆる淑女タイプで、奥ゆかしいという印象のままである。


 こんな無垢で純な女の子は珍しいのか、男子にとにかく人気があった。


 加奈子さんは、僕の別れ話に反論を試みるのではなく、いったん受け入れ、その後、熟考を重ねてから改めて返事をする傾向が強かった。


 この別れ話は、それ前提に、彼女の反論を待たずに喫茶店で有無を言わさず解散し、僕は時空を飛び越えてベットに戻るという予定だ。


 彼女は反論せずに泣き続けた。話しかけても声が出ない。若き自分の当時の精神が、この彼女の姿を観てサドっ気が出たので、今の僕からすると鬼畜な自己中だと、当時の自分を戒めたいと強く望んだ。


「加奈ちゃん、僕と離れれば、もうこんなに泣くことはないんだよ。だから安心して欲しい。君は幸せになることが出来るんだから。」


「……」


「それじゃ、さよなら」


 将来、彼女は幸せな結婚をし、子供にも恵まれ、笑顔で過ごすことになるのを知っている。僕は決して嘘はついていないのだ。


 今しばらくは悲しいだろうが将来は明るいんだと、気持ちを込めながら彼女を見つめる僕であった。


 ちなみに大学では研究室が違えば滅多にすれ違ったりはしないので、高校のように同級生だと別れてしまうと死活問題、とはならない。良かった。


 彼女と別離した直後、少し離れたところでベットで眠る自分を強く念じて元の時代に戻った。今回はあまり爽やかとはいかなくて気分も凹んでいた。

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