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第9話 妻に相談することにした。

 どうやら奥村さんのことは「えみちゃん」と下の名前で呼んでいたらしい。更に「可愛い」なんて僕がいつも言ってただけで、聡には言われたことがなかったという。


 思春期の男女だもんな、失敗したな。


「いい、聡くん。上の名前で奥村さんだなんて、なに他人行儀なふりをしてるの、ひどいよ。絵美でしょ、えみ」


「ご、ごめんね、えみちゃん」


「可愛いって言ってくれたのは嬉しいけどさ……」


「それは凄く思ってるよ」


「はっ!何言うのよー」


 真っ赤になった顔を隠して絵美ちゃんは先に走って行ってしまった。やっぱり失敗だった。女の子には聡の年齢で素直に可愛いなど褒めるのは難しそうだ。


 父親の姿の僕の場合、いくら言っても「ありがとうございます、おじ様」って感じでニコニコしてたから本当に難しい。


 下手を打ってしまったらコミュ障みたいに扱われそう。いやイジメに遭うとマズいので他の学生たちと接触を極力避けねば。


 教師にも気をつけないといけないな。大学の講師までやっていたから自然と教師に対しても教えるというスタンスで上から目線になってしまう。


 高1の聡がそんな風な態度でいたら、これは性格が悪いという感じで突き抜けてしまう。


 以前のタイムリープでは短い時間だったから無問題だっただけで、授業とかテストとか困難な壁が立ち塞がっているなぁ。打開策を急がねば。


 ようやく学校まで来て門をくぐる。ここで再度問題が発生。教室が分からない。困った。記憶喪失の振りをするか?楽しい筈のタイムリープは早くも挫折し始めたのであった。


 奥村さんを逃したのは失敗だったな。クラスすら分らないとは。そうだ、妻なら分るかも。スマホを出してチャットで「頭を打って軽く記憶がとんでるから教室どこだったっけ?」と送信してみる。


すかさず「意味不明なんだけど1年C組」と返信あり。


 良かった。帰宅したら色々と相談に乗ってもらおう。


 下駄箱は分からないし、上履きを借りる為職員室に行こうと思いきや、これまた不明。近くにいた女の子に下駄箱の場所を教えてもらい、ようやく上履きをゲット。


 1年C組に辿り着くまでに右往左往してしまった。さらに自分の席が分からない。もはやお手上げ状態の僕である。


 教室の入り口から入って最初に目があった男子に「俺の席ってどこだっけ?」と開き直って聞いてみた。


「俺?お前って”僕”って呼称だったよな。男らしくなったな」


 ……なんだか変な返しがきてしまった。高校生だから「俺」だよなという予想が外れてしまった現実、聡よ、お前は素晴らしいぞ、父さんは嬉しいぞと感じ入る。


「あ、いや、僕の席ってどこだったっけ?ちょっと頭打って記憶がとんでてさ、教えてくれ」


 その男子は深く考え込むようなフリをしながらも、あそこと指さして教えてくれた。窓側の前から二番目。お礼を言ってその席に向かう。もう山場はないよなと一安心して席に着く。


 近くの生徒たちに「おはよう」と普通に挨拶して朝のミッションは終了だと机に伏せた。


 今日の教科書をそろえるために聡の机に貼ってあった時間割は記憶はしていないためにサッパリだった。周囲の生徒たちの教科書をまねて授業の用意をする。


 理系なら少し活躍しておくか、聡の成績の為にも、なんて親らしく余裕をもっておこう。英語も特に問題ないな。論文では普通に使うし海外出張の際は英語だしね。世界史とかの記憶科目は少しやだなと大人げない溜息をつく。


 SHRにて担任の連絡事項があった。授業参観があるらしい。いつも妻か僕が出ていたけど、今回は妻だね。


「ねえ、聡くん」


 右隣のゆるふわな女の子が僕に向かって声をかけてきた。


「ん、おはよう。なんかあった?」


 僕が気楽に返事をすると真顔になった彼女が口を開く。


「聡くん、すごく大変な顔をしてるよ。お父さんのことで大変だったら手伝うからね、いつでも頼ってね」


 ……と何て優しいことを言ってくれる。そうなんだ僕は急逝してしまっているとみんな知っているんだな。今大変な顔をしていたのは全くの別件だったけど、優しそうな子じゃないか。


 聡の彼女にならないかな、と父親らしく考えていると聡の魂の心配を再度思い出して何とかせねばと更に深刻な顔をしてしまうのであった。


「本当にありがとう。(名前を知らないけど)心が軽くなったよ。機会があれば頼らせてもらうね」


「うん。いつでもいいからね」


 彼女は優しく微笑んで僕の目を見てウルウルしていた。聡の魂が戻ったら彼女のことを良く伝えておこう。しかしクラスメイトの名前がさっぱり分からないのは致命的だ。


 担任の先生に記憶喪失という事で相談して、特別に名簿を席一覧にして机に貼って凄くように手配しなきゃ。


 父親の急逝と頭への衝撃があったという態で融通をお願いしておかないと。遅いとそれだけで聡の評判は下がり続けるし、優先順位の設定をしっかりと整えなければと仕事のように考え直した。


 妻頼みが多くなるけど、妻から学校に言ってもらえれば色々と配慮してもらえるからね、今夜に相談して洗いざらい確認し合おう。


 心配なのは聡の魂がどこに行ってるかだけど、これの対策も急務、消滅何て考えたくもないしね。


 ツマ ↓

挿絵(By みてみん)

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