表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

#3 水死体多発事件

あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?

いきなりアポもなしに事務所に来た絃貴が助手になり、慧愛の生活は実に充実なものとなった。

だが、もちろん依頼は毎日のように来る。その大体がよくある浮気調査やストーカーなどの依頼なのだが、それでもたまに特殊な依頼がくる。

「ふむ、水死体ね...」

慧愛は今、依頼の電話の対応をしている。

その依頼の大体の内容は、最近とある池に多発している水死体事件の解明と解決だ。話によれば、警察がどれだけ警戒を強めてもいつの間にか水死体が浮いているらしい。

「分かった。じゃあ、しばらくしたら行くから、その際に詳しい話を」

「依頼かい?名探偵さん」

電話を終えた慧愛に、絃貴が話しかける。

なぜか少しワクワクしている様子の彼を横目に、慧愛はゆっくりと支度を始めた。

「うん、今回は多分すぐに終わるかな。もう大体分かったし」

「へ〜、話を聞いただけで分かっちゃうんだ。すごいね」

「状況さえ分かれば大体は分かるよ。あとは犯人を探すだけかな」

どんな依頼でも今まで楽々とこなしてきた慧愛は、その推理力は名探偵と呼ばれる者の中でもずば抜けている。

そんな彼女は今回、警察からの依頼を受け、警察もお手上げ状態の不可解な事件を解決しに行く。もちろん、それに助手である絃貴もついて行く。

「それじゃあ行くよ、敏陰。あんたの初仕事だ」

「おや、仕事は雑用じゃなかったっけ?」

冗談を言いながら、敏陰は名探偵の背中を追う。

彼にとって初の現場に、彼は心踊っていた。


◇◇◇


「おお、来たか名探偵」

しばらくして、慧愛と絃貴は事件の現場に到着した。そこには多くの警察と、以前彼女が無理難題を押し付けた刑事がいた。

周囲の状況からして、かなりの大事件なみたいだ。

「どうも刑事さん。早速なんだけど、この場の警察を全員集めてくれない?」

「ああ、構わないぞ。ところでそちらは?」

刑事は慧愛の隣に立っている絃貴を見る。

当然、彼が助手だと言う事は慧愛もまだ言ってはいない。その為、彼は慧愛の前に出て刑事に礼をする。

「どうも、慧愛の助手の敏陰です。これからよろしくお願いします」

「おお、助手が出来たのか。良かったな、名探偵」

そう一言だけ残し、彼はこの場の警官に招集をかける。

慧愛はその間にも、常に周りを観察していた。


◇◇◇


やがて現場の警察が全員集まり、慧愛はこの場の全員を見回す。

この場にいる警察は刑事を抜いて全員で12名、慧愛はその中に犯人がいると目星をつけた。

「...へぇ、面白い」

彼女はしばらく全員の姿を見回した後、そのまま何も無かったかのように池のそばへ向かった。

そんな彼女の行動には当然、この場の全員が困惑する。

「おい名探偵、結局なんで全員を集めたんだ?」

「この中に犯人がいると思ったんだよ。でも、おそらく事件の鍵はこの池かな」

慧愛はそこら辺の石を拾い、何度か池の中に投げ入れる。彼女はその度に池の音に耳を済ませていた。

そしてちょうど5個目の石を投げ入れた後に、彼女は拳銃を抜いて池の1箇所に向けて銃を放った。

「っ!おい、何をして...」

「黙って見てて、すぐに分かる」

彼女が銃を放ってしばらくすると、池の中から何かが浮かび上がってきた。

それは紛れもなく人間の死体であり、彼女はその後も次々と銃を撃ち、その度に死体を浮き上がらせた。

「こ、これは...」

「時間の経過で解けてしまうほどに弱い拘束で固定されていた死体だよ。位置は水面からたったの2mぐらいだけど、この池の濁り具合じゃ見えないだろう。でも、この水死体の事を知っている、そして私のように拳銃を持つ者なら、この拘束は陸上からでも簡単に解ける」

彼女は淡々と、今の状況を説明する。

だが、これではただの状況整理だ。まだ、事件は解決していない。それを彼女は分かってはいるのだろうが、すでに事件は解決したと言わんばかりに余裕な笑みで歩き出した。

「それじゃ、さっさと被害者リスト見せて。新しい死体の身元も分かったら私に送ってよね。念の為に別の可能性も考えたいから」

「あ、ああ、分かった」

そうして彼女は被害者リストのデータを受け取り、その場で確認する。そしてしばらくすると刑事にそのリストを返却し、踵を返した。

「行くよ敏陰、犯人の居場所が分かった」

「えっ、もう分かったのかい?いくらなんでも早すぎじゃ...」

彼女は敏陰の車の助手席に乗り、淡々とマップのナビを起動する。

その仕草を横目に見ながら、彼は車を出発させた。

「敏陰も分かったよね?今回の犯人」

「いやいや、流石に分からないって。情報が少な過ぎるよ」

「ふ〜ん、十分だと思うけど」

彼女は当然の事かのように淡々とそう言い放ち、窓の外を眺める。その横顔はとても退屈そうで、さっきまでの楽しそうな笑みはどこにもなかった。


◇◇◇


しばらくしてとある山の奥の廃ビルに2人は訪れ、そして慧愛は堂々とその廃墟の中へ歩みを進める。

その後ろを絃貴は今回の事件について考えながら進んでいた。

彼がいくら悩んでも事件の犯人が分からない。ただ分かるのは、犯人がとんでもなく卑劣な男だという事だけだ。

「よし、ここら辺でいいかな。敏陰も油断はしないようにね?」

「こんな廃墟に本当に犯人がいるのかい?それに油断って、もしかして相手は武装を?」

敏陰が彼女に疑問をぶつけると、彼女はそれを肯定するかのように笑みを浮かべた。

2人がいるのは元々はガラス張りだったオフィスであり、ガラスが全て割れている事でかなり広くなっている。

そんな場所に、一発の銃弾が放たれた。

「ねぇ、ちょっと野蛮じゃない?いきなり挨拶も無しにさ」

銃弾を軽々と避けた彼女が見つめる暗闇から、一人の男が現れる。

その男はさっきまで事件の現場にいたはずの警官の一人であり、その警官の中でも一際筋肉質だった男だ。

「ちっ、流石は噂の名探偵だな。まさか銃弾を避けるとは」

「目がいいからね。さて、それじゃあさっさと戦闘開始といこうか?」

慧愛が拳銃を取り出すと同時に、その男は物陰に隠れる。

それと同時に絃貴も物陰に隠れ、その戦闘を見守る事にした。彼も銃弾は避けれるが、今回は戦闘能力もずば抜けていると噂の彼女の戦闘を見てみたいのだ。

「出てこないの?それならこっちから攻めるけど」

「はっ!調子に乗るなよ女!」

その瞬間、あの男のいた場所から彼女の目の前に手榴弾が投げ込まれる。彼女の周りに障害物はなく、まさに絶体絶命の状況だ。

それでも彼女は、焦った顔はひとつも見せていなかった。

「っ...!慧愛!」

やがて手榴弾は爆発を起こし、煙で彼女のいた場所が見えなくなる。

そんな最中、あの男のいる場所から少し離れた場所の天井が爆破され、そこから慧愛が飛び降りてきた。

「っ!嘘だろっ!」

「残念、現実です」

睡眠薬入りの銃弾が男の腕に撃たれ、すぐに男は眠りについた。

そして彼女は何事も無かったかのようにスマホを手に取り、刑事に電話をかける。

「位置情報送るからパトカー持って来てね。じゃあ、よろしく〜」

「慧愛、お疲れ様。見事な戦闘だったよ、ちょっと理解が追いつかないけど」

彼女は電話を終えると、この建物の窓際まで歩き、外を眺める。そしてため息をつき、肩を落として、目に見えて分かるようにガッカリしていた。

「はぁ、終わるの過ぎ...久しぶりに遊べると思ったのに...」

彼女の言葉に絃貴は若干引き、そんな彼の様子に気づいたのか、慧愛はコホンと咳払いをし、事件の説明を始めた。

「今回の事件はあの男の仕業だね。おそらく警備の甘さが原因で犯人が分からなかったんだろう。状況と靴の汚れで大体犯人は予想ついたよ。あと、おそらく彼は元自衛官とかだろうね、戦い方を知っているし、サプレッサーを拳銃に付けていた」

つまり、彼女が突き詰めた今回の事件の真相はこうだ。

まず、理由は分からないが彼は事前に池の中に軽い拘束を施した何人もの遺体を池に沈め、それをしばらくした後に水死体として浮かび上がらせた。

水死体が次々に浮かび上がり、その周囲に怪しい人物はいない事から、この事件は困難を極めただろう。

警官という立場と、傍から見れば水死体を浮かび上がらせれる程の時間がない状況を作り出し、自身は犯人ではないと周りに完全に思わせる。これによって、彼が仮に人を殺せる時間があっても、水死体が浮かび上がるまでのアリバイがない為、彼は絶対に犯人として疑われない訳だ。

だが、それを慧愛はいとも簡単に見抜き、今回の事件を解決した。だが、絃貴が知りたいのは彼女がどうやって手榴弾から生き残ったかだ。

この事件よりも、彼にとってはあの現象の方が不可解だ。

「それにしても、どうやってあの場面を生き残ったんだい?あれは誰がどう見ても絶体絶命だ」

「ん?簡単だよ、窓からジャンプして上の階に移動した。ただそれだけだけど?」

この廃墟の窓枠から上の階の窓枠へは約3m程の距離がある。

そして窓枠は約1mの高さであり、そんな場所から約3mも上の窓枠へとジャンプするのは超人としか言いようがない。比較的小柄な彼女にそんな芸当が出来るはずもないが、実際に彼女はそれをやってのけたのだ。

その事実が証明する。彼女は、正真正銘の俗世の死神なのだと。

「さあ、そろそろ警察も到着するだろうし、私達はお暇しようか」

「状況説明はいいのかい?流石に困るんじゃ...」

「大丈夫でしょ、私あの刑事と付き合い長いし」

そうして彼女はいつもと変わらない足取りで階段を降りる。

あんなに派手な事をした後なのにも関わらず彼女は一切の疲れを見せない。いついかなる時でも弱さ、そして隙を見せない。

それが彼女、名探偵である佐々木慧愛なのだ。

あなたの記憶の本棚に、このお話は入れたでしょうか?

もし記憶に残っていただけたらと思っていただけていたらすごく嬉しいです!

ぜひ、これからも応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ