出撃II
「お待たせしました!」
きっちり三十分後、ルーシャスが現れた。
他の人を送るためにゲートを使ったのか、額に薄らと汗をかいている。
そんなルーシャスに彩菜はさっと飲み物を渡す。
「ありがとうございます!」
ゴクゴクと勢いよく飲み干し、
「数が多い西区、南区は会長や教官たちが対処しています」
「そんなに……リュウ人がいるのか?」
戦闘要員の多くが投入されているではないか。
「残念なことに……。日本だけでなく、様々な国で人を集めていたみたいです」
「国によっては、行方不明者の足取りを追うのは困難を極めるわ。もう、どれだけいても不思議ではない」
「……みたいだな」
「犠牲者を数えるよりも、これ以上被害者を出さないことだけ考えなさい」
「わかってる」
別に悲観的になっていたわけではない。
あくまで、事態の大きさに改めて気合を入れただけだ。
「心配しなくていいから。……迷いはない」
「…………」
真剣な面持ちで告げるが、彩菜はチラ見しただけで流す。
やはり、信じてはもらえていないようだ。
間で気まずそうなルーシャスは俺たちの顔色をうかがいながら、
「東区はテオさんとセツさんが担当してます。北区含め、数は少ないものの強力な個体が多いため、少数精鋭で対応することになります」
「つまり、俺たち二人だけってことで良いのか?」
「片付き次第、援護に回る予定にはなっていますが、基本的には二人と思ってください」
強力な個体といえども、施設での戦いを鑑みるにリュウオウには程遠いだろう。
倒すだけなら俺たち二人で十分だ。
「不安?」
彩菜が挑発するように言ってくる。
怖いなら待ってても良いのよと言いたげだ。
「彩菜の尻拭いだけを考えれば良いんだなってだけだ」
あえて、小馬鹿にする。
彩菜の額に青筋が浮かぶ。
大概、キレやすい。の割には達観しているというか、悲観的なのか、やけに冷静な時もある。
彩菜の印象が大分塗り変わる一週間だった。
「隆治こそ、足を引っ張らないように」
「ルーシャス、この傷は彩菜を庇ったことで負ったんだぜ」
「そ、そうなんですか」
治りはしたが傷跡は多少残ったので、それをルーシャスに見せつける。
足を引っ張るなとか。よく言ってくれたな。
尚、ルーシャスは巻き込まないでくださいと言わんばかりに迷惑そうだ。
「お、恩着せがましいわね。気にするなって言ってたのに」
「使える物は何でも使わないとな」
引き攣った笑みを浮かべる彩菜にウィンクする。
……げんなりされてしまった。
「よ、よし、肩の力は抜けたみたいだな。じゃあ、行こうぜ」
「……ええ」
もうちょっと良い感じに脱力させるつもりだったのだが、想定以上に腑抜けてしまった。
見るとルーシャスも気まずそうに視線を合わせてくれない。
(そ、そんなに気持ち悪かったかな!?)
笑顔を保ちながら心の中で涙を流す。
「お嬢様」
音もなく現れるお姉さん。
俺はすっかり慣れてしまったが、ルーシャスはビクッと良い反応を見せる。
お姉さんは、そんなルーシャスを見て嬉しそうにニヤつく。
「どうしたの?」
彩菜に問われ、すぐに表情を戻す。
そして、手に持っている何かを彩菜に渡した。
角度の問題で何かは見えなかったが、彩菜の表情に変化が起きたのはわかる。
小さく息を吐く。
「……ありがとう」
「ご武運を」
恭しく頭を下げるお姉さん。
それほど危険な任務ではなさそうだが、二人の雰囲気はどうしたのだろうか。
ルーシャスにこっそり尋ねるが、頭を横に振られる。
「油断はできませんが、そこまで危険ではないと思います。それこそ、本物のリュウ相手の方が……」
「だよな……」
どんな戦いであれ、命をかけたものである限り、何が起こるかはわからない。
……みたいなプロ意識にも見えなかった。
(気になるけど)
お姉さんと目が合う。
(お嬢様をお願いします)
アイコンタクト……で良いのだろうか。
お姉さんの思いが伝わってきた。
俺の気のせいかもしれないが、しっかりと頷いて返す。
お姉さんは満足げに微笑む。合っていたのだろうか。
こちらに背を向けていたため、彩菜は俺たちのやり取りに気づいていない。
(……何が起きる?)
一抹の不安を胸に、
「行きましょう」
彩菜と共に開かれたゲートを潜るのだった。




