語らいI
「この間、捕まえた連中は覚えてる?」
「ローブに剣、大男だろ。武器持った人とやり合うとか生まれて初めてだからな。多分、一生忘れないと思う」
「会長と模擬戦して……あれは武器ではないか」
「雷の槍はファンタジーだからノーカン」
正確には見張り、セツの知り合い、三人組の順に戦ったので初めてではないが。
とはいえ一連のイベントなので嘘ではない。
「それにレオンは殺気なかったし」
「あら、一丁前な台詞ね」
彩菜がからかってくる。確かにまだ一回しか経験していないのに、殺気云々は偉そうだったか。
「まあ、何となくだけどさ。やっぱり、感じたよ」
主にセツの知り合いの子から。
あの子だけ躊躇わず自害しようとしたし、覚悟が違っていた。
「特にあの子、薄青い髪色した……」
ぼんやりとした特徴しか覚えていなかった。
顔は半分隠れていたし、特異な物も持っておらず、背丈など外見も特別……。
「目の綺麗な子」
「ふーん」
彩菜は興味なさげに相槌を打つ。
「彩菜さーん」
「綺麗かどうかはわからないけど、青髪の子ならいたわね」
彩菜はあまりお気に召さない目だったのだろうか。
それとも、特徴を説明する時に曖昧なワードを入れた俺にイラついたか。
「能力か何かで隠れてたのか、背後からいきなり撃たれたからな。無我夢中だったからあまり覚えてないけど、ある意味一番命の危険を感じたよ」
「蒼炎のリュウオウが聞いたら怒りそうね……」
「怒らないだろ。むしろ、喜ぶ」
「そ、そっか」
彩菜は引き攣った笑みを浮かべ、気をつけるわと話を終わらせる。
「さっき挙げた三人と青髪の子は口を割らなかったわ。特に、ローブが一番情報を持ってそうなんだけど、やけに落ち着いてて取り調べが難航してるって」
ローブといえば宝玉に自分の血を注いでいたな。
蒼炎のリュウオウの過去を知らないのか、知っていてやったのか。
前者か後者で意味合いは大きく変わる。
が、それ以前に、
「本人が知ってると思い込んでるだけかもよ?」
「……どういうこと?」
「宝玉だけど、あいつは卵って言ってた。セツに否定されて困惑してたし、良いように操られてるだけな気がするなあ」
彩菜なそのことねと頷く。
「リュウについての知識は浅そうね。でも、あくまで学園から見た場合はって話」
「……意味がわからないんだけど」
「彼女の属する組織次第ってことよ。仮に真実を知っていても、教義のために捻じ曲げることなんて珍しくないわ」
まず彼女って女性だったのかよと言いたかった。
思い起こせばくぐもっていたが声は高く、ローブから見え隠れする腕など細かったな。
「発言からしてリュウを崇拝する組織に属してるのは間違いないわ。なら、リュウの卵だと思い込むことはおかしくない。それに、あーだこーだ理由をつけたら卵と呼べなくはないかも」
「いやいや、どう頑張っても宝玉と卵は違うだろ」
「どうかしら」
彩菜は人差し指を立てる。
「リュウの……特にリュウオウの生態についてはわかってることの方が少ない。もちろん、生殖の方法もね」
ナカツノクニ学園の歴史は古い。
けれど、幾度となく存亡の危機があったからか、それとも何らかの理由があったのか、空白の記録が多い。
その中には、一番リュウと争ったとされる創設時代も含まれている。
大まかな経緯や目的、方法などは残っているが、リュウに関するものをはじめ、リュウ殺しの大剣やら集まった組織についての資料はないという。
「口伝の可能性はあるけど、表に出ている情報にはない。なら、どうとでも言えるでしょう?」
彩菜の問いかけに、
「宝玉は卵に当たる物だとも言えるってことか」
「真実である証拠もなければ、虚偽である証拠もない。なら、信じたいことを信じる」
信じたいことを信じるのは人の定めかもしれない。
誰かにとっての事実は、誰かにとっての嘘。
「人は嘘をつく。当然、自分にも」
悪いことではないわと彩菜は続ける。
「むしろ、人の凄さだとすら思ってる。自分すら騙せるんだから」
「……かもな」
「本能と理性の狭間を歩んでいく。どちらかに揺れる時はあるけれど」
「…………なんだか頭が痛くなってきた」
「私も」
顔を見合わせ、苦笑する。
「とりあえず、取り調べでわかったことがあるってことだな」
「完璧な理解よ」
「そして、その結果がこれと」
視線を下げ、制服を見る。
見覚えのない制服だが、着てみると案外馴染む。
戦闘訓練を踏まえた学園の制服とは、明らかに異なり、普通の学生服だ。
「久しぶりの制服はどう?」
「俺の高校は私服だったから」
そういえばと彩菜は呟く。
俺の様子を見に学校に来てたからな。一度見てるのだ。
「中学の時は?」
「ブレザーだった。だから、ちょっぴり新鮮」
「それは良かった」
「彩菜はどう? スカートがこれまた似合ってますけど」
「それ、褒め言葉なの? ……良くも悪くもないわ」
健康美というべきか、鍛えられた足はまさに美脚。
元々容姿端麗なこともあり、ここに来るまでにも多くの視線を集めていた。
(……集めている、だな)
過去形ではなく、現在進行形で視線を感じる。
「やっべ、むっちゃレベル高くね?」
「声かけてこいよ!」
「えー、お前が行ってこいって」
「一緒にいるの彼氏なんじゃね?」
「んなわけねーって、釣り合ってねーじゃん!」
なんとなしに耳をすませば、離れた座席に座る男集団が彩菜と思わしき女性を絶賛していた。
当然、向かいに座る俺への評価は厳しい。
評価されたいかと言われればあれだが。
「それで、そろそろ詳細を教えて欲しいんだけど」
有名ファーストフード店で何をするのか。
その問いに彩菜はウィンクだけ返す。
(合わせろってことか)
元々、彩菜のサポートのために来ているのだ。
合わせろといえば合わせるが。
(腹芸できないって思われてるのかね)
情報収集が目的だ。
自然を装う必要があるとも言われた。
(まあ、自信ないから良いか)
失敗したら彩菜たちのせいだし。
責任の所在を明確にしたことで肩の力が抜ける。
ポテトを食べ、コーラで喉を潤す。
「あー、久々だと美味いなあ」
「いきなり肩の力が抜けたわね。……まあ、ちょうど良いけど」
「俺悪くねーってなったからな」
彩菜はピンと来ないのか小首を傾げる。
あらあらまあまあ、そんな可愛らしいポーズを取るなんて……。
案の定、沸き立つ男性客。ほとんどが学生っぽい。
反対に女性客からは冷たい視線が注がれる。
気づけば多くの人の注目を集めていた。
「どうしたのよ。急におとなしくなって」
「見られてるからだって。彩菜は気にならないのか?」
「見られてる? 自意識過剰よ。いつも通りじゃない」
(彩菜にとってはこれが普通なのか)
なら、学園はさぞ居心地が良いだろう。
人気者ではあるものの、このような状況にはならない。
(…………よし)
頭の中でスイッチが切り替わる音がする。
所謂、本能のスイッチだ。
理性を失い、浅慮な行動をとる……。
「彩菜、あーん」
「っ!?」
俺の突然のあーんに彩菜は目を見開いた。




