帰還
教官は、力が回復したら素直にゲートを開いてくれた。
どうやら、監禁から抜け出した調査員が報告をしていたらしく、捜索部隊、治安部隊の編成が進んでいたようだ。
帰還にいち早く気づいた彩菜が教えてくれた。
簡潔に状況を説明すると、神殿にいるであろう他メンバーの確保ため、数名を連れてゲートをくぐっていく。
「やー、初任務から大変なことになってもーたな。ある意味持ってるで、柳瀬きゅん」
入れ替わりで現れたテオが軽口を叩く。
「リュウオウと二連ちゃんで会ったからな。運良過ぎて怖いよ」
「……普通は運の悪さを嘆くんやけど。まあ、五体満足やさかい、トータルは幸運で良いやろ」
「銃で撃たれたり、蒼炎を喰らったりしたけど元気です」
「はっはっは……ごめん、笑えんわ」
テオの笑みは引き攣っていた。
命の危険があった割には落ち着いている。
(ちょっと前なら銃を向けられただけで大騒ぎだったのに)
リュウオウなどと規格外の生命と関わると、矮小な出来事に感じてしまう。
とはいえ、舐めていたら簡単に死ねるが。
もっと速ければ間に合わなかっただろうし。
肌で感じることができる能力と違い、撃たれる直前まで気づくことができない。
今回のように隠密に長けた能力と組み合わされると対応は困難だ。
(あの時、相手がもっと冷静だったら)
セツと顔見知りの子、彼女は怒りに駆られ、距離があるにも関わらず攻撃を行った。
下に意識が向いている時に、攻撃を仕掛けられたらなす術はなかっただろう。
(気になるなあ。聞いたら教えてくれるかな)
セツの横顔は触れてほしくなさそうだった。
状況も状況だったのでスルーしたが、落ち着いてきたらどうにも……。
(……学園関係じゃないらしいし)
誰にでも触れてほしくない過去はある。
自身の“それ”を思うと……頭の片隅に追いやるしかない。
「そういえば、他の人たちは大丈夫なのか?」
「報告聞いた感じやと、よっぽどのことがない限り大丈夫やろ。監禁言うても、拘束されたり、怪我させられたりしたわけやあらへんし」
「……犯人は」
耳を澄ましていたのだろう。セツの横にいる教官が体を震わす。
「…………見てへんって」
「犯人の顔は見てないのか?」
「どうにも、記憶が曖昧らしい。薬でも使われたんか、だーれも覚えてないんやと。ま、あくまで今のところはって話やな」
そして、僕としてはと教官に視線を向け、
「そんなことより、何しとったんかって方が気になるなあ。いくら研究員との兼任とはいえ、ずぶの素人なわけやない。異常事態と認識することは十分できたやろ。にも関わらず、随分とまあ帰ってくるのが遅かったな……」
テオは気づいている。
可能性などという生優しいものでなく、確信を持っているのだ。
何故、との疑問は頭から消す。顔に出てしまうからだ。
「柳瀬きゅんは、神殿の方に行っとったんやろ? 嬢ちゃんも一緒やな。……あんさんもついて行ったんか?」
教官の前に立ち、優しく問う。
いつもの軽薄さが消え失せた姿に、教官だけでなく、セツまで表情が固くなる。
「………………」
「行ったか、行ってないかの簡単な話やんけ。どうして答えてくれへんの? 僕がカッコ良過ぎて言葉がでーへん? それとも、嘘がバレた時のリスクについて、考えとるん?」
「っ!」
生徒が走り回り騒がしいはずの中庭がヤケに静かに感じる。
これは、テオのプレッシャーのせいなのか?
「……わ、私は」
教官は震える唇で真相を語ろうと、
「私たちと一緒でした」
だが、いち早くセツが答えていた。
え、と間の抜けた声をあげ、教官はセツを見る。
テオもゆっくりと視線を横へと向け、
「へえ、珍しいな。嬢ちゃんが庇うなんて。柳瀬きゅんやないんやで?」
「庇うとはおかしなことを言いますね。問われたため、事実を伝えただけです」
テオのプレッシャーにセツは一歩も引かない。
俺は積極的に捕まえる気はなかったが、セツはあくまで俺を立てているだけかと思ったが。
「……柳瀬きゅんの意見も聞いておこか」
「俺は新入りだからな。セツだけに任せるのはって感じで、嫌々ついてきてくれたよ」
リアリティを出すために“嫌々”をつけておく。
「…………らしいけど、そうなん?」
最後に教官へと問う。
教官は、すぐには答えなかった。
葛藤しているのだろう。
「…………私は」
しばしの逡巡、教官は意を決して告げる。
「みんなを裏切った」
セツが慌てて教官を見る。
教官はごめんね、ありがとうとだけ言う。
「ほーん」
「二人には契約を持ちかけた……。いなくなった人達を殺さない代わりに黙っておけって……」
「なるほどなあ」
当然、そんな契約はしていない。
教官なりに俺たちが不利にならないようにと思ってのことだろう。
今のテオに通じるとは思えないが。
テオは腕を組み、満足げに頷き、
「ほな、学園長ところ行こか」
笑顔でそう提案してきた。
露骨に顔色を悪くする教官。
「私、認めたけど……」
「はあん? 何の話や? 僕、なーんも聞いてないで? 三人してブツクサ変なこと呟いてんなあって」
「はあ!?」
無茶苦茶な言い分に思わず大きな声が出た。
この流れにしたのはテオだろうがと睨むも、意味がわからないと言わんばかりに肩をすくめる。
(こ、こいつ)
狙いがわからない。
最初から学園長のところに連れて行く気だったのだろうか。
(そういえば、最初に裏切ったのはとか言ってたっけ)
教官の言葉を思い出す。
セツも苦々しい表情をしていた。
ただの裏切りで済ませる気はないのだろう。
「ほら、歩いた歩いた。オッチャンがお待ちかねや」
ただ、こいつは一発殴っても許されるだろう。
「いてっ!?」
セツが平手打ちがテオの背中に綺麗に入った。
(流石セツ、かっこいいぜセツ、怖いよセツ)
テオは、学園長室に着くまでしきりに後ろを気にするのだった。




