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選ぶべき道

「すぐに迎えが来るんで待っててくださいっす。あ、飲み物とかどうっすか? 麦茶あるっすよ」


 言いながらコップに麦茶を注ぎ、俺たちの前に置いてくれる。

 ファーストフード店ではジュースしか飲まなかったので丁度乾いてきたところだった。

 感謝の言葉を述べ、口に含む。

 廃れた工場に空調設備などあるはずもなく、蒸し暑さは徐々に高まっていた。


「こう暑いとローブ辛くない?」

「辛いっす!」


 何となく言っただけだが、坂本さんは強く肯定する。

 コップを持つ手にも力が入っていた。


「ローブは、会社から支給された物かしら」

「そうっすよ。ローブなんて買うお金あるなら食べ物を買うっす」

「そ、そうなんだ。……他の人も着てたり?」

「多分、みんな着てると思うっす。……あ、白衣の人は違ったっすね」


 坂本さんは、流石に白衣の上にローブは着ないっすよねと笑う。


(白衣の人……薬を作った、とは限らないか)


 一人で作っているとは思えないし、責任者だとしたら表に出てこないのではないだろうか。


(待てよ。被験者の様子を見るために責任者がってのはありえるか)


 だとすれば、接触できる可能性がある。

 その際、取り押さえることが出来れば、かなりの情報を抑えることに……。


(流石に薬を飲むわけにはいかない。……そもそも、能力が使える者が飲んだらどうなるんだろう)


 強化されたりするのだろうか。

 根本が違うのなら二つ使えるようになったりして。


(……詳しいことは専門家の人たちが調べるか)


 持ち帰ることが出来ればの話だが。


「お医者様かしら。薬について何か説明は受けたの?」

「多分、医者かと」


 何故か多分を強調する。

 坂本さんからすると疑わしい点があったのだろうか。


「薬の説明は……わかんないっす。ベラベラ喋ってたっすけど、何言ってるか理解できなかったんで。結構マジメに壁に話してるのかと思ったっす」


 どれだけ、一方的に捲し立てていたのだろうか。

 脳内に、白衣姿のマッドサイエンティストが浮かぶ。

 色付きの丸眼鏡をかけたボサボサ髪の痩せた男だ。

 我ながら印象に沿うイメージ図だった。


「ま、一日三回、ご飯食べた後に飲めば良いだけなんで簡単っすよ」

「……どんな薬とか気にならないの?」

「あっはっは、薬は良い物じゃないっすか! 大丈夫に決まってるっす!」


 坂本さんは、良い笑顔で言い切る。

 全幅の信頼に返す言葉がない。


「……そうね。そうだと良いわ」


 彩菜は切なげに呟く。

 真っ当な物ではないのは確定している現状が辛い。

 せめて、危険性がなければ良いのだが……。祈る相手が相手だった。


「おっ、迎えが来たみたいっすね」


 ポケットから取り出した携帯の画面を見た坂本さんは慌ててコップを片付ける。


「じゃあ、行きましょう!」


 俺と彩菜は顔を見合わせ、頷く。


「施設に着いたら私の動きに注意して」


 前を歩く坂本さんを追いながら最終確認を取る。


「仕掛けるタイミングを見逃さないで」

「了解」


 判断は基本的に彩菜任せで良いだろう。

 潜入とか初めてだし、臨機応変に対応できる程、頭もよろしくない。


「その上で自己判断で動くべき時は動いて」

「りょ、了解」


 まあ、そうなりますよねと一人ごちる。

 予定通りに行く保証もない。何だったら、わかっていないことが多すぎて、曖昧な決め事にしかなっていないのだ。


「私は身元がバレる可能性がある」

「え」


 ないから選ばれたんじゃ。


「可能性は低いわ。貴方よりは高いってだけ。……だから、私がダメだった時、迷わないで」

「……ダメだった時って」


 彩菜がやられた場合の話をしているのか?


「私が死んだ、または致命傷を負った場合の話よ。前者はまだしも、後者は割り切れない人が多くいるわ。貴方は大丈夫よね」

「…………それって、俺が冷血人間って言いたいのかな」


 流石に酷いではありませんか。

 だが、彩菜は僅かに声色を柔らかくし、


「信頼してるだけよ。薬を持ち帰ってくれたら最高ね」

「……期待に添えるよう頑張るよ」


 色々と言いたいことはあったが、着いてしまったため会話を終わらせる。

 どうにも彩菜の言葉回しが気になってしまう。


(もしかして、状況はあまり良くない?)


 それとも、あくまで万が一に備えての先輩からのアドバイス?

 彩菜の表情から読み解くには、あまりにも短い付き合いだった。


(……考えすぎたら動けなくなりそうだ)


 重要なのは優先事項だ。

 身の安全、薬、施設の破壊ないし情報の順番だろう。

 それを踏まえた上で、


(彩菜の命を最優先。それで行こう)


 俺を選んだのは彩菜だ。

 なら、選ぶべき道はただ一つ。彩菜は見捨てない。


(……ま、助けてもらう可能性の方が高いけど)


 どうしよう、貴方のことは忘れないって置いていかれたら。

 外が見えない仕様の車に乗り、揺られている間、彩菜に見捨てられない方法を考えるのだった。

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