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「それで、傷の方はどう?」


 ひとしきり語り終えた彩菜が聞いてくる。

 お姉さんは仕事仕事と部屋を出ていく。


「うーん」


 体を捻ったり、折り曲げてみる。


「痛みはほとんどないかな」

「そう……」

「銃で撃たれたわりには……っていっても初めて撃たれたんだけど」


 直後の痛みはそれはもう凄かったのだが、喉元過ぎればというやつだろうか。

 傷跡を見てみたい気もするが、痛々しい銃痕など見た日には数日引きずる。

 病は気からではないが、痛みだって感じ始めそうだ。

 知らない方が良いこともある。


「…………」

「な、なんだよ。そんな怖い顔されると不安になるからやめてくれ」


 彩菜は真剣な表情で何かを考えているようだ。


「幸い、変な銃ってわけでもなさそうだし心配する必要はないって」

「……まだわからないわ。実物がない以上は油断するわけにはいかない」


 彩菜の言い分はわかるのだが、感覚として終わったことに感じてならない。

 まだ二日といわれればその通りなのだが。


「リュウにする手段は投薬だけとは限らない。どうする? いきなり翼とか生えてきたら」


 施設で見たリュウの姿を思い出す。

 美しいとは思えなかったが、人よりも強靭な肉体なのは間違いなかった。

 知性はないのか、それとも抑えられているのか。


「うーん、できれば知性は残しておいてほしいな。そこさえクリアできるのなら、手が翼になるのがちょっと不便かなーって」

「ごめんなさい……。隆治のことわかってなかったみたい」


 どうやら、想定していた範疇の返答ではなかったらしい。

 狼狽えるとでも思っていたのだろうか。


「そりゃ、リュウオウみたいな方が良いよ? でも、生命としての格が違いすぎてなあ。仮になれたとして能力は風だろうから、風のリュウオウって呼ばれるのかな。ちょっと、安直すぎて嫌かも。あー、でも金色のリュウオウって響きはカッコいいからなあ」

「ストップストップ! 想像が飛躍しすぎだから!」

「えー、聞いてきたのはそっちだろ?」

「だから謝ったのよ。……隆治は困らないかもしれないけど、今後のためにも経過観察はしっかりしたいわけ」


 彩菜はため息を吐き、話を戻す。


「本当なら学園関係の病院に入院させるべきなんだろうけど……」

「けど?」


 歯切れの悪い彩菜とは珍しい。

 苦々しげに口を真一文字に結んでいる。


「実のところ、学園関係者も医者というよりは研究者なのよね。流石にあの老人よりは倫理観をもってるけど、隆治は……ちょっと特別でしょ? 気づかれたらあれなのよね」


 あれと濁すが、彩菜の態度から研究材料にされかねないとの危機感がうかがえる。

 やはり、学園も一筋縄ではいかないか。

 発展のために必要な犠牲があることはわかるが……。


「私は善人ではないから無関係な人なら積極的に止めはしない。けど、隆治は……友達だから万が一のことがあったら全面戦争になってしまう」

(さらっと全面戦争とか言ったよ、この人)


 やだ怖い。

 少し困るぐらいのノリで、とんでもない覚悟を示してきやがった。

 友達ってそんな重いものだっただろうか。

 彩菜の友達感にとても興味がわく。わくけど聞かない。


「心配しないで学園長には話を通してるから。あの人はあの人なりの考えがあるのだろうけど、色々と都合をつけてくれるわ」


 心配の矛先が違うのだが、彩菜の独断でないのなら安心した。

 もちろん我が身もだが、彩菜の安全にも繋がる話だがらだ。


「まあ、敵の銃で撃たれただけだし、心配するようなことは起きないと思うけど……でも、ありがとう」


 感謝を伝えるも彩菜は呆れたと言わんばかりにジト目を向けてくる。


「いいわよ、隠さなくて。むしろ、私に言わないってどういう了見?」

「い、いや、隠すも何も」


 彩菜は何を勘違いしているのだろうか。

 俺に変なところなどーー、


「“形”ないでしょ」


 ーー思いっきりあった。


「あ、あー」

「天井に穴を開ける時、明らかに風の盾なんかじゃなかった。風の斬撃といえば良いかしら。盾をどうやれば細長い形状にできるのよ」


 やはり、見られていたか。

 ……彩菜にバレたら困るものでもないが。


「まあ、形はない、かな?」

「いつ気づいたの?」

「え?」

「風の盾はあの日、金色のリュウオウを守るために使ってた。……そもそも、リュウ殺しの大剣を触った時は開花しなかったかもって言ってたわよね」


 マズイ。

 そのつもりはなかったが、とぼけるようなリアクションをしてしまったため、要らんことを思い出させてしまった。


「嘘じゃないって! あの時は本当に何も使えなかったんだ!」

「じゃあ、いつ使えるようになったのよ」

「う、うーん、使えるようになったとかじゃなくて……気づいたら使ってた?」

「…………私を馬鹿にしてるの?」

「してません!」

「じゃあ、金色のリュウオウとご対面して楽しんでたら使えたって言いたいわけ?」


 おおよそ間違っていなかった。

 字面にすると無茶苦茶胡散臭い話だな。


「はい……」

「イレギュラーもイレギュラー。よくもまあ普通を気取ったものだわ」

「人よりちょっと鈍感なだけかもしれないし」

「形の時点で話にならないわ。私の知る限り、そんな例外は存在しない」

「大っぴらにできる話じゃないからな。隠してるだけで案外いるかもしれないじゃん」


 やめておけば良いのに、つい反論してしまう。

 実際、その可能性はあるだろうと。

 形など俺のように繕えば誤魔化せるわけで。


「……ええ、確かに能力に形がない例はあるわ」

「マジかよ!?」


 じゃあ、今までのやり取りは、彩菜の態度は何だったのか。

 誰なのかと問う俺に、彩菜は意地の悪い笑みを浮かべ、


「リュウよ」

「…………」

「リュウは性質はあるものの、特定の形はないとみて間違いないわ。ほら、隆治と一緒よ」


 やだこの人、イジワル。


「だからリュウだって言われた方がいっそ納得が行くのよね」

「彩菜の納得のために、人の種別を捻じ曲げないでくれ」

「素直にイレギュラーな存在だと認めたら良いだけよ」


 部の悪い勝負だった。

 ジリ貧どころか相手すらなっていない。


「俺からしたら形があろうとなかろうと、能力なんてものは非日常……だったからな。形がどうのこうの言われてもピンとこない」

「わかってるわ。だからって私に相談しなかったのは何故?」


 相談するなんて選択肢がそもそも思い浮かばなかった。

 それぐらい忙しくい日々だったのだ。


「今後は、少しでも周りと違うなってなったら相談しなさい。迷惑だなんて思わないから」

「……ありがとう。そうするよ」


 彩菜に迷惑をかけたくないが、本人に言われてしまった以上は言い訳にしかならない。

 逐次相談とまではいないが、気になる点が見つかったら相談しよう。


「じゃあ、話はここでおしまい」


 彩菜は、行きましょうと立ち上がる。


「どこに?」

「付いてくればわかるわよ」


 有無を言わせない態度にしぶしぶ立ち上がるのだった。


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