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第9話 王女と巫女、影に蠢く野望

 


 王都の深夜──誰もが眠りに落ちる時間。


 その静寂の中、二つの場所で、同じ男の名が囁かれていた。


 


「……レオ・アルバレスト」


 


 一人は、王宮の姫君。


 もう一人は、神殿の聖女。


 


 



 


 


 リュミエール宮南棟、第二王女の私室。


 窓辺に腰かけたセリシアは、月明かりに照らされた小鳥の籠を見つめていた。


 


 それは、数日前まで“ただの装飾”に過ぎなかった。


 だが今は──なぜか自分と重ねて見える。


 


「“選ばせてあげたい”……あの人、簡単にそんなことを言って」


 


 誰もが彼女に“命令”しかしなかった。


 “嫁げ”、“笑え”、“従え”。それが王族の務めだと教えられてきた。


 そんな中で、レオだけが──“選べ”と言った。


 


「……馬鹿みたい。たった一言で、こんなに……」


 


 手を伸ばし、小鳥の籠の扉を開ける。


 鳥は、一歩も動かない。外の世界を知らず、籠の中がすべてだと思っているから。


 


「私も……同じ、かしら」


 


 



 


 


 一方、ルシエール大聖堂。


 神殿の奥の小部屋で、リリスは祈りを捧げていた。──形式だけの、空虚な祈りを。


 


「……信じていた。神がいれば、それでいいと思っていた。だけど──」


 


 “本当に救ってくれるのか?”


 レオの言葉が、胸を刺す。


 彼の瞳は、偽りに満ちているはずなのに、どこか本物のように感じられてしまう。


 


 リリスは顔を伏せる。


 自分でも気づかぬうちに、神よりも“彼の声”を思い出していた。


 


「神よ……私は、誰に祈ればいいの?」


 


 



 


 


 翌朝。


 王宮と神殿、それぞれの場所から、密かに命令が下った。


 


 「レオ・アルバレストを、正式に王族の顧問候補として迎え入れること」


 「聖導師レオに、神託の代理権を一時付与すること」


 


 表向きには王国の民意を反映した措置。だが、裏では──王女と巫女、それぞれが独断で動いていた。


 


 ──ふたりはまだ気づいていなかった。


 自らがもう、“籠の鳥”ではなく、彼の手のひらの上で踊る存在になっていたことに。


 


 そして、レオ自身も──ふたりの心が自分に傾きつつあることを、確かに感じていた。


 


「よしよし。順調に“駒”は揃いつつある」


 


 満足げにワインを口に含みながら、レオは呟く。


 だが、その視線は冷静だ。


 情などではない。欲望でもない。


 


 ──すべては、支配のため。


 “誰もが自分を信じ、愛し、従う”世界のため。


 

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