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第10話 最低限のことは出来たと思う

 昼休みは食堂に連れて行ってもらって食べた。


 隣のゆるふわ女子は稲垣華ハルさんと友人から呼ばれていたので、僕もそう呼んでいる。「名字じゃなくて嬉しい、これからもハルって呼んでね」と言われて照れてしまった。


 ハルちゃん ↓

挿絵(By みてみん)


「今日一日、聡くんは大変そうな顔をしていたから心配よ」


 かなり気を使ってくれて可愛い娘だなと思う。一途そうだし聡にはお勧めだ。いい印象を持ってもらえるようお父さんも頑張るぞ。


 放課後になって帰り支度をしていると聡の幼馴染である水野さん家の絵美ちゃんが一緒に返ろうと教室まで訪れてくれた。


 それまで雑談をしていたハルちゃんに「お先に」と言って席を立つと、少し残念そうな顔をされたものの、笑顔で「ほんとに気をつけてね」と言われた。


 いい子だとしみじみ思った。


「それじゃ、明日ね」


 一方、優等生タイプの絵美ちゃんは僕が近づくまで大人しく静かに入り口のところで待っていてくれた。


 彼女の佇まい(たたずまい)は奥ゆかしい感じで、近所では元気で活発な彼女しか見たことが無かったので、別の視点で発見だった。


 聡の周りで慕ってくれているのはいい子ばかりだなと親バカをさく裂させてしまうが、一緒に帰宅の途に就く。


 絵美ちゃんと歩き出して校門を抜けたところで、彼女が手をつないできた。これにはビックリした。


 付き合ってるとは聞いていないから、聡が戻ってきたら弄って(いじって)やろう。そして暫く歩いていた後で手が恋人つなぎになった。


 正確には聡ではなく父親の僕が憑依しているわけで、ちょっと気まずい。聡にも悪いし、もちろん絵美ちゃんにも悪い。正直に話す段階ではないので、今回だけ聡には許してもらおう。


「あのさ、絵美ちゃん、いつも良くしてくれてありがとうね」


「えみ」


「絵美ちゃん……」


「えみ」


「絵美…」


「はい」


 お約束だった……


 ぎゅっと強く手を握られる。絵美ちゃんって積極的だったんだね。おじさん驚いちゃったよ。


 今朝の様子を含め、きっと相思相愛だな。よくある”僕が先に好きになったのに…”という展開は起きないと確信できたな。彼女は自宅前を聡が通り過ぎたら家を出てくるそうだし。


 「また明日ね」と水野さんの自宅前で解散し、僕は自宅へ戻った。妻に色々と打ち明けなければならない。本番はこれからであり、僕は想定する分析は…まぁ終わっていた。


 根本解決には程遠いが、当面の面倒ごとは妻を巻き込めば大丈夫。となると信じたい。


★★★★★


「ただいま」


「お帰り、お兄ちゃん!」


 おっと娘の由衣がすでに帰宅していたか。トコトコと玄関まで迎えに来てくれる。いつもいい子だねと頭を撫でようとしたら


「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん」


 顔を真っ赤にして怒っていた。そうだった父親の僕ならいつもの風景なのに、聡だとやらないからな、頭なでなで。ハグも出来ないわけか。


 娘と触れ合えない父親の哀愁を間接的に味わってしまった。


 まてよ、妻とのハグも聡のままではマズいよな。夫婦のハグにはキスもオマケでついてくるし、手もオートマチックに動いてしまう。うっかりすると危険な画になってしまう。


「なぁ由衣、頭なでなではお兄ちゃんとして優しく可愛い可愛いしてあげたい時にするもんなんだ。そんなに嫌がらなくても変な気持ちでしてるんじゃないからな」


「何マジメに語ってるのよ、シスコンなの?キモい」


「キモイって言うな」


 まさかの娘に口げんかで負けてしまうとは。キモイって心に異常に響くな。なんだよコレ。


 いつも尊敬の目で見てくれていた娘が聡になった父さんに向って破壊力満点の攻撃、このショックに少し俯いてしまった。その姿に娘も心を痛めたようで


「お兄ちゃんごめん。キモいって二度と言わないから許して」


 あれ、異様に嬉しい言葉が来たぞ。由衣よ、優しいじゃないか。


「男性による頭なでなでは、お父さんだけの特権なの。ごめんね」


 そう言って亡くなったばかりの父親への想いを馳せ涙ぐむ由衣。

ああ、ハグしてしまいそうになる。お父さんはここにいるよ。我が愛娘よ。


 そうして家族団らんは過ぎ、夕食後に母親こと妻に相談を始めることに。


★★★★★


 僕は妻が容易に理解できるよう説明を繰り返した。


「……そういうわけで、以前のタイムリープが悪さしたようで、僕は生きて聡の身体に憑依したみたいなんだ。聡の魂は今のところ自分の中で自覚できないから、何処かで避難しているとは考えている」


 妻の顔色もやはり悪い。そして今の聡に僕が入っていることを説明すると、喋り方や知識の面で別人と認識できたそうで一先ずは安心した。


 妻には「苦労かけるね」と労い、更に説明を加えていく。


「当座、聡の魂が戻ってくるまで学校の僕は記憶喪失でクラスメイト達の名前も顔も忘れてしまったという事にして凌ぎたい」


「学校には便宜を図ってもらえるように担任と校長に電話してトップダウンで不自由のないようにしたいんだ。頼めるかな?」


 妻はゆっくりと頷き、理解を率先して求めてきた。


 旦那である僕が急逝したタイムリープだけでも心労がピークになっていたところ、まさか魂だけ生き残っていて息子の聡に乗り移るなんて嬉しいやら悲しいやら複雑な表情のままだ。


 きっと聡の魂は取り戻せると思うと説明を繰り返し、議論は決着がつく。


「つまり最終的には以前の僕がタイムリープを始める頃に将来危険なので止めるように警告してくれるだけでいい」


「妻は一回だけ過去に戻って僕を叱って止めさせてくれれば世界が反転して僕も聡も戻れるはずだ」


「タイムリープのやり方は以前にメッセージで伝えたヒントで可能、僕がやるとまた拗れるかも知れない、娘の由衣では危険、妻なら賢いから普段の知恵で挑むだけで大丈夫」


 妻が難しそうな顔をして俯き(うつむき)、考え込む。顔を上げて、率直な意見を言う。


「過去の貴方は私の提案を飲んでくれるかしら?」


「タイムリープが危険だという事は理解しているみたいだけど、夢中になってその魅力に囚われているかも」


 うん、なるほど。


「その点は大丈夫」


「妻との生活を優先していて、まさか慎重に行動していたにも拘らず、突然に身体の調子が崩れるとは思わなかっただけで、その危険性を当時の僕に教えてくれるだけで止めるよ」


 妻はふぅ~と溜息をはき、


「簡単にタイムリープをできる方法を見つけてしまった貴方には困ったものだわ」


「いやアルゴリズムは分かっていないからね。一応、妻の一回だけタイムリープしたら二度としない・出来ないようにやり方を封印することにしよう」


「ところで貴方。久しぶりに貴方(の心)と会えたんだから、抱きしめたりしなくていいの?頭皮マッサージも久しぶりにやってあげるね」


「う、うん。ありがとう」


「でも身体が聡だし……」


 久しぶりの夫婦の時間だというのに、非常に複雑な事情で二の足を踏む二人であった。

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