第7話 純白の鳥かごにて
──玉座は、言葉で傾く。
王都の中心にある白亜の城《リュミエール宮》。
その南棟、陽光差し込むテラスで、ひとりの少女が鳥かごの中の小鳥に指を差し出していた。
「あなたも、飛びたいと思うことはあるかしら」
その声は清らかで、どこか寂しげだった。
少女の名は、セリシア・アルテミュール。現王の第二王女にして、王都でも“最も美しい”と噂される貴族界の花。
だが、その実態は──政略の道具。誰よりも自由を縛られた、“黄金の鳥かご”の住人だった。
「……退屈な日々。どこかに、退屈を壊してくれる人がいればいいのに」
その願いが、届いたのは──その夜のことだった。
◇
「──王女に謁見を?」
「はい。“導きの聖導師”レオ・アルバレスト殿より。既に第三王子の推薦を受けております」
宰相がわずかに顔をしかめたが、王の印章がある以上、拒む理由もない。
こうして、王女セリシアと“詐欺師レオ”の邂逅は、思いのほか早く実現した。
◇
「初めまして、王女殿下。私、レオ・アルバレストと申します」
「……初対面なのに、不思議な空気を纏っている方ね。まるで“嘘を纏った人”のよう」
セリシアは微笑むが、その目は鋭い。
噂以上の“聡明な姫”。しかし同時に、彼女の中には“渇き”があった。
それは、自由への渇き。
誰かに認められたいという渇き。
そして──心ごと奪われるような、危険な“恋”への渇き。
「私に会いに来た目的を、教えてくれるかしら?」
レオは、わずかに笑って言った。
「あなたを、私の“味方”にしたいのです」
「……理由は?」
「あなたはこの王国で“最も自由でない人”だから。私はあなたに、“選ばせてあげたい”のです。どんな王国にしたいかを」
セリシアはわずかに目を見開いた。
誰もそんなことを言ったことがない。彼女に“選ばせる”という言葉を使った者など、一人もいなかった。
「……あなた、私に嘘をついてる?」
「もちろん。私は“嘘を吐く人間”です」
「でも、その嘘……少しだけ、信じたいって思ってしまうのはなぜかしらね」
──この瞬間、彼女の心にレオという“毒”が回り始めた。
夜が更けても、王女は眠れなかった。
窓辺でそっと呟く。
「……もっと、あなたの言葉が聞きたい」