ゲート
人間の世界とリュウノクニの狭間にある“ナカツノクニ”だが、果たしてどうやって行くのか。
感覚的にはどこからでも行けそうなものに感じる。
どこからでも切れますみたいな。……それだと、日によって違いますってなってしまうか。
「ここ、で良いんだよな?」
分厚い契約書を半ばぶん投げた時、挟まっていた手紙に気づいた。
手紙というか指示書。
〇月〇〇日、△△△に来られよ、みたいな。
……調べてみたら山やんけってなった。しかも、腐病院やんけって。
加えて人の目を避け、逢う魔が時にて会おうとのこと。
ちょっとクセのある文面だった。正直好き。
「お邪魔しまーす」
肝試しをしたらさぞや盛り上がりそうな見た目の割に、中は綺麗に掃除されていた。
物は傷んでいるものの、不気味な雰囲気は全然ない。
人が出入りしているのがわかる。
「誰かいませんかー」
こだまする声。返事はない。
時計で時間を確認する。時刻は17時50分。
「逢魔時ってんだから合ってるよな?」
明確な時間ではないため18時前後なら良いだろうと判断したのだが……。
(ミスったかな)
とはいえ連絡手段などないので悔いることはない。
強いていうなら運が悪い。
「お待ちしておりました」
「うはやっ!?」
突然、背後から声をかけられ、変な声が出る。
慌てて振り返ると金髪、青眼の中学生ぐらいの歳の子が立っていた。
「すみません。驚かせてしまいましたか?」
「ちょ、ちょっとな……」
暗かったら腰を抜かしていたかもしれない。
「以後気をつけます。ーー自己紹介がまだでしたね。僕はルーシャス・オーウェン」
ルーシャス、その名は聞き覚えがあった。
「君がルーシャスか」
「はい、僕がルーシャスです」
ルーシャスは胸に手を当て、人の良い笑みを浮かべる。人当たりの良い子だ。
何となく彩菜に良いように使われていそうだ。
「俺は柳瀬隆治。隆治って呼んでくれ」
「それでは隆治さんと呼ばせていただきますね」
さんもいらないのだが、礼儀正しそうだし、初対面なので口をつぐむ。
(あれ?)
ふと気づく。ルーシャスの背後には壁しかなく、左右にも扉らしきものはない。
「もしかして、今来たのか?」
「ええ、そうですよ。このようにゲートを通って」
ルーシャスが触れると壁の一部がぐにゃりと歪む。
これは、ワープゲートって解釈で良いのか?
「見えますか?」
「何色だと聞かれたら困る色をしてるな。あと、目が回りそう」
「……彩菜さんが言っていた通り、かなりの知覚能力みたいですね。そこまではっきりと見えているなら迷子の心配はいりませんね」
「迷子?」
「僕の能力は長距離移動並びに次元移動なのですが、中身としては距離をなくしているのではなく、物体の分解、再構成で成り立たせている……らしいです」
昔見たSF映画を思い出す。
テレポートの話でテレポート後の自分と前の自分は同一なのかって議論があった。
まさか、体験する日が来るだなんて。
「なので、能力不足または相性が悪い場合は変なところで再構成されちゃうんですよね」
困ってしまいますと笑うルーシャス。
「……過去に変なところに飛ばされた人っているのかな?」
「僕の能力では一人だけです。まあ、最初の方だったんですけど。そのため、一定以上の能力がない方には使わせないようにしてます」
あ、もちろん生きてますよ。二週間ほど遭難しましたけどとやっぱり笑いながら話す。
ルーシャス、恐ろしい子!
「心配な点はありますか?」
「無茶苦茶怖いです!」
「大丈夫ですよ! はっきり見えてるんですから!」
「はっきり見えてる人の失敗例、第一号になるかもしれないじゃん!」
「それはそれで良いデータが取れたってことで」
「俺は良くないよ!?」
「隆治さんなら大丈夫ですよ」
言葉軽く聞こえるよ、ルーシャス君。
「それはどっちの意味で?」
「両方です。失敗しないだろうし、迷子になっても死なない……多分」
ボソッと多分って言いやがりましたよ。
リュウに会うために危険な目に合うのは想定内だったけど、まさかナカツノクニに行く段階から試練だとは。
これから先も試練だらけな気がする。
「く、くそ、ビビってても始まらないか! しゃー! やったるぜ!」
「その調子です。早くしないと条件がズレちゃいますので」
「今更そんなこと言うの!? ーーええーっい、ままよ!」
どうにでもなれ精神で飛び込むのだった。