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蒼炎のリュウオウII

 蒼炎のリュウオウが口を開く。

 大きく開かれたアギトの奥には、蒼く揺らめく幻想的な光がーー、


(蒼炎っ!?)


 目の前に迫る命の危険に、意識は現実に引き戻される。

 あまりに美しいが、まともに受けるのは流石にごめんこうむる。


(避けるか、受け止めるか……!)


 一瞬の逡巡、避ける時間は無くなった。

 左手を前に突き出し、全力で風の壁を展開する。

 次の瞬間、蒼き濁流が飲み込む。

 全身を覆う余裕はなかったが、直接触れさえしなければ大丈夫なようだ。


(夢でもそうだったっけ)


 夢の中で蒼炎は人を焼いたが、草木までは焼かなかった。

 混乱の末、建物などにも被害は出ていたが、貫通し、中の人のみを対象とする。


(存外、外れてはいないのかもな)


 大地を焼いたと言われたが、そんなことはないのではないかと思ったのだ。

 リュウだけでなく、人までも庇護した生命が果たしてやるかと。


(蒼炎は対象のみを焼き尽くす)


 慈悲深く、そして裁きを下す存在。

 怒りも悲しみも感じながらも、それだけには囚われない。

 人の尺度で測って良いのかわからない。神様のような生命。


「そんな方が、どうしてそんな……」


 蒼炎を防ぎ切る。蒼炎のリュウオウにリアクションはない。

 金色のリュウオウの時も感じたが、やはり感性が違うのだろう。

 正対して尚、その瞳に俺は映っていない気がする。

 けれど、視界には入っているのだ。


(人だから? それとも、俺だから?)


 自意識過剰だろうか。

 二度目の蒼炎を受け止めつつ、苦笑いする。


「どっちが良いんだろうな!」


 先ほどは様子見だったのか、更に勢いを増した蒼炎に風の盾が削られていくのがわかる。

 蒼炎のリュウオウは、どれだけの時間、炎を維持できるのだろうか。五分と持たずに灰になる自信があるのだが。


「くっ……!」


 貫かれると同時に再度風の盾を展開する。

 危なかった。少しでも遅れれば直撃だった。


「流石にダンス相手にはなれないか……」


 金色のリュウオウとは違い、目の前の存在は明確に敵対している。

 ……敵というのは烏滸がましいか。

 ただ、障害を排除するのみ。蒼炎のリュウオウは三度口を開く。


(もっと強く……!)


 能力を使う時、心臓の鼓動を感じる。

 寿命を削っているのかと勘ぐりたくなる程の熱量。

 力の捻り出し方は、きっと根性しかないのだろう。


(限界ギリギリを、ブレーキをかなぐり捨ててっ!)


 足は軽く曲げ、左手は震えるほどに力を入れる。歯を食いしばり、唸り声を腹の底から捻り出す。


「あああああああっ!」


 展開するのは蒼炎を完全に受け止められるだけの、巨大な風の盾。

 それぐらい出来なければ、


(止めるも何もないだろうがっ!)


 力がなければ守れない。

 孤独な道を突き進む誰かを止めることはできない。

 残酷なまでに単純で、残酷なまでに理不尽。

 力量を顧みない行いの反動はすぐにくる。

 盾は軋み、風そのものが焼かれていく。

 当たり前だ。何もかもが無謀。それでも、俺の進みたい道はこの先にあるのだ。


「うあああああああっ!」


 叫びなのか、悲鳴なのか、自分でもわからなかった。

 永遠にも感じた時間は終わりを告げ、急速に広がった世界には蒼炎のリュウオウが変わらず佇んでいる。


(死んで、ない)


 絶え絶えな息、酸欠のせいか耳が遠くなる。

 視界もぼやけ、今すぐ倒れてしまいたい気分だった。


(……待て待て待て)


 頬を叩き、覚醒を促す。

 今のはチュートリアルのようなものだ。

 ここからが本番。


「きっつ……」


 弱音が出る。余裕のある証拠だ。

 額を袖で拭う。思ったより汗をかいていた。

 深呼吸し、息を整える。

 その間、蒼炎のリュウオウは待ってくれた。


「ありがとう」


 感謝の言葉を送る。

 やはり、怒りに身を任せて力を振るうタイプではない。


「厚かましい頼みだけど、話を聞いてくれるとありがたいんだが」


 …………。

 動く気配はない。聞いてくれるのだろうか。


「じゃあ簡潔に。偽の宝玉を創り、祭壇を血で汚したこと謝ります」


 言ってて気づいたが、祭壇で戦闘を行った。

 双方が重症を負うような戦いではなかったが、少なからず血は出ている。

 それがなくても騒がしくし、汚したことに変わりない。


「偽の宝玉は壊れ、創った者も反省しています。どうか、許してはいただけないでしょうか」


 正直、教官が反省しているのかはわからない。

 最後、教えてくれた時の彼女の表情から勝手に決めつけただけだ。


「貴方にコンタクトを取ろうとした人物も、体良く使われただけに過ぎません。その組織に関しましても、俺たちが必ず何とかします」


 情報不足なため、ここら辺は曖昧な言い回しをせざるを得ない。

 流れでどうにかするって言い切ってしまったし。


(……いや、どうにかしないといけない)


 宝玉の復元を試みた組織だ。

 それ以上のことを企んでいるとみて間違いない。

 学園としても放っては置けないだろう。


「ですので、貴方は何もしなくても良い。心を痛めなくて良い。……許しても良いのです」

『………………』


 初めて蒼炎のリュウオウが反応を示した。

 考えて言った言葉ではない。自然と口から滑り落ちた。

 聞いた時、思った。許せないのだろうと。

 夢で見た時、思った。悲しいのだろうと。


(尽きぬ蒼炎、鱗は檻、断罪の意を中に)


 許したくても……許すわけにはいかなかったのではないだろうか。

 怒り続けるのと、悲しみに暮れるのも、忘れ去ることも皆、苦しい。


「隆治さん」


 振り向くとセツがいた。

 足元には氷の階段、気配を全く感じなかった。


(余裕、全然なかったもんな)


 周りに気を配る隙など見せていたら、今頃この世界にいなかっただろう。


「ここは私に」

「でも……」


 既に蒼炎のリュウオウに殺気は感じない。

 しかし、必要とあらば心を砕くことを躊躇わないだろう。


「……初めは見守るだけのつもりでした」


 セツは常々観測者になろうとする。

 自身を外に置き、意思決定に混じらないでおこうと。


(ちょいちょい前に出てくるけど)


 それも俺が迷っている時、困っている時ではあるが。

 もしくは感情的な時。今日初めて見た姿だ。

 今もセツは衝動で動いているのだろう。

 顔を見ればわかる。彼女も伝えたい言葉があるのだと。


「任せた」

「はい!」


 セツは強く頷き、蒼炎のリュウオウの前に立つ。

 そして……見つめ合う。


(……意思疎通できてる?)


 セツは言葉を発していない。

 けれど、セツは何かを伝え、蒼炎のリュウオウは受け取っていた。

 テレパシーみたいなものなのか? でも、セツの能力は氷のはず。


(リュウ語を話すとかなら、わかりやすいんだけど)


 目の前で行われているのは会話ではなかった。


(後で聞いてみるか)


 話ができるのなら、ぜひともしてみたい。

 一方的に語りかけるのはちょっと不安になる。


(…………終わったか)


 語り合いは、そう長くなかった。

 セツはお辞儀をし、俺の横へと戻ってくる。

 蒼炎のリュウオウは、赤い瞳に俺とセツを映す。


『ーーーー』

「っ! 今!」


 そして、一言告げるとその身を翻し、去っていった。

 その後ろ姿はどこか憑き物が落ちたような……。


「気のせいか」


 それにしても、美しい生命だった。


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