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反省会

「……ここは」


 窓から差し込む光に目を細める。

 どうやら、ベッドで寝ていたようだ。だが、俺の部屋ではない。


「うっ」


 体を起こそうとすると脇腹に鈍い痛みが走る。


(そういえば、撃たれたんだった)


 途中からアドレナリンが出たのか痛みを感じなかったが、平静に戻ってしまうと軽く涙が出るぐらいに痛い。

 毛布をどかし、患部を確認しようとするも包帯が巻かれており、見ることは叶わなかった。


(処置はしてくれたみたいだな)


 適切な物かどうかは素人の俺にはわからない。

 見た目上、問題はなさそうなのでよしとする。


「保健室……ではないか」


 次に気になるのは『ここはどこなのか』だが、第一候補である学園はなさそうだった。

 何故なら、部屋がとてつもなく広いからだ。

 いや、広いだけなら学園の保険室も広い。負傷者が大量に出る場合もあるとかで。

 だが、この部屋にはベッドは一つしかない。

 それも王族やら貴族やらが使いそうな天蓋付きなのだ。


(学園長の部屋とか?)


 学園で一番偉い人ならありえる。

 ありえるが、赤を基調とした色合いといい、部屋の隅にある化粧台といい、イケオジの部屋とはあまり思えない。

 ともすれば、セツならありえるかもしれないが、拭えない違和感がある。


「だとすれば……」


 答えは一つ、というか最有力候補など一人しかいない。


「あら、起きたのね」


 タイミングよく扉が開き、最有力候補こと彩菜が入ってきた。


「今し方な。どれぐらい寝てた?」

「丸一日ってところかしら」

「そんなに!?」


 体の感覚から平均的な睡眠時間かと思っていた。

 まさか、一日寝こけていたとは。


「軽くない怪我をした上、能力の使用回数、緊張感……むしろ、想像よりずっと早く起きたくらいよ」

「言われてみれば、これはこれで濃い経験だな」


 金色のリュウオウや蒼炎のリュウオウの時は、特に寝こけることなどなかったが。


「心臓に毛が生えてるタイプね」


 彩菜は澄ました顔して失礼なことを言う。


「褒めてるのよ」

「褒められた気がしないなあ」

「浅慮な人の場合は悪口かもね。貴方は違うでしょ?」

「むっ」


 狡い言い方をする。

 彩菜の言葉を否定するには自分を考えなしと言うも当然。


「……褒め言葉として受け取っておくよ」

「ふふっ、素直な人は好きよ」

「…………ありがとう」


 柔らかく笑い、優しいトーンで話す彩菜は、どうにもやり辛い。

 嫌ではないのだか、勝てる気がしないのだ。


「怪我の具合はどう? 腕は確かなはずだけど」

「体を起こした時は少し痛んだけど、それ以外は特に痛みはないかな」

「良かった……。銃弾は貫通してたけど、傷は深かったから心配したのよ」


 私を庇ってのことだしと表情を暗くする。


「逆なら彩菜も同じ行動しただろ? 気にするなって。それより、あのジジイの能力について考える方が大事さ」


 能力が開花してから俺の感覚は、今までと比べられない程に鋭敏に成っている。

 だからこそ、神殿の時、咄嗟に風の盾を展開できたのだ。

 だが、今回は不意を突かれた。

 攻撃が来るまで接近されたことすら気づけなかったのだ。


「能力については、あまりにも不自然すぎて結論は出せそうにないわ。おそらく、学園長に相談しても特定には至らないでしょうね」


 彩菜曰く、複数の能力が使われていなければ説明がつかないという。


「身を隠すにしても、音を消すにしても、それぞれの能力が必要になる。加えて、そっくりな分身体とも呼ぶべき体……ひとまとめの能力だとしても、じゃあ形は何なの?」

「近くに仲間がいた感じでもないもんな」

「せめて、遺体が手に入れば何かわかったかもしれないけど……」


 彩菜が悔しげに唇を噛む。


「遺体、無くなってたのか?」


 彩菜は力無く首を横に振る。


「私たちが脱出した後、あの施設は爆破されたわ」

「爆破!?」

「隠したかったのが何なのかはわからないけどね」


 死んだら人の姿になったリュウなのか、老人の死体なのか、それともあそこで行われていた実験の中身なのか。


「……全部って考える方が妥当っぽいな」


 それに学園に把握された以上、重要拠点にすることもできないだろうし。


「あと少し時間を稼げれば調査員が間に合ったのだけど……ううん、そもそも私の力が足りなかったから」


 そう言って俺の脇腹へと視線を向ける。


「もっと強ければ、隆治に怪我をさせることもなかった」

(うーん)


 悔しさを噛み殺している彩菜には申し訳ないが、俺の考えは違った。


「……強さの問題かな?」

「えっ?」

「強かったらって、具体的にどれぐらい強かったら良かったんだ? ジジイは何かズルしてたっぽいのが原因なわけで、それを見破れたらってことか? その場合は、強さより賢さだろ。あの不意打ちに反応できるだけの反射神経とか言い始めたら何でもありだし」

「…………」


 彩菜は押し黙る。


「曖昧な情報を元に、行き当たりばったり……臨機応変さが求められた任務だ。準備不足は当然、最悪でも死にはしないだろって感じで送り込まれたんだろ?」

「……私のワガママよ」


 どうにも、学園長は止めたらしいが彩菜が強行したらしい。

 その上で俺をパートナーに選び、負傷させてしまったと。


(そりゃ、深刻にもなるか)


 よく見ると彩菜の手がかすかに震えていた。

 怒られるとでも思っているのだろうか?


「うーん、さっきも言ったけど俺の怪我については気にするな。最終的に同行することも、庇うことも俺が選んだことだ。後遺症もなさそうだし、彩菜の責任はないよ」

「そんな結果論……」

「熟考に熟考を重ねたところで予定外のことはある。動かなかったことで被害者が増えたら目覚めが悪いだろ? 俺でも同じ結論に至るよ。もちろん、パートナーは彩菜に頼むだろうさ」


 実際、彩菜の立場で進めた場合、パートナーに彩菜を選ぶかはわからないが。

 嘘も方便、言い切っても良かろうや。


「過去を悔やむ暇があるなら未来を見ようぜ。向こう見ずな性格って専らの評判なんだ、俺」


 軽口を叩き、ニヤッと笑ってみせる。

 それを受け、彩菜は少し困ったように眉を八の字にするも口元を綻ばせ、


「ありがとう」


 呟くのだった。


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