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第12話 あの娘の命を救え

 ここまで過去に戻って十数分という短い時間ながら、バタフライエフェクトらしい出来事が起きないと、僕はもう少し長い時間を戻って過ごせることが出来るのでは?と考えるようになってきた。


 そこで後悔をつぶすという目的の中でも、影響が大きそうで手を出せなかった案件を、そつなくこなそうと考えることが頻繁に起きはじめた。


 それは本来亡くなる人を救いたいというもの。王道である。


 かつて、あれほど短い時間で徹底して慎重に事を運んでいた僕なのに、何かに引っ張られるようにその想いを強くしていた。ある晩、それを実行した。


 大学時代のマドンナであった女史、その娘が性的暴行の果てに心不全で急逝するという事件があり、大学を震撼させた。その女史、名字を坂本さんという。


 彼女の事件は新聞にも掲載され、全国ネットでのTV報道もされていたので、調べることは容易だった。


 他大学生を含め複数の学生ら健全なサークルを装い、メンバーが薬を入れた飲み物を彼女に与え、レイプするといったあくどい手口である。


 こういう事件は昔からあり、女性はそんなに引っかからないと慎重なはずだが、友人知人の女性を上手く利用して誘い出し、途中で普通の学生は「用が出来た」と誰かに呼び出されたりして先に帰ってしまう。


 ターゲットの女性だけを残して、後は調子のいい連中があの手この手で時間をずるずる引き延ばして、ターゲットが酩酊するまでじっくりと工作する。


 そんな手口に坂本さんは嵌ってしまったと当時も噂で聞いていた。


 その犯罪の直前にタイムリープし、彼女に警告を発しよう。未来から来たとか、予言者風だとか、胡散臭いと言われることを如何に避けるか?が課題である。


 問題がもう一つある。


 坂本さんは理学部化学科で僕との接点がない。


 理系は理系でも学科が違うと接点がほぼないし、高校時代のように共通の友人というのも学科が違うと少なく、専門課程により、その他の学習共通点も2回生以降は全くなくなるので、ノートを貸して等々の接点を作るのは難しい。


 サークルなどの活動しかりである。


 とりあえず人命優先というスタンスで上手く事を運ぼう。


 ……ということで当時の大学キャンパスへ飛んで、坂本さんが暴行される二日前に時期を設定した。1回失敗しても、事件までにもう一回フォローできるように。


 【雨である……。】


 大学の理学部棟にはロビーがあり、出入り口は正反対に二つ。文系のエリアに食堂が立ち並んでいるので昼ご飯を食べたりするのはそこになるため、途中にある身の潜める場所で待つことにした。


 幸い、坂本さんは何人もの学生らと歩いて来るのが見えた。早速、声をかける。僕はこういう時って運が良いなぁと、少し胸を張って苦笑いをした。


「あ、岡本さん、今日は元気そうだね。僕の事は知らないだろうけど、少し良いかな?」


挿絵(By みてみん)


 まったくダメダメな僕であった。でも、一応、高校時代は目立つ男子という評判があったので、ハロー効果で何とかなると思ったのだが。


「……」


 周囲の男子学生らが胡散臭い目で僕を観る。坂本さんは何も言わないけど、目だけ見開いていた。


「用件だけでも伝えたいんだけど、その辺で少しだけ」


 一応、熱意を込めてみた。彼女の命を救う、人命優先なら本来の仕事みたいなものだ。


 大人の感覚では、女子大生にナンパしているように見えてしまうことに恥ずかしさを感じながら、逆に大人らしく顔つきを整える。


 軽く笑顔を作っているけどキモいとか言われないよね。変なことに脳が回転する。


「えっ、いいですよ。そんな畏まらないでください」


 周囲の男子学生らが驚いた顔をしている。


「はい、ありがとう、道端で、どうぞコチラに」


 さっきまで身を潜めていた場所に移動する。そんなに距離がないため、皆からは丸見えである。


「僕は、大学の入学式で名字が近かったんだ。それで覚えてたんだけど、少し大切なことを話したくて声を掛けさせてもらったよ」


 坂本さんの友人たちか、例の怪しいサークルのメンバーが含まれているのか、その場で坂本さんを皆が待っている。ひそひそ話し合っていながら。


 僕は少し真剣な目つきで彼らを観る。坂本さんに視線を戻し、想定していた適当な話をでっちあげようと思いきや、テンパってしまって言葉が出なかった。


「うーん、どうやって説明するかな。ごめんね」


「……?ゆっくりでいいよ」


 坂本さん、優しいな。


「実は明後日、坂本さん、君に危険が発生するんだ。それを警告しに来た。信じるも信じないも君次第だけど」


「友人知人からへんな誘いとか、何か前兆が起きるはずだ。予兆みたいなものがあったら見逃さず、すぐに行動に移してほしい」


「だから明後日は誰の誘いも受けず、信頼できる人達と自宅みたいな安全なところで引き籠っていてください。よろしく」


「えっ……」


「何か質問があるんなら応えたいけど、あまり時間も取れない状況だし、自宅で籠れないのならば、坂本さんを誘う真面目なサークルやコンパなどの集いが、実は変なサークルだったりする筈」


「だから出席したとしても、飲み物に気をつけて、為るべく飲まないで帰宅する事、兎にも角にも、気をつけて」


「……」


「質問はあるだろうし、そもそも何言ってるの貴方はって印象だろうけど、明後日、その日だけは危険だから気をつけて」


「あーもういいかな、警告はしたけど、正直、君は暴行を受けて心不全で亡くなるんだ。だから予兆をしっかり見極めれば変な事には巻き込まれないから、頑張って」


 言っている意味がバラけてきた。もうダメかもしれない。


「あ、ありがとう。警告してくれて、ありがとう」


 彼女の表情などから、早く道端から去りたい、話を聞くんじゃなかった感が醸し出されている。まぁ、いいか。キモいと思われても仕方ない。


「うん、何と言えばいいか分からないし、ごめんだけど、あ、それじゃ、邪魔しちゃって申し訳なかったね」


「……」


「それじゃ、坂本さん、話せてよかったよ。じゃーね」


 正直にぶつかっても駄目だったな。失敗のフォローだって、別に直前にもう一回来ても無駄っぽいし、長い時間を待機するなら当日だなぁ。


 もう(元の時代へ)帰ろう。

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