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メギドの騎士  作者: 斗南
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第07話 進路

 それから三週間ほどが過ぎ、いよいよ卒業まであと半月と迫った日曜日。アキツたち八十八期生は、進路選択における重大な局面を翌日に控えていた。


「おはよー、アキツ」


 日課の素振りを終え食堂に一番乗りしたアキツの元へ、少し眠たげな表情のカミユが姿を現す。休日の朝は普段より寝坊する生徒が多く、開いたばかりの食堂には調理場の従業員が皿を並べる音だけが響いていた。


「ああ、おはよう。目が赤いぞ、カミユ。本の読み過ぎじゃないのか?」


「うん、まあね」


 カミユはスポンジを乗せた皿をテーブルに置くと、隣に腰を下ろした。


「いよいよ明日だね、最終の進路申請」


「そうだったな。まあ、どうせ全員が希望通りにいくわけじゃないが……」


「はぁ、ほんと理不尽だよね。どんなにいい成績を修めたって、結局最後は方舟に決定権があるんだから」


 二人は溜息交じりに、もそもそとスポンジを食す。そうしているうちに食堂には徐々に人が増え始め、そこかしこから挨拶を交わす声や雑談が聞こえてきた。


「でも、アキツは心配いらないね。剣の騎士団(バルムンク)は希望者が少ないもの」


「それだって、結果が出てみないとわからないだろう?」


 そのとき、背後から声が聞こえた。


「やっぱりアキツくんは剣の騎士団(バルムンク)希望なんだ」


「ま、アキツらしいわね」


 そう言いながら横を通り過ぎ、二人の前に座ったのはミサギとレヴェナだった。いつものように軽く挨拶を済ますと、アキツは三人に向かってこう問い掛ける。


「お前らはどうするつもりなんだ?」


「あ、僕はダメ元で本部参謀課」


 打てば響くとばかりに、カミユが軽く手を挙げ即答する。


「え? あんた靴の騎士団(タラリア)じゃなかったの? 自分は偵察や調査に向いてるって言ってたじゃない」


 そう尋ねるミサギに、カミユはさらりと答える。


「いやだなぁ、それは昔のことだよ。今の僕に最適なのは何といっても頭脳労働さ」


「それはまあ、否定しないけど……」


 すると今度はレヴェナが遠慮がちに挙手をした。


「わたしは本部教育課希望かな。できれば初等科の教官になりたい」


 これにはだれも異論を唱えなかった。騎士としての実力はあるものの、彼女の性格は戦いに不向きだと感じていたのは、どうやらアキツ一人ではなかったらしい。


「それで、ミサギはどうなんだ?」


「言うまでもないわ。剣の騎士団(バルムンク)よ」


 返事を受けたアキツの胸中に複雑な思いが渦巻く。希望進路が同じであることは嬉しかったものの、その危険性の高さには不安を覚えずにいられない。

 剣の騎士団――通称バルムンク。危険地帯からの物資回収や鬼獣討伐を任務とし、その生存率の低さゆえに毎年希望者がほとんどいない部署である。


「あはは。同じでよかったね、アキツ」


「馬鹿言うな。どれだけ危険な任務か、お前だって知ってるくせに」


 スポンジを食べながら発したカミユの軽率な言葉を、アキツはそうたしなめた。そんなアキツに対し、ミサギが同様の口調でこう話す。


「何言ってるのよ。あんたこそ、それを承知で希望してるじゃない」


「う、まあ、俺はミサギと違って実技しか能がないからな。それに目的もある」


「あ、それってアキツくんがよく話してるナントカ流剣術のこと?」


 尋ねたのはレヴェナであった。


「ああ、そうだ。初代騎士の一人、捨刀しゃとうのシデンが編み出した型破りな剣術。その技を引き継ぐシュリ隊長の部隊に入り、捨刀流三代目継承者となるのが俺の夢だ」


 幼い頃から口癖のように繰り返してきた話題。ミサギは耳に胼胝たこができたとでも言いたげな顔を向けてくる。


「はぁ、あんたって昔からそれ一筋よね。確かにわたしにはそんな動機はないわ。ただ消去法で選んだだけだもの」


 消去法という言葉を聞いて、アキツは「なるほど」と思った。一般人が嫌いなミサギにとって、彼らと関わりの深い盾の騎士団(アイギス)という選択肢はまずあり得ない。また性格的にカミユやレヴェナのような後方支援も考えにくい。残りは靴の騎士団(タラリア)剣の騎士団(バルムンク)になるわけだが、彼女の気性は偵察や調査に不向き。よって、剣の騎士団(バルムンク)だけが残るというわけである。


「アキツの気持ちはわかるけどさ、剣の騎士団(バルムンク)には二十もの部隊があるんだよ。どこに配属になるかは運次第じゃないかなぁ」


 カミユの指摘に、アキツは頷く。


「ああ、わかっている。お前と同じで、駄目で元々ってやつだ。それにもし部隊が違っても、同じ騎士団であれば弟子入りくらいは認めてもらえるかもしれない」


「うーん、剣の騎士団(バルムンク)は任務が過酷な分だけ休暇も多いし、教えを乞う時間も取りやすいか……。うん、そうだね。アキツの実力ならあり得るかも」


「ふふ。夢が叶うといいね、アキツくん」


「ま、せいぜい頑張りなさい」


「ありがとう、三人とも」


 友人らの励ましに、アキツの頬が緩む。そんな四人に、隣の長テーブルから声を掛ける人物がいた。

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