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ナナシの悪霊

「友人の娘さんってことは……」

「彼女のご両親の学友。……私の認識が正しいなら、ね」


 記憶は酷く曖昧で、時折境界線も見失うという。


「じゃあ、あの時襲ってきたのは」

「私だ。すまない。制御できなかった」

「それは別に構わないけど……」


 確かに面食らったが上手く立ち回ることができたので怪我はない。


「彩菜に何かあるのはわかってたし」

「ふふっ、わかりやすい子だからね」

「まあ、こんな方向とは思わなかったけど、最悪斬りかかられるぐらいは想定してた」

「……どういう想定をしてるんだよ」


 呆れられてしまった。

 功を奏したのに。


「実は病気で倒れるとか、リュウに変身するとか、暴走するとか……そこら辺だろうなーって」

「漫画の読み過ぎだ……」

「合ってたじゃん」


 批判される謂れはない。


「そもそも、リュウの存在自体がファンタジーだろ? 何事もありえるって心境にもなるよ」

「それは……そうだね」

「この件で組んでからずっと悲壮感に溢れてた。リュウ人を見て感情を露わにした。見たことのない表情を沢山見たよ」


 知り合って一か月程度の仲だが、わかることはある。


「だから、どうしようもない何かを抱えてたらどうしようかと思ってた」

「思ってた、ね」

「その点では安心したかな」

「悪霊だろ? どこからどう見ても」

「そりゃ、暴走した時は怖かったけど……怒った彩菜も怖いし」

「その憎まれ口は止めておいた方が良い。それこそ、怖い彩菜を見る羽目になる」


 軽口に軽口で返してくる。けれど、やはり力はない。


「わかってるよ。……で、お姉さんは知ってるのか?」

「お姉さん? ……ああ、彼女のことか。知ってるよ、話したこともある」

「じゃあ、彩菜は?」


 少し間を置き、首を横に振る。


「伝えていないみたいだ。見える記憶には限りがあるから断定はできないが」

「普段は寝てる感じなのか?」

「どうだろう。私の感覚としては時が止まっている感じもする。けど、不意に彩菜の見た光景が浮かび上がってくる」


 悪霊も大変なんだなと言うと、口角をあげ、そうなんだよと肩をすくめる。


「ただ取り憑いているだけならまだしも、たまに前に出てしまうから困ってしまう。その中でも私でも彩菜でもない時が……」


 そこで言葉を区切り、力無く頭を振る。


「いや、私なのだろう。何せ、家主に黙って住んでいるだけでなく、無意識に乗っ取ろうとするのだから」


 彼女の独白を聞き、俺は思ったことを口にする。


「それって三人目じゃないの?」

「え?」

「彩菜でもアンタでもないのなら、三人目がいると考えた方が良くないか? 一人いるなら二人いてもおかしくないだろ」

「い、いやいや、何を言っているんだ……」

「あれ? おかしなこと言ってるかな。アンタが取り憑いてるのなら、他の人が取り憑いてる可能性はあるだろ」

「も、もちろん、可能性はある……あるにはあるが、いくらなんでも……」

「出来すぎてる?」


 彼女の疑問はその言葉に集約される。


「たまたまだって考える方がおかしいだろ」

「……何が言いたい?」

「誰かしらが意図して取り憑かせたって思うな、俺は」


 言い切ると同時に部屋の空気がピリつく。

 彼女にとっては軽はずみに言ってはならないことだったらしい。


「それは、この子を実験体にした奴がいるかもしれない、と」

「もちろん。不慮の事故って可能性もあるけどな。それでも、たまたまそんなことが起きましたなんて言われるよりは幾分か納得がいくよ。多分、彩菜もそう思うんじゃないかな?」


 ファーストフード店での会話から確信している。


「……考えたくないね」

「何故?」

「仮にそうだとすれば、学園関係者の可能性が高いからだよ」

「そうなるな」


 別に善意で作られた組織でもあるまい。


「必要があれば……もしかした、できるかもしれないからってだけでやったかもな」

「……学園の皆は人のために世のため、身を粉にして戦っている。軽はずみに侮辱するのはやめた方が良い」

(俺も体を張ってる一人なんだけど)


 どうにも、彼女は学園関係者への信頼度が高いらしい。

 記憶が曖昧という割には妙な話だ。


(記憶を弄られてるんじゃないのって言ったら殺されるか)


 それぐらいやっても不思議ではないと思うのだが、今の彼女が納得することはないだろう。


「それもそうだな」


 実際、事実だとしても大半の人は関わっていないだろうし。


「ただ、必要ならってのは撤回しないぜ。アンタがどこの誰だかは知らないけど、学園としても失うわけにはいかない人材だったかもしれない。もしくは、彩菜のために取り憑かせる必要があった。偶然でも悪意でもないケースだって十分考えられる」

「……確かに、否定はできない。無意識に外していた可能性だ。感謝する」

「とはいえ、それならそれで放置してるのは何故って話だよな」

「様子を見ているのだろう」


 それが一番無難な考え方か。


「彩菜の親父さんには?」

「……いや、悪霊のつもりだったから話しかけることはできなかった」

(お姉さんとは面識があるらしいし、伝わってはいるか)


 わざわざ、お姉さんのところで止める理由もないだろう。


(……いや、彩菜はお父さんと仲が悪いみたいだし、伝えていなくても不思議ではないか?)


 折を見て聞いてみるか。

 触れてほしくないのなら、そう言ってくれるだろう。


「失敗したって思ってるのかもな。いつ頃から意識が?」

「……はっきりとした記憶は、あの子が五歳の誕生日を迎えた日だ」


 それだけ言って口を閉じる。

 もうちょっとエピソードが続くかと思ったが。


「これ以上は彼女のプライベートに関わる。彼女から聞いていないのなら教えることはできない」

「なるほど」


 納得する。

 ペラペラ漏らしたらそれこそ悪霊だ。個人情報は保護されなければ。


(俺が死んだらパソコンが爆発する仕掛けとかないのかな)


 中身を見られたらと考えると死んでも死にきれん。


「……そろそろ時間だ。あの子が起きる」


 気づけば一時間程経過していた。

 有意義な会話だったと言って良い。

 不可思議現象に多少なりとも答えを得られた。

 だが、もう一つ聞いておくべきことがある。


「じゃあ最後に」

「何だい?」

「アンタの名前は?」


 俺の質問に彼女は扉の前まで移動し、振り返らずに、


「私の名前は如月叶きさらぎかなえ


 彼女は名前と共にもう一つの事実を告げる。


「最後の記憶は、視界を覆う紫色の雷ーー」


 紫電を纏いしリュウオウが脳裏に浮かぶ。


「ーー遠い昔にその命を散らせた悪霊さ」


 儚げに笑い、扉の奥へと姿を消した。


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