第23話 告白
食堂は早めの食事を取る騎士たちで少しざわついていた。カミユは席に着くなり、さきほどの続きを話し始める。
「さっきの質問だけど、アキツはどう思う?」
「そうだな……。俺が思い付くのは、革新派と保守派の対立くらいか」
「というと?」
「地上への早期脱出を訴える革新派に対し、現状維持を主張する保守派。ようするに、保守派の連中が革新派を抑え込むために策を講じたってことだ」
「その策が第二層に鬼獣を送り込むことだと言いたいのかい?」
「ああ。前回の第三層奪還作戦が失敗した原因は、カミユも知っているだろう?」
「もちろん。原因は、突如として第二層に現れた上位レベルの鬼獣の群れ。そのせいで多くの騎士が命を落とし、前線の騎士たちは撤退を余儀なくされたんだ」
「保守派はそれを利用したんだよ。今回のような事件を起こすことで、また同じことが起こるという不安を煽り、世論を傾けようと企んでいる」
「うーん……。でもそれだと逆に、第三層の奪還の必要性を訴える人も出てくるんじゃないかな?」
「うっ、まあ、それもそうだな」
「それに、彼らには実行不能な点があるよ」
「なに?」
「鬼獣を送り込むことさ。まず捕えるだけでも命懸け。どうにか捕えたとしても、人目に触れず安全に運ぶのは難しいし、閉じ込めておく場所もない。そして何より、送り込んだ鬼獣の行動をコントロールする術がない。こちらの思い通りになんて、動いてくれるわけがないからね」
「確かにそうだが、それならやはり人為的ではなく自然発生的なものと見なすべきじゃないのか?」
「うん、まあね」
カミユは気のない返事をすると、しばらく皿の上の一点を見つめていた。そして意を決したかのように、アキツの目を真っ直ぐに見つめてこう言った。
「実は、以前からずっと思っていたことがあるんだ」
その態度にいつもの軽い調子は感じられない。珍しく真剣な様子の彼に、アキツはどんな話が飛び出すのかと息を飲んだ。
「ただの妄想だと、ずっと自分に言い聞かせてきた。でも最近、それを裏付けるような出来事があってね。それがきっかけで、僕の中で考えが変わったんだ」
アキツは頷き、次の言葉を待つ。
「ずばり言うよ。メギドには、僕たちの知らない裏組織が存在している可能性がある」
「は? 裏組織?」
「うん、もちろん革新派や保守派のような大っぴらなものじゃないよ。もっとこう闇に蠢くというか、人知れず僕らを監視しているような組織のことさ」
アキツは驚きを隠せなかった。自分たちが監視されているなど、そんなことは今まで考えたこともない。こんな突拍子もないことを言い出すなんて、カミユはどうかしてしまったのだろうか?
「いや、しかし、そんなものがどこに存在すると言うんだ?」
「あるじゃないか。何百もの人間を収容できるほど巨大で、しかも僕らが決して立ち入ることのできない建物が」
その言葉に、アキツはハッとした表情を浮かべる。
「まさか……、方舟?」
「正解。今日のアキツは冴えてるなぁ、あはは」
アキツは急に不安を覚え、周囲を見回した。騎士というのは特殊な能力を持つ一方で、その言動に関して一般人よりも厳しい取り締まりを受ける。今の話はあまりに常軌を逸していて、誰かに聞かれでもしたら危険思想と見なされてしまうかもしれない。彼はそう感じたのだ。
「大丈夫だよ、アキツ。この喧騒の中じゃ、他の人には聞こえないさ。そのためにここに来たんだから」
「いや、それなら部屋で話した方が……」
「言ったでしょ。監視されているかもしれないって」
カミユはスポンジ状の食べ物を指で突っつきながら、さらに続ける。
「僕の考えが正しければ、メギドの至る所にカメラや集音器が仕掛けられている。一番怪しいのは、メギド様式の装飾かな。それとプロビデンスの目と外灯も疑わしい。もしくは、僕らの体内に発信機が埋め込まれていて――」
「な、なあ、カミユ。理由は何だ? どうしてそんなことを?」
話を遮るようにアキツが尋ねると、カミユは答えではなく質問を返してきた。
「ねえ、アキツ。幼い頃の記憶ってある?」