警報
「聞きたいことは大方聞けたかな」
「そうね。肝心なところはわからなかったけど」
蒼炎のリュウオウの神殿に派遣した目的。
“超能力”を開花させる薬。
裏にある組織、またどの程度の規模で行われているか。
男の証言を鵜呑みにはできないが、概ねこちらの予想通りの回答が返ってきた。
「ま、それっぽいことを言ってるだけかもしれないけどな」
「裏付けは諜報部隊が行うから待つしかないわ」
「あーあ、信用ねえなあ。素直に話したってのに」
男は大袈裟はリアクションをとる。
「じゃあ、薬についてもっと詳しく教えてくださいよ」
「だーかーら、話した通りだっての」
「安い嘘はやめなさい。知っての通り、似たような研究なら学園もやってるわ。この材料で能力は開花しない」
「配分とか色々あるんだよ。細かい数字言ってもわからないだろ?」
挑発してくるが最早乗る者はいない。
「……なあ、やっぱり連れて帰った方が」
「追い詰めるな。それがこの男に対する学園の評価よ」
「過不足ない評価、嬉しいねえ」
未だ風の盾に囚われたままだが、確かに余裕はありそうだ。
追い詰められた場合にしか使わない程、危険な能力なのか。それとも条件でもあるのだろうか。
「お父様も言っていた。生きることに関しては天才だと」
「……そりゃどうも」
「薬は手に入ったし、リスク管理は慎重にいかないとね」
俺の心からの説得により、すっかり余裕を取り戻した彩菜は懐に薬をしまう。
「帰りはどうする?」
「……大丈夫。私に任せて」
「了解」
男を一瞥し、そう告げてきたと言うことは聞かれたくないのだろう。
「帰れ帰れ。学園長には出来る限り早く死ねと言っといてくれ」
「言いませんよ」
学園長とも仲が悪いのか。
……そうでもないと別組織に所属などしないか。
(宝玉を創る目的はリュウオウの力の再現、薬は能力者の大量生産、規模はここを含めて三つほどラボがある)
組織名については言わないでもわかるだろと煙に巻く言い方をされた。
彩菜の反応を見るに大型検討はついているようだが。
「……なあ、おっさん」
「誰がおっさんだ」
ふと気になっていたことを口にする。
「おっさんは、薬のことどう思ってるんだ?」
「あ?」
どうやら気に触ったようだ。
額に青筋を浮かべ、俺を睨んでくる。
「俺はここの研究員だぞ? 聞く必要あるのかよ」
「いやだって……」
俺の気のせいだったかなと首裏に手のひらを当てながら思い出す。
『能力を強制的に開花させる薬だ。才能の有無関係なしに引き出す事ができる。……なんて夢のような物じゃねえ。有る奴なら開けるだけ、無い奴なら別の物で代用する。これがまた面白いもんでな。個体差が凄いのなんの』
(無理して笑ってたように見えたんだよなあ)
本人の言う通り不完全な物だからなのだろうか。
……そうには思えなかった。
「この男はそういう男よ。他者を実験材料にすることに躊躇いなんて持たない」
「流石は彩菜ちゃんわかってるねえ」
「別に非道なのは否定しないけど……」
そもそも、会ったばかりだし。
「ただ、目が笑ってないんだよ。だからって悲しんでるわけでもなく、怒ってるわけでもなくて」
人のパーツで一番好きなのは眼だ。
だから、誰であろうとよく見るのだが。
男の眼はどこか虚だった。
「何て言ったら良いんだろう。諦め? 虚しさ?」
男の燻んだ茶色の瞳が揺れる。
そんなことに気づく余裕もなく、もどかしさに身を捩る。
「多分、一色じゃないんだろうな。色々な感情が混じり合って辛うじて繋いでる……要するに辛気臭い目をしてるってことだ」
「…………辛気臭いのはいつものことよ」
ダメだ。彩菜には全く伝わらなかった。
本人はというと微動だにせず、ジッと前を見つめている。
「まあ、隆治が言うのならそうかもね。私はこの人のことをフラットな目では見られないから」
だからなんだって話だしと冷めている様子を見せる。
今する話でないのはその通りだし、合ってたところで何かが変わるわけではない。
「とにかく、ここを出ましょう。そろそろ、時間だわ」
「(時間?)わかった」
立ち上がり、彩菜の横に並ぶ。
扉の前で男の方を振り返る。体勢は変わっていない。
風の盾は一定距離離れたら解除される。
「……色々とありがとうございました」
本来、敵対関係なのだが何故だか親しみを感じてしまう。
男の姿が嫌でも“誰か”に被るからだろうか。
……栓なきことは頭の片隅に追いやり、ノブに手をかける。
「「っ!?」」
瞬間、けたたましいまでの警報音が鳴り響くのだった。




