#1 佐々木慧愛という探偵
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
探偵という言葉を聞けば、ドラマで難解事件の謎を解いたり、現実では浮気調査をしたりするような印象を思い浮かべるだろう。
大した武力を持たず、ただその頭脳だけで物事を解決する。そんな印象が世間では普通だ。
だが、そうではない探偵もこの世にはいる。
「こ、この化け物がぁ!おかしいだろ、なんでたった1人の女なんかに...!」
壁際に逃げ込み、逃げ場の無くなった男は弾の無くなった銃を構えながら、その目を見開いて目の前の少女を目に焼きつける。
それに対して彼女は片手で拳銃を構え、その男を睨みつけた。
「じゃあ、しばらくおやすみ。悪人さん?」
殺傷能力は低いが、強力な睡眠薬が仕込まれた弾が放たれ、男は一瞬で眠りにつく。
最後の一人を眠らせた彼女は、依頼主への電話を片手に、廃ビルの階段を降りる。
「佐々木です。依頼、無事に達成したので処理しといてね。あと、報酬の振り込みも忘れずに」
手短に要件を伝えると、彼女は廃ビルの前に停めてあったバイクに跨る。そして山道を走り、やがて市街地に出た。
ここは日本の首都である東京、人口が1000万を越える大都市だ。そんな東京に少女が一人。
どこにでもいるような茶髪だが、その顔立ちはその顔を一目見た者が三度見はするほど美しく、少しぼさっとした髪がもったいない程にだらしない。
彼女の名前は佐々木 慧愛、東京に住む探偵で、その事件の解決には銃火器の使用すら許されている武闘派の探偵である。
◆◆◆
朝、いつものように目を擦りながら起きた彼女は、温かい珈琲を片手にゆったりと身支度をする。
彼女は探偵だが助手はいなく、日本は比較的に平和な方なのでいつもは難解事件の解決や浮気の調査をしている。
そんな彼女は、珍しく今日は依頼がない日だ。
「あ〜、何しよっかな...」
彼女は普段は週4で依頼をこなしたり、書類の整理やらで忙しい為、休みはあまりない。
だが、仕事帰りに買い物などは済ませており、その買い物すら日用品ばかりで、ファッションなどには興味がなく、趣味は事件の解決なため休みがあってもゴロゴロする事以外は何もないのだ。
「そうだ...明日は書類を整理する予定だし、少しだけ終わらそうかな」
そう言ってリビングの机に広がったり、束になっている書類を目にすると、彼女は一気に嫌気が差した。
彼女は普段から書類の整理などという仕事を嫌がりながらもやっており、雑にしても後から困るのは自分だからと丁寧に長い時間をかけてしている。
そんな彼女は、書類に伸ばした手を止めた。
「助手って、雑用してくれるよね?」
慧愛は我ながら天才か?と顔をにやけさせた。
そして善は急げという言葉もあるように、彼女は早速助手募集のポスターの制作に入った。
その仕事の早さと言ったら、普段の仕事の何十倍は早かった。
◇◇◇
数時間もかからずポスターが完成すると、慧愛は早速警視庁に赴き、そのポスターを街中に貼るようにと無理難題を押し付けた。
彼女のそのわがままを聞く中年の刑事も、困った顔をしている。
「流石の佐々木探偵といえどね〜...こんなポスターを貼る訳には...」
「はぁ?私がどれだけそっちの事件担当してあげてると思ってるの?早く貼ってよ!じゃないともうそっちからの依頼は断るから!」
彼女は今までに警察が避けたいような銃火器を所持する者が相手の事件を何度も解決してきている。
性格に少し難はあるが、それでもその功績を挙げると彼女の右に出る者はまあいないだろう。
そんな彼女がこれからは警察からの依頼は受けないと脅したのだから、警察側はもちろん受け入れるしかない。
「じゃあせめてこちら側でポスターを作らせてくれ、そんなポスターじゃ来る人も来なくなって...」
「は?私の作品を侮辱するの?」
ただでさえ機嫌が悪くなっていた彼女は、自分のポスターを侮辱した彼を睨みつける。
これ以上彼女を刺激してしまったら本当に取り返しがつかなくなるかも知れないと彼は判断し、渋々彼女のわがままを受け入れた。
「じゃあこれをコピーして都内に貼っとくから、それでいいな?」
「うん!それでお願いね!よしっ、これで私にも雑用係ができる!」
「おい、助手を雑用係って呼ぶな」
そして警察すらも下手に出させる程の名探偵佐々木慧愛は、1人の刑事に飽きれられながら、上機嫌で自身の家へ帰って行った。
◇◇◇
夜の東京は明るく、昼頃ほど人は多くないが、それでも日が出ている時と月が出ている時とでは違う空気を醸し出している。
そんな東京の一番高い塔に一人、胸ポケットに収まるほどの小さなスコープを目に当て、街を見下ろす男がいた。
「それにしても夜の東京は明るくて助かるね...おかげで、一匹のリスも見つけやすい」
彼のスコープに映るのは一人の少女。
全体的に茶色いその服装は、どこからどう見てもThe探偵といった見た目だ。彼女はおそらく自分の身分を隠す気も、自分自身を隠す気もない。
探偵の中でも最も危険な事件に関わることの多い彼女がだ。
「ん?あのリス、何をして...」
渋谷の交差点の真ん中で一匹のリスは立ち止まり、電波塔の上にいる彼の方向をじーっと見つめる。
そして彼女は自身の視線の先に向けて拳銃を構えて、その引き金を引いた。
「っ!あっぶな...!」
彼の髪の毛を掠めた銃弾を見届けて、彼女は困惑する人々の間を何気ない顔で通り抜け、そして彼の視界から死角となる建物の陰に入った。
その姿を見開いた目で見届けた彼は、その名を口にする。
「佐々木慧愛...難解事件を息をするように解き明かし、そして銃火器を持った集団をほぼ無傷でねじ伏せる。その化け物じみた能力に数多の悪人から恐れられ、裏社会では異名持ちの危険人物...」
彼はその顔に笑みを浮かべ、その異名を口にする。
その異名は佐々木慧愛というもはや人の域を超えた化け物に付けられた、彼女に相応しい異名。
ただただ恐れられたが故に付けられ、悪人達の間で言わずとも知られた異名。
「"俗世の死神"...可愛らしい君にはこの異名は似合わない。君もそう思うだろ?慧愛」
あらゆる悪に対し、無慈悲に手を下す名探偵。
彼女ほどの推理力を持つ者は世界中を探しても10人もいるかどうかのレベルであり、そして彼女の戦闘能力はもはや兵器とも呼べる程の化け物じみたものだ。それが佐々木慧愛という探偵なのだ。
そんな彼女を見つめる彼は、感情の篭っていない目でその名前を呼んだ。
まるで、彼女と親しい仲かのように。
あなたの記憶の本棚に、このお話は入れたでしょうか?
もし記憶に残っていただけたらと思っていただけていたらすごく嬉しいです!
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