主人と使用人
「詳しいことは私の口からは……」
(何かありそうだとは思ってたけど)
いくら稼いでいるといっても、自ら家を買い、使用人を雇って暮らすなど余程の理由があるのではと。
また、どの部屋も生活感があった。おそらく、実家よりここで過ごす時間の方が長いのだろう。
「力になれるかはわかりませんが、少しでも支えになれるように頑張ります」
「柳瀬様……ありがとうございます」
「お礼を言われることじゃありませんよ。友達なので」
「つまり、友達以上恋人未満と」
「友達です! 以上とか未満とか変なこと言わないでください」
真面目な雰囲気から一変、からかってくる。
緩急がエグい人だよ、本当に。
(雇用関係というより、天然な姉と真面目な妹って感じだな)
呆れながらツッコミを入れるの彩菜の姿が脳裏に浮かぶ。
(いや、天然ではないか? 意図してやってそうだし)
言葉のチョイスがズレてる気もするが、わかってやってると言われればそのような気もする。
「天然ってよく言われますか?」
「天然? …………言われません」
お姉さんは唐突な質問に目をぱちくりさせた後、含みのある言い方で否定する。露骨な態度にますます素なのかわざとなのか判断に困ってしまう。
「柳瀬様は天然だと思いますか?」
「わからないから聞いたんです。狙ってそうな、けど素でやってるようなって感じですよ」
だから、他の人の判断を聞こうかなと思ってと続けるとお姉さんは、
「ふふっ、柳瀬様は可愛いですね。重ね重ね、お嬢様のことがなければと残念に思ってなりません」
「だ、だから、からかわないでください……」
毅然とした態度でいたいが、どうにもペースに巻き込まれてしまう。
お姉さんが美人なのもあるが、性格的に相性が悪い気がする。
「私、年下が好みなので」
「何の暴露ですか!」
「柳瀬様はストライクゾーンですと申し上げたのです」
「勘弁してください……」
まさか俺が一方的にやり込まれるなんて、今まで経験したことのない屈辱だ。
でも、ちょっと楽しい。
「柳瀬様は、上と下どちらが好みとかありますか?」
「……黙秘権を行使します」
「恥ずかしがることではありません。大人になったら、この程度のプライベート侵害質問など日常茶飯事ですので」
「い、嫌だなあ」
「学園は言っても体育会系なところがあるので、OBとか面倒くさいですよ?」
さらっとナカツノクニ学園出身を匂わせてきた。
顔を見ると、ニコッと作り上げられた笑顔を向けてくる。
「……あの」
「それでも、年齢を聞くのはオススメしません。一般的なそれとは違い、能力に性別は関係ありません。力があればねじ伏せたくなるのが人の性です」
「す、すみません」
笑顔を保ったまま、凄まじい圧をかけてくるお姉さんに恐怖を覚える。
大人っぽい雰囲気ながらも、具体的な年齢はイメージし辛い……。
果たして、何歳なのか。興味はあるが、藪を突いて蛇……どころかリュウが出そうなのでやめておく。
「ミステリアスな女性も魅力的で良いですね」
とりあえず、それっぽい言葉で肯定しておく。
お姉さんは柳瀬様はわかってますねと数度頭を縦に振る。
「賢い子は好きですよ」
「ありがとうございます」
危機察知能力でしかないが。
それも、誰だってわかるであろうレベルだ。
「では、お嬢様と結婚した暁には、私のことを側室にしてくださるということで」
「どこから出てきたそんな話!?」
凄い。ではの意味がこれほどまでにわからないことがあるだろうか。
「あ、つい願望が口から漏れ出てしまいました。忘れてください」
「が、願望って……わかりました。忘れます」
追求しても碌なことにならないので流す。
変なタイミングで彩菜が帰ってきて、聞かれてましたとかなったら面倒くさいことにしかならないし。
「じー」
飲み物を取るために半身の姿勢になったところで気づく。
僅かに開けられた扉からこちらを覗く目をに。
「彩菜!?」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
驚く俺とは対照的に、お姉さんはいつの間にか体勢を整え、恭しく礼をする。
反応が早い。歴戦の猛者顔負けだ。
「……ただいま」
彩菜は顔を半分覗かせた状態で挨拶をする。何故か棒読み。
「た、だ、い、ま」
何が気に入らないのか。一音ずつ区切って再度行ってくる。
お姉さんを見る。俺を見ていた。
彩菜の視線も俺に向いている。
「お、おかえり」
求められている台詞かわからず、力無く口から漏れ出るも正解だったらしく、彩菜は扉を開けて中へと入ってくる。
そして、俺の正面……先ほどまでお姉さんが座っていたところに腰掛けた。
「随分と仲良くなったみたいね」
「ま、まあ、気さくな人だし」
「柳瀬様の人徳あってのことです」
いつの間にか、俺の人徳が原因に仕立て上げられていた。
本来、褒め言葉として使われるものなのに、今の状況だと微塵も嬉しくない。
「ふーん」
ほら見たことか。彩菜がジト目で俺を見てくるじゃん。
お姉さんのせいだと非難を込めた視線を向けるも、ウィンクを返されてしまう。
「ふーん」
視線の圧力が増す。
おかしい。何故、肩身が狭い思いをしなければならないのか。
「あ、彩菜とも仲良いけどな」
「そうね。私とも仲良いわ」
セツとも良いし、ルーシャスや会長とも良いわねと続ける。
ナチュラルに省かれるテオ。会話する機会は多いのだが、傍目から見て仲が良さそうには見えないのだろうか。
「隆治は誰とでも仲良くなれるの?」
「いやいや、そんな訳ないだろ。合わない人だって沢山いるって」
「イメージ出来ないわ」
「ええ、あまり想像がつきませんね」
お姉さんまで彩菜と同じイメージらしい。
「まあ、浅く広くってタイプではあったけど、仲が良いと胸を張って言える人は少ないよ」
むしろ、冬馬以外いるだろうか。
セツは仲が良いとは違うし、ルーシャスや会長とは軽く話したことしかない。テオはそもそも土俵にのぼっていないようだし。
「仲が良いの基準が私たちとは違いそうね」
彩菜が苦笑する。
イマイチ言いたいことが理解できず、首を傾げる。
「学園も結構特殊なのよ。だからか、隆治は……」
彩菜は、そこで言葉を切る。
学園が特殊なのは重々承知しているが、彩菜が言わんとしていることは違う気がした。
「そうね。私たちが普通ではないだけかもしれないわ」
嗜虐気味に呟く。
「普通っていっても、リュウやらナカツノクニやら俺の普通は粉々にされたからなあ。……結局さ、みんながみんな、特別な人生なのかもな」
これは日常が崩れた俺だからこそ言えることだった。
彩菜もお姉さんもわかっているため、口元を緩め、同意してくれる。
「前言撤回。隆治が仲良くなれそうな人ってあれね、あれ」
「お嬢様の言う通りです。とんだ女たらしです」
「ええ!?」
「あら、男だっていけるんじゃない?」
「むむっ、確かに……あり、ですね」
「ありもあり大ありよ」
「やはり、王道のーー」
当人を抜きに盛り上がる二人。
どこからどう見ても仲の良い姉妹にしか見えなかった。




