#5 殺人事件の未然防止
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
「だ〜か〜ら〜!さっさと通せって言ってんの!成人だって言ってんでしょ!」
「いや、そう言われましても...」
名探偵である佐々木慧愛は、今日は依頼を受けてとあるBARに来ている。そんな彼女は今、そのBARの手前で立ち往生をくらっていた。
彼女はその見た目の幼さから未成年の少女だと勘違いされる事が多い為、こういった場所では門前払いされる事も少なくは無い。実際の年齢はちょうど二十歳だ。
「ちっ、本当に使えないな君は!この世のどこにこんな美女を子供と間違えるやつが...!」
「すみませ〜ん!その子本当に成人でして...ほら、この通り」
突然彼女の隣に助手である絃貴が現れ、慧愛と自分の探偵手帳を取り出した。
慧愛は探偵手帳や免許証など、本人確認が出来る物を完全に置いてきていた為、探偵手帳だけは絃貴が持ってきたのだ。
「あっ、本当ですね...これは失礼しました!まさか成人の方だとは思わず!」
「だから言ったでしょ?私は立派な...!」
「ほら行くよ〜、さっさと事件解決しましょうね〜」
「あっ、ちょっ...!」
そうして、名探偵である佐々木慧愛は不機嫌なまま絃貴にBARの中に引っ張られて行ったのであった。
◇◇◇
慧愛と絃貴がBARの中に入ると、2人の事を手招きをする女性がいた。
彼女は黒いサングラスをしていて顔は見えないが、慧愛とは違い、大人っぽい雰囲気の女性だ。
「わざわざありがとうね、来てくださって」
「いえ、これも仕事ですので」
絃貴が女性と社交辞令を交わしながら席を着くと、慧愛は無言で彼の隣に座った。
そんな彼女の失礼な態度に女性は機嫌を悪くする訳でもなく、優しく微笑んで話を続ける。
「それにしても随分と可愛らしいのね、噂の名探偵さんは」
「...ふっ」
絃貴は慧愛が女性の事を鼻で笑ったのかと思い、彼女の様子を伺う。でも、彼女の目線は目の前の女性には向けられておらず、彼女はこのバーの店内を見回していた。
「この店、犯罪者の宝箱じゃん。こんな場所に呼び出して依頼の話なんて大胆じゃん」
慧愛が鋭い目つきで女性を見つめる。
そんな彼女の様子を疑問に思った絃貴が店内を注意深く見回すと、ある事に気づいた。店内にいる者は皆、何かしらの凶器を持っているのだ。
慧愛は、このバーに来て一瞬でこの状況に気づいていた。流石の洞察力だ。
「安心してちょうだい。彼らは私とは無関係で、少なくとも私はあなた達に害をなす気はないわ」
「それは知ってる、一目見れば分かるでしょ。いいからさっさと本題に入ってよ」
慧愛達がこのバーに来てこの女性に会いに来たのは、この女性からの依頼の内容を詳しく聞く為だ。
そして彼女が電話で簡潔に伝えた依頼内容は、彼女自身が殺し屋に狙われており、その殺し屋を殺すか捕らえるかして欲しいというものだ。
その内容を踏まえて、女性は依頼の話を始めた。
「実はめんどくさい殺し屋に狙われちゃったみたいなのよね〜、その名前も"双刃のアイザック"。ネームドの強者よ」
「アイザック...ああ、あいつか...」
ふと慧愛が呟いた言葉に女性は言葉を詰まらせる。
名探偵であり裏の世界の事にもよく関わっている彼女がその名前を知っているのも不自然な話ではないのだが、それでも彼女はアイザックをこの目で見た事のあるかのように呟いたのだ。
いくら彼女でも、会ったことがあるのは少しおかしい。
「ん?ああ、ごめんごめん続けて。今は私の詮索よりも依頼だ」
「そ、そうね...えっと、まあ簡単に言うとアイザックの居場所を突き止めて殺すか捕まえるかして欲しいのよ。捕まえる場合は警察に届けてくれればいいわ」
仕切り直して話を再開した彼女は、余裕な笑みでワイングラスを片手に話す。
現在進行形で命を狙われているというのに随分と余裕そうだ。彼女も普通の人間ではないのだろう。
「それと、一つ聞いてもいいかしら?」
女性がサングラスから赤い瞳を覗かせて、慧愛を見つめる。そして笑みを浮かべ、口を開いた。
「噂の名探偵さんは、もう奴の居場所が分かってたりするのかしら?」
「...そうだね」
慧愛は彼女の問いに笑みを浮かべ、席を立つ。
そして拳銃を取り出し、窓に向かって銃弾を放った。
「じゃあさっそく行ってくるから、報酬は用意しといてね?」
「えっ、もしかして本当に分かって...?」
店内が混乱している中、慧愛は窓を突き破って外へ飛び出す。そんな彼女を絃貴は急いで追いかけた。
◇◇◇
慧愛が店を飛び出してから数分経ち、彼女は路地裏へと入って行く。
そして彼女に追いついた絃貴は、息を整えながら彼女に問う。
「で、例のアイザックの居場所ってどこなんだい?分かってるんだろう?」
「あの店内にいたよ、私はあいつの顔を見た事があるからすぐに分かった。それよりも、警戒しといた方がいいよ。今のあいつのターゲットは私達だからね」
その瞬間、慧愛の背後に人影が現れ、鋭い刃が彼女に襲いかかる。
慧愛はその刃を蹴り飛ばし、人影から距離をとった。
「うおっ、流石はホームズのご令嬢様だな!完全に気配を消してたはずなんだがな?」
「あんたが下手くそなだけでしょ。あの程度で気配を消せただなんて、だから私に負けるんだよ」
二つのマチェテを両手に持つ大柄の男、彼がアイザック。
どうやら慧愛とアイザックは本当に面識があるようだ。会話の内容から察するに、アイザックは過去に彼女に負けている。そしてその力の差は今も同じだろう。
だが、アイザックが退かない理由はただの慢心ではない。彼なりにこの戦いに勝機を見出しているのだ。
「そこの男、お前の助手だな?お前を殺せないならそいつを狙えばいい、お前の大切な助手なんだろ?」
「っ...はっ、笑わせないでよ。私にとってはただの替えのきく駒なんだけど?」
慧愛は笑ってそう言うが、その笑みは少し引き攣っている。つまり、図星なのだ。
彼女にとって絃貴はただの替えのきく助手、それは決して嘘ではない。それなのに、彼女はアイザックの言葉を完全に否定出来なかった。
もちろん彼女のその様子に、アイザックも絃貴も気づいている。
「ははっ!これは嬉しい誤算だなぁ!」
「ちっ、面倒だな。報酬をたんまりと貰わなきゃね!」
狭い路地裏で慧愛とアイザックの戦闘が始まる。
この場所では拳銃を持っている慧愛の方が優位に立てるはずなのだが、アイザックは彼女の拳銃から放たれた銃弾を全て手に持っているマチェテで弾く。
過去に慧愛に負けているとはいえ、アイザックはネームドの殺し屋だ。そう簡単に勝てる相手ではない。
だが、例えアイザックが相手であっても本来の慧愛なら一瞬で勝負を決める事が出来る。それなのに彼女が未だ戦いに王手を掛けれないのは、彼女の集中がアイザックに向けられていないからだ。
「おいおいそんな奴気にすんなよ!俺に集中しろ、ホームズ!」
「うっさいなぁ!あんたなんか片手間で十分なんだよ!」
その瞬間、慧愛が勝負を決めようと一気にアイザックに接近する。だがそれと同時にアイザックが拳銃を取り出し、彼女の背後にいる絃貴に向かって銃弾を放った。
「くそっ!」
慧愛は即座に反応し、その銃弾を弾く。それによってできた一瞬の隙にアイザックがマチェテを振り下ろした。
だが、アイザックが振り下ろしたマチェテを慧愛は銃で受け止め、アイザックに蹴りを入れた。でも流石はネームド。蹴りをまともに喰らった訳ではなく、きちんと最低限のダメージに抑えて受け身をとっている。
「ははっ!まさかお前のそんな顔が見れる日がくるとはなぁ!」
「っ...敏陰、さっさとここから離れて。戦いづらい」
慧愛がそう言うが、絃貴はその場を動こうとしない。やがてしばらく沈黙を突き通していた彼は一歩ずつ歩き出し、慧愛の横を通り過ぎた。
「敏陰?何やって...!」
「いいから見ててよ。まったく、なんで僕が足でまとい扱いなのか甚だ疑問だね。まあ、確かに戦闘は見せた事がなかったけど」
絃貴はそこら辺に落ちているバールを拾い、アイザックの元へ歩みを進める。
そこでアイザックは気づく、この男は相当の手練れだと。慧愛には決して敵わないだろうが、それでも目の前のこの男は自身に匹敵する程の実力者だ。
「はっ、おもしれぇ!」
アイザックが地を蹴り、マチェテを振り下ろす。
その刃は確かに絃貴を捉える。だが、捉えただけで彼には当たらなかった。
絃貴が、アイザックのマチェテを自身の手に貫通させた。
「...は?」
その彼の行動に一瞬困惑したアイザックは隙を見せる。その隙に絃貴が彼の手を引き寄せ、そしてみぞおちに蹴りを入れた。その蹴りによってアイザックは壁まで飛ばされた。
鉉貴は痛みを感じているような素振りは見せず、ただ冷静に包帯を手に巻いた。
「さて、反撃の時間だ」
名探偵佐々木慧愛の助手である敏陰絃貴。彼は慧愛の放った不意打ちの銃弾さえ避ける程の反射神経と身体能力を持っている。
そんな彼の明確な戦闘能力が、これから明かされる。
あなたの記憶の本棚に、このお話は入れたでしょうか?
もし記憶に残っていただけたらと思っていただけていたらすごく嬉しいです!
ぜひ、これからも応援よろしくお願いいたします!