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七歳までは神の子って言葉がある。「ニュウヨウジシボウリツ」が高かった時代に出来たことば。七歳までは、子どもはまだ完全にはこの世の存在ではなくて、神様からの預かりもの。だから取られてしまいやすいんだ、って。
「全校集会だ、急いで体育館に集まれ」
先生たちが、いつになく切迫詰まって誘導する。体育館脇で、女の子が数人泣いていた。
変な空気だった。何が何だか分からない皆が皆、痛みを抱えながら興奮してるみたいな。
変な空気だった。いつもなら真面目を気どる先生たちが、言葉も吐かず俯くなんて。
胸と頭がザワザワ騒いで、その雑音がやすりみたいに心をけずる。今日だけは、静かにさせる先生もいない。
「昨日……さんが……、――正直、先生も……突然……で――」
「二年間、……の担任して……どう整理すれば……今日から……いないなんて――」
混乱してる先生、泣きそうになってる先生。多分どっちも良い先生。だけど、悲しみに何の意味がある?置いてかれた私たちが、こんな生々しい傷舐め合って、それであの子は戻ってくるの?
どうでもいい、外野の遅すぎる後悔なんて。
いくら足したってあの子はもういない。泣き叫んでも聞いちゃいないんだ。とっくのとうに悪夢から一抜けて、あの真っ白な朝で、きっと……きっと。
赤いあの子は、笑ってるのかなぁ――
灰色のわたしたちなんて差し置いて、誰よりも幸せになってたらいい。幸せじゃなきゃ許さない。(何を?)
おかしいじゃないか。生まれつき死にたい人なんていないのに。きっと本当は生きたかったんだ。生きたかったから生きなかったんだよ。
きっと、いや絶対幸せなんだ。さっさと来れば良いのにって、バカにして笑ってるんだよ。(どこで?どこに行ったって言うの?)
わたしたちのことを!
ああなんて性格の悪いやつ。憂き世をひとり抜け出して、「むこうのせかい」で高みの見物で。
許さない、赦さないから。そんなのわたしは信じない。絶対に戻って来させるんだから。
認めないよ、許さないよ。
時計の針が、長すぎるわたしの残り時間をめちゃくちゃに刻む。
呪われたのはわたし?あの子?神なら何でも知ってるんでしょう?
答えてよ!
名前だけ知ってる「あの子」へ、お願い――帰って来て。
あの子も、わたしも、きっと人生でいちばん痛かった。