星を統べる者
「た…………て…………け……………」
声が聞こえる。
(坂本さん?)
「……し………………て」
声は加工がかかったように不明瞭で、何人かのが重なっているようにも聞こえた。
俺に言っているのか。それとも独り言なのか。
声は俺へ届く頃にはただのノイズに変わっており、辛うじて聞き取れるのは数文字程度。
『……イ…………ス………………ウ』
声の質が変わる。
高く、細い響きは低く、太いものへと。
『ワ…………ウ………………モノ……』
幾重にも重なった輪郭が徐々にはっきりしていく。
『ワレハ……オウ……スベル…………』
オウ……王?
スベル……統べる?
(っ!?)
意味の一部を理解した瞬間、俺を覗く巨躯が姿を露わにする。
その威圧感は……金色や蒼炎のリュウオウと遜色なく、見なくとも漆黒の体に植え付けられた銀色の瞳が鮮明に浮かぶ。
だが、こいつは金色や蒼炎とは明らかに違うところがある。
(見下してる? ……いや、違う。見ていないんだ)
同じ生命のステージに置かれていない。
吹けば飛ぶ程度の……世界の片隅で息を殺して存在するモノ。
だからこそだろうか。全身の産毛が逆立ち、本能が目を逸らせと喚く中、ゆっくりと振り返る。
「……やっぱり、美しいな」
フォルムは金色に近いだろうか。
逞しい四肢、宝石の如く煌めく鱗、荘厳なる翼。
爆発的な命の輝きがそこにはあった。
『我は……』
声が明瞭になっていく。
俺が認識したから? それとも……。
「馴染んできたからか?」
唇を人差し指で撫でる。
(馴染んできた? どういうことだ……)
口から漏れ出た感想に遅れて疑問を覚える。
本能が何かに気づいたらしいが、理性は何も見つけられない。
改めて空間を支配する王を見る。
圧倒的な存在感を放つそれは、けれど微動だにしない。
(動かない? ……それとも、動けない?)
空気が爆ぜる。
爆風に飛ばされぬよう体に力を入れる。
地などない夢うつつであれど、気を抜くと世界の果てまで飛ばされそうだ。
「……紫の雷」
全身を走る紫電は余波だけで数多の生命を焼き尽くすだろう。
便宜上、紫電のリュウオウと名付けよう。カッコいいし。
黒色を表現出来ていないのがマイナス点か。
『まだ、足りぬ……』
紫電のリュウオウは苦々しげに呟く。
何が足りないというのか。
動けないことと、馴染んでいないことと関係があるのだろうか。
『我は、この星を統べる者』
最後にそう言い残し、紫電のリュウオウの姿は蜃気楼の如く消え去る。
残されたのは主人を失い、行き場をなくした紫色の雷だけだった。




