身体測定
蒼炎のリュウオウとの邂逅から早二週間。
八月を迎え、季節はすっかり夏に……。
「八月だから暑いってわけじゃないんだな」
それとも水の壁のおかげで快適なのか。
任務以外で外に出たことはないのでわからない。
「場所によるわ」
後ろから聞き覚えのある声が届く。
振り返ると見たことのない制服を着た彩菜がいた。
ナカツノクニ学園の制服と違ってスカートだ。
「何よ、ジロジロ見て」
不審がられてしまった。
ここは気の利いたことでも言っておくか。
「いや、似合ってるなって。流石は彩菜」
「どうも」
言われ慣れてるのか彩菜は素っ気ない態度。
むしろ、不満げにすら見える。
これ以上、気の利いた言葉はでないぞ。今のが全力だ。
「……最後に身体測定した日は」
「身体測定? 今年の四月だけど」
何故、急に身体測定の話を。
もしかして、ナカツノクニ学園はこの時期にやるのか?
提出する書類に身長や体重は記入したけど、測定日までは書かなかったな。欄もなかったし。
「ふーん、四月ねえ。ふーん」
ジト目で睨まれる。
身体測定の日にちで妬まれることってあるの?
「じゃあ、書類の数値は当てにならないわね」
「……そうかな」
今更、身長が伸びることはないだろうし。
体重だって……よく動くようになったので減ったかも。
「文句あるの?」
「ありません」
「よろしい、測ってきなさい」
保健室なら自動のがあるので“正確”に計れるとのこと。
場所がわからないとゴネても無駄だった。
「ここよ、怪我することもあるだろうし、覚えておいて損はないわ」
「はーい」
「常駐している教員はいないから、簡単な手当てのやり方くらいは覚えておきなさい」
「へーい」
「命の危険ないし治療法がわからない時は……」
そう言って壁に手をやる。
「ここに隠し扉があるから」
「おーロマン」
「面倒くさいだけよ。危機的状況で呑気にやってられるかしら」
どうやは、彩菜は納得いっていないご様子。
確かに使う状況を踏まえると、むしろ簡易な方法にしてほしい。
「学生証をスライドして」
実際にスライドはせず、エアでやる。
「そうしたら繋がるらしいわ」
「繋がるって、どこに?」
「さあ?」
彩菜は肩を上げ、首を捻る。
「能力の中には治療に長けたものもあるって話だから、そういった人が来てくれるんじゃないの?」
「へえ、便利な能力があるんだな」
「隆治が思うような単純な能力ではないでしょうね」
「単純って……」
今日の彩菜はご機嫌斜めらしい。
ちょっと棘がある。
「所詮はあの大剣によって覚醒させられる能力よ。リュウ殺しのための力」
「……それを言われると」
大剣を触った瞬間、誰とも知れない声が脳内に響き、うんたらかんたらとうるさかった。
ただただ力を貸してくれる存在ではなかろう。
彩菜もはっきりとは聞こえなかったが、嫌な感覚はあったらしいし。
「あくまで、利用してるだけよ。お互いにね」
忘れないでと念を押してくる。
大事なことなので真剣な表情で返す。
「…………」
彩菜は、顔を動かさずに視線だけを左右に動かす。
そして、俺の耳元に唇を近づけ、
「学園もよ」
誰にも聞かれないように囁く。
「思考停止はしないこと。貴方は貴方の目的のために行動すれば良い」
「……わかった」
はなからそのつもりだ。
ただ、推薦してくれた彩菜の顔に泥は塗りたくない気持ちはあった。
レオンに会った時、背中を押してくれたのは優しさからかと思ったが、もしかしたら彩菜にも思うところがあるのかもしれない。
(かく言う俺もちょっと気になる点が、な)
イザベルの言葉通りなら、学園はリュウオウの宝玉を所有している。
奪い取ったのか、授けられたのか、それ以外か。
学園の、学園長の目的もイマイチ見えてこない。
(リュウを滅ぼすって感じではないんだよな)
生徒会長であるレオンを筆頭に、生徒たちは比較的打倒を目指している気配がある。
一方、学園長はお互いの領分を守るべきだと。
(言葉だけ見れば妥当な考えだけど)
リュウオウとの力の差は一目瞭然だ。
束になっても敵う相手ではない。
そこを知恵でどうにかしようにも、リュウオウの知能は高く、難しいと言わざるを得ない。
(一物も二物もありそうなんだよなあ)
あって然るべきだが。
組織の頂点に立つ人物だ。良くも悪くも多くを望み、動くだろう。
(ま、疑ってばかりいても仕方がない)
本当に善人の可能性もあれば、賢人の可能性もある。
しっかりと考えて動くことだけ意識しよう。
「それと……」
画面の数値を見ている彩菜が呟く。
耳を傾けなければ聞こえない程度の大きさで、
「私のことも、ね」
まるで、自分に言い聞かせるように。




