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#7 名探偵の秘密

「アメリアいる〜?ちょっと治療して欲しいんだけど」

慧愛の事務所の近くにある小さな病院に入り、彼女はおそらく医師であろう彼女の名前を呼んだ。

すると2階からドタバタと物音を立てながら白衣を着たダウナー系の女性が慌てて走ってきた。

「エマお嬢様!お怪我をなされたのですか!?危害を与えた者はどこです?私が今すぐ地獄を見せて...」

その女性はクマのできた目で慧愛の身体を観察し、彼女の怪我の有無を確かめる。だが、彼女に怪我がない事を確認すると不思議そうに首を傾げた。

「お嬢様、いったいどこにお怪我を...?はっ、もしかしてお熱が?」

「治療が必要なのはこっち。私の助手で...ほら、結構重傷でしょ?」

そう言われて彼女は視線を鉉貴に移し、彼の状態を確認する。

パッと見で彼女は手に穴が空いていること、身体のところどころの骨が折れていることを確認した。その上で、めんどくさそうに顔を歪ませた。

「あ〜...まあ、はい。確かに重傷ですね。じゃあ、さっさと治療に...」

「あの、見るからにめんどくさそうな態度なのは気のせいかな?」

「まあ、多分気のせいなんじゃないでしょうか?私、医者ですし...」

あまりにも適当な返しに鉉貴は苦笑いを浮かべるしかなかったが、そんな中、慧愛が彼女に向かって口を開いた。

慧愛の目は冷たく彼女を睨んでいる。

「面白い態度だな、アメリア?」

「っ...はい、申し訳ございませんエマお嬢様」

その声は小さくて鉉貴には聞こえにくかったが、彼女がいつもと違う雰囲気になったのは明らかだった。

彼女のたった一言でこの場の空気が張り詰めた。それだけ、彼女のあの様子はいつもと違ったのだ。


◇◇◇


しばらくして鉉貴は治療を受け終わり、身体中に包帯がぐるぐる巻きになった。もちろん相当な重傷な為、完治には一ヶ月以上もかかる。

「流石はアメリアだね、手際がいい」

「お褒め頂き光栄です。ですがこの力は元々ホームズ家の為にある物ゆえ、このような者に...」

アメリアがそう言いかけたところで、慧愛が彼女を睨みつける。よほど鉉貴の事を気遣っているのだろうか。

そんな少し悪い空気感の中、鉉貴が2人に疑問をぶつけた。

「ずっと気になってるんだけど、ホームズって何?」

「げっ...」

彼がそう言うと、慧愛は明らかに嫌そうな態度を見せた。

そのホームズという単語がどういうものを意味するのかは鉉貴には分からないが、以前から度々その単語を聞いている為、流石の彼も気になっているのだ。

「...話さないとだめ?」

「出来れば話して欲しいかな?まあ、推理をしろというなら出来ないこともないけどね?」

鉉貴は自信ありげにそう言う。そんな彼を見て、慧愛は煽るような笑みを浮かべて口を開いた。

「じゃあ推理してごらん?ホームズが一体何なのかを」

「ふふっ、いいよ。じゃあまずは、ホームズがどういった単語なのかだね」

彼は記憶を遡ってヒントを探し出す。

そして見つけたヒントは案外浅い場所の記憶にあった。それは、彼が治療を受ける前と受けた直後の会話だ。

「まあおそらくは慧愛、君の家名だろうね。君は実は外国人と日本人のハーフで、佐々木 慧愛が日本の名前、そして勘だけど日本のと同じエマ・ホームズかな?それが外国での名前。そしてそこのアメリアさんだっけ?彼女はそのホームズ家の専属の医者か従者ってところだろう」

鉉貴が話す推理を慧愛は黙って聞いている。彼が慧愛に視線を向けると、彼女は頷くでも首を振るでもなく、手を前に出して話を促した。

答え合わせは終わってからという事だろう。

「まあ慧愛がお嬢様って呼ばれてた事からそのホームズ家はその国...うん、慧愛の言葉の訛りからしてイギリスだね。ホームズ家はイギリスでも高い財力、それか権力を持つ家系なのだろう。で、本題はここからだ。なぜ君があの殺し屋と知り合いだったのか」

彼女の家系がイギリスの一族なのも、その家系が高い財力や権力を持つこともまあ珍しいがない話ではない。

問題は、なぜ彼女が殺し屋と縁があるのか。そして、極めて高い実力を持っているのかだ。だが、ここからは何のヒントもない。よって、鉉貴は推測で話し始めた。

「ここからは僕の妄想だと思ってもらってもいい。おそらくホームズ家はただのお貴族なんかではなく、古くから殺しに関わってきた一族なんじゃないかな?君のその馬鹿げた身体能力やアメリアさんの僕らがここに来たばかりの時の発言から、その一家に準ずる者までが戦闘能力を持っている一族。言ってしまえば、殺し屋の一族かな?つまり、ホームズ家は殺し屋の一族だからあのアイザックという男との面識があった。まあ、僕の推理はこんなとこだ」

鉉貴が一通り話終わると、慧愛は組んでいた腕を解き、頭を抱えながらその場にしゃがみ込む。

鉉貴の推理が的外れすぎて呆れているのかと思いきや、彼女はため息を吐きながら呟いた。

「どうしよぉ...全部バレたぁ...!」

「...はい、バレましたね」

どうやら鉉貴の推理は全て正解らしい。

つまり、彼女はイギリス人と日本人のハーフで、もう一つの名前はエマ・ホームズ。彼女の家、ホームズ家は殺し屋の一家で、高い地位や財力を手にしており、理由は分からないが彼女は日本でその身分を隠して探偵として生活している訳だ。

「流石は私の助手と言うべきか...油断してたな。で、どうするの?このまま私の正体を周りに言いふらして...」

「あっ、あともう一つあった」

慧愛が気だるそうな顔で鉉貴を見つめていると、彼は再び推理の続きを始めた。

もうこれ以上ひやひやさせられるのはごめんだと慧愛は焦るが、それでも鉉貴は無慈悲に言葉を発する。

「慧愛、君は何らかのトラウマがあるんじゃないかな?殺し屋の家系の娘である君が、人を殺せなくなるぐらいの」

「っ...!なんで、それを...!」

その推理は確かに正解だ。だが、それは彼女にとってもあまり知られて欲しいものではない。

弱い今の自分は、ずっとその事を引きずってしまっているのだから。

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