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豹変

「鉱石リュウなら鉱石に映るんだよな?」

「文献と同じ種族ならね。でも、映らないのなら違うんじゃないの?」


 彩菜は四方に気を配りながら適当に言い捨てる。

 彼女にとってはどうでも良いことらしい。


「おっと!」


 空気を割く音が聞こえ、咄嗟にその場を離れる。

 遅れて後ろにあった壁が衝撃音共に砕けた。

 後を見るに尾と考えて間違いないだろう。


(今までの攻撃は全部尾か? 本体は動かない感じか)

「少なくても二本はあるわね」


 隣に降ってきた彩菜が言う。

 どうやら、同時に襲いかかってきたようだ。


「二体って可能性もあるけどな」

「なんで嬉しそうなのよ……。複数体の可能性は一旦消すわ」

「はいよ」


 実際、複数体もいたら対処には骨が折れる。

 ただでさえ不可視の攻撃で厄介なのに、多方面を気にする余裕はない。


「隆治!」


 散開する。

 轟音と共に壁に亀裂が走り、砕け散った。

 横振りより縦振りの方が威力が高いのか。


「どうにかして尾を掴めれば……」


 彩菜が呟く。

 それが一番近道か。

 尾を辿っていき、本体を捉える。


「風で受け止められないの?」

「方向が分かってから来るまでの時間が短すぎる。間に合わない」


 反射で使えるほど熟練されていない。

 ただ、他の方法なら何とかなるか?


「形状がはっきりしないから断言はできないけど、着弾した後なら抜けないようにするのはできるかも」


 彩菜はふっと息を漏らし、


「かもじゃなくて、やるのよ」

「そりゃまた無茶なことを」


 そう言いながらも口角が自然と上がってしまう。

 頼られるのが心地良い。


「…………」


 俺の返答など聞く気がないらしい。

 彩菜は距離を開け、精神統一に入る。

 相手の攻撃も、俺の風の盾も不可視なのだ。すぐさま反応するために集中力を高めているのだろう。


「そっちに攻撃が来たらどうするんだよ!」


 呼びかけてみるが反応はない。

 まあ、リュウが移動していないのなら彩菜の場所は狙われにくいとは思うが……。


(即断即決なこと)


 割り切りの良さは経験豊富だからこそか。

 どうせ、不測の事態になればアドリブが求められるのだ。

 ある程度、都合よく物事を見ても良いだろう。

 念の為、彩菜を視界の片隅に収められる位置に移動する。


「さあ、来い!」


 言うが早いか風を切る音がーー


(左と上!?)


 左からの音は遠くから急速に距離を詰めてくる。

 範囲がわからないため、飛んでかわすしかない。

 遅れて空中で身動きの取れない獲物を仕留めるため、二本目の尾が迫ってくる。


(やってくれるな!)


 だが、飛び上がると同時に風の足場を作り出し、蹴ることで射程範囲から逃れる。

 大きな音と共に地面が大きくへこむ。

 着地するまでの間に一本目の尾の痕跡を見る。

 地面に擦った跡が残っていたため、動かしていないのなら場所は……。


(手応えあり!)


 二本の尾を風の盾で取り囲む。


「彩菜!」


 彩菜を呼ぶ。

 だが、いた筈の場所に彩菜はいない。

 既に尾を追って本体を捉えようとしていた。


(俺がしくじったら、どうするつもりだったんだよ!)


 叫びたくなる。だが、顔がニヤけてしまい声にならない。

 全幅の信頼を行動で表現される嬉しさ。


「っ!」


 彩菜が止まる。

 そして、炎を携えた剣を振りかぶり、


「いい加減、姿を現しなさい!」


 一閃。

 苦悶の咆哮が辺りに響き、茶色の鱗を全身に纏う巨躯な獣が姿を現した。

 彩菜の一撃は側面に大きな傷をつけるも、致命傷には至らなかったようだ。

 血を流し、鳴き声を上げながらもリュウの眼には力が宿っていた。

 その様は……。


「美しい……」


 やはり、美しかった。

 リュウ人とは一線を画す。その体に秘めたる生命の輝き故か。

 とはいえ、そんな彼もリュウオウと比べると霞んでしまう光でしかないのだが。


(悪いけど、尾は離さないよ)


 身を守るべく、己の武器を取り戻そうとするが風の盾を破ることはできない。

 彩菜は破れかぶれの爪での攻撃をヒラリとかわし、慎重に距離を詰める。

 特殊なリュウだ。まだ何があるかわからない。

 彩菜の警戒心の強さもまた経験の賜物だろう。


(……地面が、揺れてる?)


 それは、微かな違和感だった。

 リュウがその巨躯を揺らすたびに地は揺れる。

 だが、それとは別に何かが地を這っていた。


(まさか)


 初めは俺を狙っていた。

 けれど、進路は急遽変更されたのだ。


「あや……」


 気づくのが遅れた。

 彩菜の背後に三本目の尾が姿を現す。

 彩菜は振り向かない。目の前のリュウに集中しているからか。


(マズイ……!)


 走り出すが間に合うわけもない。

 意識が遅れた以上、風も間に合わない。

 声も口から吐き出されることはなかった。

 襲いかかる最も太き尾。

 その先端は鋭く尖っており、喰らってしまえば致命傷は避けられないだろう。


(彩菜っ!)


 尾が彩菜の腹部に突き刺さろうとした瞬間だった。

 彩菜の姿がブレ、舞うように回転し、獲物を見失った尾を両断する。

リュウの耳を突く咆哮は断末魔かのようだった。


「良かった……」


 体が脱力する。

 息を吐き、胸を撫で下ろす。

 気づいていたのか。そうでなければ、あの反応の速さはなかろう。

 リュウはすっかり戦意を喪失していた。

 無理もない。尾以外のウェポンを持っているようには見えない。


(リュウ人が少なかったのは、彼が倒してたからか?)


 知性に欠けるリュウ人ならば、いくらでも狩れるだろう。

 その割には死体は転がっていなかったが。


「……死ね」


 ゾッとする声。低く、殺意が籠っていた。

 顔を上げる。誰の物なのかなんてわかっていた。

 彩菜だ。彩菜が言ったんだ。


「彩菜?」


 俺の口から出た声はあまりにもか細い物で、風にかき消され、彩菜に届くことはない。

 身の危険を感じたのかリュウが動く。

 尾を切り落とし、再び姿を消したのだ。


(尻尾切り!?)


 姿形は似ていたが、そこまでトカゲと似ているなんてと驚く。

 だが、彩菜はピクリとも動かず、何を考えているのかわからなかった。


(見失った?)


 動かない彩菜を不思議そうに見ていると、またしてもその体がブレる。

 目の錯覚ではない。残像でもない。言葉通りブレたのだ。


「っ!」


 気づくと彩菜は十数mも移動しており、剣を虚空へと突き立てた。


「くっ……!」


 空気が爆ぜた。剣から炎が吹き上がったのだ。

 炎は一瞬で横に燃え広がり、リュウの形へと成った。

 炎が消える。残されたのはリュウの死体だった。


(凄い……)


 言葉にならなかった。

 彩菜の強さは漠然とわかっていたつもりだったが、これほどまでとは。

 リュウが死んでしまった悲しさより、彩菜への衝撃が勝る。

 当の本人は剣を抜くと、着いた肉を払うかのように一度振り、切先を地面へと落とす。


(彩菜……)


 その背中は遠く、先程まで感じていた信頼は消え失せていた……。

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