犬と猫とボランティア1
コラムを毎日書くつもりで始めたが、いやどうもこの半年間文章を書く気にならずパソコンすら開けない日々が続いていた。それと言うのも、今年の二月にある施設からボランティア活動に復活してほしいという依頼を受けた。それに答えてしまったのが大きな間違いだった。
そのボランティア活動と言うのが保護犬の世話である。その施設のドッグランの補修やら犬の世話といった具合だ。
私はこの過去四年の間に施設に行くのを止めたり又復活したりを二回繰り返していた。最後に行かなくなってから一年経つか経たないかと言う今年の二月に「又ボランティアに来ませんか?」というお誘いを頂いたのだが、最初にこのボランティア団体(と言ってもほぼ代表の女性一人)に参加したのが丁度三年前の今頃だ。そこから年をまたいで三月まで手伝っていた。
この段階では私は犬や猫には触る事も出来なかったので修繕や組み立てをしていたのだが元気に走り回る犬を思い出すと可愛く思えて仕方がなかった。
竹藪山の麓に奥行き30メートル、幅50メートル程のドッグラン。そこが私のリハビリを兼ねたボランティア先である。
丁度仕事を辞めて自宅でゴロゴロしてる私に高校時代の先輩の奥方からボランティアの誘いがあった。何でも竹を山から切り倒し、それを120センチの長さに切り分け足場で骨組みを作ったところに竹を並べ麻縄で竹を固定し竹塀で囲ったドッグランを作っているのだそうだ。
場所は私の自宅から車で30分位の場所であり、一日に数時間なら補修作業を手伝っても良いと返事をした。
数日後、先輩の奥方と待ち合わせをして例のドッグランにいくことになった。その道中の車の中で知ったのだが、先方と会うのは今日が初めてだと言うのだ。普通何回かお会いして話がまとまってから、人を紹介するのではないかと思うが最近ではネットやSNSで知合った人に簡単に金を振り込む世の中であるから何とも思わないのだろうと思っているうちに現場に着いてしまった。
竹藪の山の麓に見事な竹垣のドッグランが車を降りた私の目に飛び込んできた。竹はまだ新しく青々と光っていた。犬の吠える声も聞こえ竹垣に近寄り中を覗いてみると、白に茶色のブチのイングリッシュセッターが駆けずり回りながら楽しそうに吠えていた。すると近くから今度は濃い茶色の中型犬が「オウオウ」「おうおう」とまるで私に話しかけているようだった。
その時ドッグランの中からここのオーナーだと言う女性が頭を下げながらニコニコと笑顔で私達に近寄ってお互いに挨拶と自己紹介をかわした。オーナーは洋子と名乗り年齢は49と言っていたので私の一つ年上だ。彼女は個人事業主で仕事を持っており在宅で仕事ができるので時間の調整を取り易く、保護犬活動を始めたと言う。
そして先輩の奥方は保護犬のボランティアはしたいが、どうも犬の匂いが駄目だと言うのだ。それで私を連れて来たのかとやっと合点がいった。どうも本当に困った人だ。しかしここのオーナの洋子さんの話によれば犬を保護し、次の里親、まあ飼い主を探して繋ぐという活動内容だ。
聞くところによると、次の飼い主が決まったら他の保護団体は譲渡金なる物を請求するそうだがその譲渡金で次に保護した犬の医療費や餌代になるというので金を稼ぐペットショップや悪徳繁殖屋とは金の用途が違ってくる。
この洋子オーナーはお金を取るとためらう人もいる。だから基本お金は取らずに里親に渡す、そうする事でより多くの人に手を挙げてもらう事が出来ると言うのだ。
私はその考えに心より賛同し又、一人で竹を切り出し竹垣を作り上げた事に感動し、補修作業を手伝わせてもらう事にした。犬の世話はしないのか?う~んこの時の私は犬が怖かったのである。
金は無いが時間だけはある。これも困ったもんだ時間があっても金が無ければ家でネット配信の外国ドラマや(中国や韓国ドラマは見ない)映画など延々観るしかないのである。どうせ金があっても競馬競輪に明け暮れているだろう。今の世の中ネットで全国のレースが平日から馬券車券を買えるから恐ろしい。ギャンブル依存症を減らすとかなんとか厚労省が言っているが、同じ国や自治体が運営する公営ギャンブルには全くその気はない。何故なら誰でも買えるネット配信を止める気がないだろう。
私のギャンブルに対する屁理屈はこの位にして、早速ドッグランに行く事にした。オーナーの洋子さんに行く旨を伝えたところ、その日はドッグランでバーベキューをするから是非いらしてくださいとの事。
初日がバーベキューで良い物だろうかと考え、流石に手ぶらは拙かろうと、ドーナッツを数種類数十個買い持って行く事にした。
平日の昼間に来るなんてどうせ犬好きの中年おばさんが集まっているに違いないとふんだからだ。だがしかし私の感は見事に外れた。こういった外れはおおいに大歓迎である。ドッグランに着いてみたらそこには若い女性しかも全員20代に見える、数えてみるとえ~5人もいるではないか。何でもこのグループは某大学病院の看護師さん達でストレス解消に大好きな犬と遊びながら犬小屋の掃除などをしに来たそうだ。こんな若い女性達とバーベキューだなんて50手前の男は金を積まないとできやしない。初日がこんなんで良いのだろうか。
みんなドッグランの中で犬と走ったりしているが、一匹茶色の中型犬が竹塀ごしで「うおうおん」と私に吠えて来たこの犬は何日か前に九州からきた「青空」と言う名前の犬で犬種は不明だ。この犬は御高齢のお爺さんと暮らしていたそうだが、そのお爺さんが亡くなり引き取り手もいなくて洋子さんが引き取ったそうだ。私はこの良く吠える犬青空をオイドンと呼ぶことにした。私は松本零士の大ファンで「男おいどん」を思い出し九州から来たのだからオイドンとした。
オイドンはずーっと私に吠えている威嚇とかそんなんじゃない、語りかけているかんじだ。「おうおう」あんた大丈夫?とまるで吟味されているようだった。いや本当にこの時オイドンだけじゃなく他の犬からも吟味されていたんだと今思い返す事が出来る
おいどんに吠えられながら若い看護師達に囲まれてバーベキュー。鼻の下を伸ばしながら肉を食べていると、オーナーの洋子さんが犬用の車椅子にプリウスのバックドアを開けてイングリッシュセッターを抱き抱えて寝かせた。
犬用の車椅子は結構いろんな種類がある。後ろ脚を二本のキャスターに固定して前足を使って歩き出すものや、顎と体を固定し、四本の足を下に出して4つのキャスターで歩くもの。今回のは車椅子というより乳母車を大きくさせた物だと行った方が説明がつくと思う。
すると、私とおしゃべりを楽しんでいた(楽しんでいたのはわたしのほうだが)看護師達が一斉に車椅子に寝転がっているイングリッシュセッターに駆け寄って行ってしまった。ぽつんと残された私に、看護師たちの「アイジー、アイジー」と言いいながら横たわっているイングリッシュセッターを撫でている姿が目に入る。肉は食べたいがここで独りで肉を食べ続ける勇気は私には無い。
私も看護師たちの群がる車椅子の所へ行くため焼き網の上の肉をほお張って片付けて歩み寄って行った。皆がアイジーと呼んでいるが、一応「この子はアイジーって名前なんですか?」誰にともなく聞いてみた。看護師達はもうアイジーに夢中である。中年男性の私の声など聞こえているのか聞こえていないのか皆、「アイジー、アイジー」である。それを見かねたのかオーナーの洋子さんが「そうです、アイジーといいます。」と教えてくれた。
このアイジーは寝たきりで人間なら100歳を超えているそうである。人間の障害者の方にもどう接していいか解らず普段戸惑う私は更にどう接してよいか判らなく看護師たちの後ろでただ棒立ちになってしまっていた。ただ、おいどんの吠え越えが「どうした、声を掛けて撫でて見ろよ」と私に「おうおう」と指示しているようだった。
九州から来たばかりのおいどんに急き立てられるように恐る恐る大型犬の車いすに横たわっているイングリッシュセッターで寝たきり犬のアイジーを撫でようとした時運営者である洋子さんから「アイジーは男の人には咬む事があるから気をつけて!」と声が掛かる。右手の掌を上にしてそっと顔に近づけ中指がふわふわの耳に触れた時眠そうに瞬きをパチっとした。あ、撫でさてくれると心で思い掌を下に向けアイジーの頭に手をそっと乗せた。
アイジーは目を瞑ったままで私が頭を撫でている間何を考えていたのだろうか。撫でられて気持ちよさそうにも見えるが早く終わってくれと撫でられる事を我慢しているようにも見えるが、これで何だかここの犬の長のアイジーにボランティア合格を貰ったきもちだった。
アイジーの横たわっている大型犬の移動式ベッドは地面から30センチぐらいの高さで小型犬でもピョイと乗れてしまう。そう、そのベッドにはアイジーの他にプードルのオヤジ君、名前からして雄。同じくプードルのアンジー。片目が無いが物凄く勝気。そしてミニダックスのクーちゃんがいる。みんなアイジーが大好きでアイジーから離れないのだそうだ。
アイジーが移動式ベッドでドッグランに入ると今度はドッグランを駆けずり回っていた犬達がアイジーの元にやってくる。最初はアイジーと同じ犬種のイングリッシュセッター、テディ雄。ずーっと吠えている九州から来たおいどん。ボクサー犬のジュジュ雌。雑種で白黒のココ雌。ポインターのウタ雌。柴犬のモモ雌。皆アイジーが大好きなのだ。
老犬長アイジーに多分認められ保護犬ボランティアがスタートした私でした。
ボランティアってなんだろう、命ってなんだろう、弱い物を盾に取りお金儲けしていませんか?そう思える輩達や法人に出会ってきた。
私の役割ってなんだろう?「声無き者に声を与え声無き者の声を届けよ」この言葉が頭の中に投げ込まれた事があった。この言葉は過去に聞いたことも無ければ、文章でお目にかかったこともない。ただこの言葉に従ってみたい