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戦いの音

『やあ、久しぶりだね』


 端末に表示された名前を見た彩菜は、そのまま部屋の壁に備え付けられたモニター側面部に嵌める。

 映し出されたのは低音ボイスとサングラスが眩しいオジ様こと学園長だった。


『隆治、怪我の具合はどうだ?』

「は、はい。問題ありません」


 今時、テレビ通話などさして珍しいものではないが、何故だが少し面食らってしまい声に動揺が出てしまう。


『それは何よりだ』


 学園長は顔を綻ばせる。本当に安心したと言わんばかりに。


『すまない』


 そして頭を下げた。


『私の判断ミスだ。まさか、人をリュウに変える実験をしていたとは……』

「「っ!」」


 学園長の言葉に俺と彩菜は反応する。


「証拠が見つかったのですか」


 彩菜が聞く。

 あくまで、状況から鑑みた結果でしかなかった。

 それを学園長は断言したのだ。


『君たちの報告から一週間、該当する施設が三箇所ほど見つかった』

「三箇所も……!」


 どれぐらいの被験者がいたのだろうか。

 坂本さんの姿が脳裏をよぎり、拳に力が入る。


『いや、これでも氷山の一角に過ぎないだろう。何せ、裏で手を引いている者の実態が捉えられないのだから』


 学園長は眉間に皺を寄せ、深刻そうに息を吐く。


「それはつまり、新たな組織ということですか」

『そうとは限らない』


 学園長は彩菜の考えをやんわりと否定する。


『ネァイリング、龍神教……長年争ってきたこの二つが黒幕である可能性は否定できない』


 後者については聞き覚えがあったが、前者は初耳だ。

 流れから敵対組織なのはわかるので、わざわざ話を止めはしないが。


「ですが……」


 しかし、彩菜は納得がいっていない様子。

 何か理由があるのだろうか。


『ああ、桐崎透きりさきとおるが関わっている以上、可能性は低いだろう』

「……あの」


 流石に知らない名前を流すことはできない。

 誰のことかは薄々わかっているが。


「あの男の名よ」

「……だよな」


 結局、おっさんーー桐崎も施設から姿を消した。

 態度からして組織と良好な関係を築けているとは思えないが……よくて中立の立場だろう。

 いや、彼の目的がわからない以上、敵と考えた方が無難か。


『彩菜の報告では、研究者の一人として属しているようだが……隆治、君の見立てはどうだ?』


 彩菜の報告はシンプルなものだったようだ。

 過去に何かあったのか、それとも父親が絡んでいるからか、えらく感情的になっていた。

 そのため、出来る限り主観を抜くことにしたのだろう。


「研究者なのは間違いないと思います。けど、薬に納得していない様子で……」

『それは薬そのものか、それともクオリティなのか』

「本人はクオリティだと言っていました。ただ、その割には被験者の一人にやけに執着してる様子でした」

『坂本雅のことか』


 頷く。

 学園長は手元の資料へと視線を落とし、


『数少ない名前がわかった存在だ。もちろん、調べてみたのだが、桐崎との関連は見られなかった』

「彼女を助けたい。証拠はありませんが、そう動いている気がします」

『君たちの報告を見る限り、その可能性は高そうだ。彼の性格を踏まえると特に』

「最初は能力者にする薬の副作用、そこに何かしらあると思ってたんですけど」


 結局、桐崎が語った薬の内容は嘘だった。

 信じてはいなかったが、嘘をつくのに慣れすぎだろと呆れてしまう。


『三箇所の施設の内、二箇所は同じように消されてしまったが、一箇所だけギリギリで爆破を抑えることができた。とはいえ、残された情報は少なかったが』


 それでも試薬品が残っていたらしい。


『人を……正確には生き物をリュウモドキにする薬だということがわかった』

「作り方については」

『……分析したところ、おおよその方法は見当がついた。けれど、一つだけわからない点がある。そして、それがリュウへと変貌させるキーだ』

(つまり、肝心なことはわからなかったと)


 逆に考えれば、既存の方法、物質の中に答えはなかったということになる。


『とはいえ、大事なのは薬そのものではなく、それを用いて何かを企んでいる者たちだ』

「ですね!」


 強く同意する。


『施設は廃棄された物を再利用していたり、違う組織の物を乗っとったりと様々だ。共通点は今のところわかっていない。だが、個人的にこのルートに答えはないと思っている』


 学園長の言いたいことはわかる。

 実態すら掴めない組織でありながら、大掛かりな実験を行っているのだ。

 生半可な方法では、本体には辿り着けない。そんな気がする。


「では、人海戦術ですか?」

『それは調査員の仕事だ』

「じゃあ、俺たちの仕事は……」


 学園長は表情を、姿勢を改めて引き締め、


『戦いだ』


 告げるのだった。



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