新任務
「……またここか」
愚痴がこぼれる。
「嫌そうね」
「この間、来たばかりだし……」
中には最高責任者がいるであろう部屋。
イケオジは月に一回が限度だろうて。
「失礼します」
彩菜は俺の不満は軽くスルーし、部屋へと入る。
そういえば、鍵はかけられていないのか。
敵対組織もあるという話なのに、セキュリティが甘いような……。
「よく来てくれた」
魅惑の低音ボイス、柔和な笑み、ある意味うさんくささの塊だ。
今日は、レオンはいないようだな。学園長もデスクに腰掛けている。
俺と彩菜は学園長の前に立ち、
「隆治、体の方はどうかな?」
「あー、それなりですかね。ダルさが抜け切らない感じで」
蒼炎のリュウオウ事件後、異様な倦怠感に襲われた俺は数日程休みをもらった。
診断してくれた人曰く、過度な能力行使によるものらしい。
蒼炎を受け止めるため、無理やり力を捻り出したので当然か。
凌ぎ切った瞬間、軽く酸欠状態だったし。
それも、すっかり治った。何なら行く前より調子良いくらいだ。
念の為、程々に報告しているが。
「そうか……。蒼炎を三度も受け止めたのだ。無理もない」
二回は物陰に隠れていただけに近いが、わざわざ訂正するほどのことではない。
学園長は顎に手をやり、彩菜を見る。
「大丈夫かと」
「ふむ」
「省かないで。ちゃんと説明して」
俺が関わるのに予備知識の共有を怠らないでほしい。
蚊帳の外に置かれたまま話が進むとかマジ勘弁。
「任務よ」
彩菜の説明はとても簡潔だった。
わかりやすい。わかりやすいけど中身がないよね。
「どーんな任務でーすか?」
「二人には情報収集を頼みたいんだ」
彩菜に挑発気味に聞くも、答えは学園長から返ってきた。
「(情報収集とな?)調査じゃなくてですか?」
「今回探ってもらうのは、とある組織についてだ」
「それこそ諜報部隊とかあるのでは」
「もちろん、動いてるわよ。というか、彼らの手に入れた情報を基に私たちが派遣されるわけ」
調査員は、学園を卒業後、能力の残り具合、適正、意思などを汲みとり、配属先が決まるという。
つまり、
「学生である必要が?」
俺たちが選ばれる理由として真っ先に思いつく。
「その上で、ことと次第によっては潜入調査にも移行できる者」
学園長が付け足す。
だから、一番上のクラスの俺たちが呼ばれたわけか。
「……あの、彩菜はともかく俺は向いてないかと」
おそるおそる進言する。
情報収集及び潜入調査……柔軟な発想力、知識、経験など総合的な能力が問われるだろう。
「忘れてるかもしれませんが、一ヶ月前までリュウの存在どころかナカツノクニすら知らなかったんですよ? もちろん、情報収集なんてしたことありませんし」
足を引っ張る気しかしない。
リュウに会えそうもないし。
「大丈夫よ」
気楽に言ってくれる。
彩菜の軽い口調に肩を落とす。
「探りを入れるとか性に合わないんだよ。我慢強さもないし、怪しい人物やら情報を特定する知識もない」
やる気もない。
「隆治の言い分は最もだ。私もそう思ったんだが……」
そう言って学園長は苦笑しつつ彩菜を見る。
どうやら、彩菜が提案したようだ。
当の本人はどこ吹く風、澄ました面をしている。
「それについこの間、事件に巻き込まれたばかりだ。もう少し休息時間が欲しいだろう」
「欲しいです!」
そんな面倒くさい任務をする暇があるなら、部屋でゴロゴロしているか、図書館で本でも読んでいたい。
歴史本、参考書、資料、リュウに関する読み物は全てが面白く、暇さえあれば通っている。
よくよく思えば最近ゲームもしていない。持ってきた荷物の中に積んでいるソフトがいくつかある。
やはり、休暇だ。休暇が欲しい。
「隆治はやればできる子です。諸々の懸念点は重々承知ですが、私が十全に力を発揮するためにも彼のサポートが必要です」
(彩菜?)
彩菜の言い回しに疑問を覚える。
前半は良いとして後半が……。
「……今回の件は偽宝玉にも繋がっている可能性があります」
「っ!」
蒼炎のリュウオウの宝玉をイザベルに創らせた組織の調査なのか。
「実物を見たことがある隆治は役に立ちます」
言い切り、俺をジッと見つめる。
燃えるような目は、静かに揺れていた。
「……とのことだ。どうかな? 彩菜を助けてやってはくれないか」
彩菜には礼がある。
顔を立てようと考えた程度には。
理由はわからないが、本気で俺が必要だと思っているのは伝わった。
「わかりました。頑張ってみます」
「そうか! やってくれるか!」
学園長は何度も頷き、手元の資料にハンコを押す。
「では、早速で悪いが出発してくれ。必要なものは用意している」
学園長が指を鳴らすと“いつの間にか”横にいた女性は恭しく頭を下げる。
(全然気づかなかった……!)
「彼女は私の秘書でね。詳しくは言えないが優秀なんだ」
「で、でしょうね」
優秀な秘書さんは、手に持っていた制服を俺に渡す。
装飾から彩菜の物の男性版のようだ。
「……だから身体測定か!」
いきなり身体測定をした意味がわかった。
提出書類と比べ、身長は変わっていなかったものの体重は少し増えていた。
服のサイズが変わる程ではないが、調べておいた方が良いのは間違いない。
(なーんで、増えてたんだろ)
ここ一年、身長も体重もほとんど変動などなかったのに。
訓練の成果だと思い込むことにした。実際、贅肉ではないだろ、多分。
学園の食堂が美味しすぎるという事実は頭の片隅に追いやれ。
「詳しくは彼女に聞いてくれ。……頼んだ」
「かしこまりました。それでは、柳瀬様はあちらの部屋でお着替えください。彩菜様はその間、もう一度任務内容の見直しを」
秘書に後を任せ、学園長は部屋を出ていく。
俺は促された通り、他の部屋で制服に着替えるのだった。




