第13話 犯行日・・・救えたのか?
寝床に帰宅した僕は、ボケ~としながら考えていた。
坂本さんは理学部なのに、可愛いに加えて美人という雰囲気がある女性で、理系らしくないというギャップで入学当時から男子たちの話題になっていた。
今回の事件は回避できたのだろうか?
結局、ストレートに彼女へ伝えてしまったが、胡散臭く思われようが、信じられないと思われようが、警告というアドバイスを生かすも殺すも彼女次第。
よく男性が「君と別れたら生きていけない、死んでやる!」みたいに別れ際に叫ぶというのがあるが、実際に女性が悩んでしまい、その彼と手を切れないという相談をよく受けたことがあった。
そういう場合、「フレば良いよ」と返事をする。自殺するしないは彼の選択次第なので、別れたがっている女性はそこまで考える必要はなく、カレの脅しみたいなものだと説明している。
聖女のような神託がある異世界だったら良かったのに……。
いや聖女だと、あっけなくNTRてしまうな。困ったもんだ。
僕は、隣でスヤスヤ眠る妻を観て、満足しながら眠りについた。
朝、目が覚めると、脳内に坂本さんと一回デートした記憶が挿入された。
喫茶店へ行き、ビリヤードを楽しみ、夕食をとり、楽しかったらしい。
あれれ、犯行日に張り込む事とか、フォローとかしなくて無地に済んでるのね。
そして、どういうことがあって、どういうやり取りがあってデートすることになったのか、細かいことは記憶に出てこない。
しかし、彼女は無事であり、大変な丁寧な対応で、初めて会話しているのに、配慮がそこかしこにあったと満足感が脳の記憶領域を満たしていった。
最後、お開きにする際に「彼氏はいるの?」と聞いた僕は、敢えて告白みたいにした。
意識していない”探り”よりも、直接の好意を示すのが結果的にいいという経験から導き出した形である。まぁ脳に勝手に挿入される記憶映像なので実感はないけれども。
続きを夢想すれば、、、
「はい、残念ながら、います」とクスリと微笑みながら応えた彼女の素敵な笑顔が強い印象として浮かび上がってきた。
まぁ人気のある女子と恋人同士になるというのは、彼氏と別れた狭間にしか機会は存在しないから、本当の意味での早い者勝ち。
常に周囲の男子がその娘を狙っているのだから、カレと別れたとなれば直ぐに心の隙間に誰かが入ってくる。リアルでは空き状態はまずないだろうと普通に納得できる。
何はともあれ、今回もうまい具合にバタフライエフェクトは起きず、良かったと思った。
だからか、僕からの呼び方が「坂本さん」のままであり、名前の「智子さん」呼びをしていない、微妙な匙加減を神がしてくれているんだなと感じたりする。感じ入るねぇ。
この坂本さんとの1回デートから色々と親しくなるのがファンタジーの普通と思いきや、直後に学士入学してきた加奈子さんから僕が告白され、恋人としてお付き合いが始まるので坂本さんとは疎遠となっていった。見かけたら会釈するぐらい。
一途の僕としては、誰とお付き合いしていても何の裏切り行為もせず、NTRも引き起こさず、満足いった人生だったと思える。
★★★★★
変わったことと言えば、年賀状に縁が切れた人たちから来るようになっていた事。
綾子さん、恵子さん、加奈子さん、坂本さん、等々。なぜか女性が多いな。妻が少し睨むんだよね。ごめんよ。
僕の後悔を乗り越えた彼女たちの結婚式をはじめとする、冠婚葬祭の案内などが書類棚に積み重なっていた。日焼けなどが起きて古くなっているものたちだ。
やはりタイムトラベルは数十分といっても命を救うということをしてしまうと、いろんな影響が限界突破して、歴史の緩衝力を超え、大きな影響が出るんだなと実感した。
今回のような出来事は危険である、とシミジミだ。
それにしてもだ。
青春時代は感情の振り幅が大きく、恋は中々実らないよね。
すぐに嫉妬して耐えられなくなったりして、後戻りできない喧嘩をしてしまう。失恋の時は、立ちっぱなしで放心状態で通路で1時間も呆けてたりとかあったし。
大人になって安定してくれば失恋や嫉妬、他のモロモロも心が安定して対処できるようになる。
でも、あの青春時代の、心の、感情の振り幅の大きさ、なぜか心地いいんだよね。特におじさんになってからは懐かしく思う。
関係ないけど、息子の聡や、娘の由衣が羨ましいな。青春真っ盛りだし。父さんのことキモいとだけは言わないでくれ。頼む。泣くぞ。
僕がタイムトラベルできたんだ。他の人たちの中でも、実際にやっている人がいることだろう。
もしもこれを読まれている貴方もタイムトラベルが出来るようになったら、長時間トラベルの線引き、解決する事象が大きくならない事、これらを心がけしてほしい。
(しかし、最後に女の子たちとハグだけはしておけば良かったな…何か勿体ない)
(いや、それしたら未来が変わる可能性が高まるか。うーむ)
パシンッ!
いきなり後ろから頭を叩かれた。妻が悔しい瞳で涙をこらえてチョップの体制を維持していた。
「旦那、今、すごく《《悪い》》こと考えていた気がして思わず手が出てしまったわ」
流石、妻の勘だ。高確率で正解を引き当てる。愛してるよ、とても。
さて、今日は震災の医療チームでの緊急出動だ。
別の人命優先の案件ではあるが、頑張っていこう。
ドクターヘリは8000円しか手当がつかないので少し不満と思っているが、いや、申し訳ない。
一人一人を救うのではなく、大量の人たちを救わなければならないのが大きな違いだ。これはタイムリープなどではフォローできない壁のような大
さて、そういう理由で、僕はもうタイムリープ、いやタイムトラベラーは、よっぽどのことがない限り使わないだろう。寝床からの出入りは封印だ。
僕は妻と玄関でハグして出発した。
【Fin】
今度こそ本当に「おしまい」