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リュウオウの神殿II

 薄々気づいていた。

 レオンとの模擬戦時、雷の槍の挙動が見えたのだ。

 数週間前の俺だったら逆立ちしてもできないだろう。

 身体能力が向上している。能力が発現したからなのか、ナカツノクニだからなのかはわからない。


「っ!?」


 数百mの距離は瞬く間に消え去り、眼前には男の顔があった。

 呆けた表情をした男は何か言葉を発しようと……。


「うがっ!」


 銃を構える隙は与えない。

 振るった拳は大の大人を浮き上がらせ、地を這わせる。

 口からはか細い呼吸音が響く。

 手元からこぼれた銃を蹴り飛ばす。

 一瞬、奪うか悩んだが、使い慣れていない武器はリスクにしかならないと判断した。


(……どうしたものか)


 男は尚ももがいている。

 今の内に拘束したいが生憎縛る物は持ち合わせていない。


(取り押さえて情報を聞き出すか。……いや、人数が少ない状況で、確かかも怪しい話の価値はない)


 セツを見る。

 あちらも既に決着がついていた。

 足下で転がっている女はぴくりとも動かない。


(やったのか?)


 想像より動揺はない。凄惨な姿ではないからだろうか。

 だが、自らの手で行う時は流石に揺れ動くはず。

 這いつくばって逃げようとする男を抑え……。


「まっ……」


 命乞いだろうか。言葉は悲しいほどに掠れていた。


「待ってください」


 セツが耳元で囁く。咄嗟に能力の発動を止める。

 セツは男の傍らでしゃがみ込むと、首元に注射器を刺した。途端に顔は地に落ち、動かなくなる。


「それは?」

「強力な睡眠薬です」

「……あるなら先に言ってくれよ」


 非難を込めた言葉をセツは真正面から受け止める。


「無力化は難しい」


 言い分はわかる。


「雑念は死を招く」


 ……これもわかる。


「だから」


 簡潔な説明が終わる。

 つまりところ、俺が未熟だからって話だった。


「わかった」


 俺も習って簡潔に返す。

 セツは頷くと神殿の入口に視線をやる。

 付近に人の姿はない。隠れられる場所もほとんどないように見える。


「奥に階段が、多分下に」

「階段付近には誰かいるかもな」

「気をつけて行きましょう」


 見張りの銃を壊した後、中へと入る。

 入ってすぐ目につくリュウオウの彫像は素晴らしい出来だ。

 躍動感に満ち、表情も鬼気迫るものがある。

 神のように崇め奉る人が現れるのも無理ない。


「隆治さん」


 セツが身を屈める。横に並ぶ。

 彫像から頭だけを出し、階段の様子を探る。


「いないな」

「…………」


 セツは鋭い視線で上下左右を確認し、近くに落ちている小石を投げる。

 跳ねるたびにカツと軽い音を奏でた石は階段付近で止まった。


「行きましょう」


 下を覗く。人影は見えない。

 耳を澄ます。話し声も歩く音も聞こえない。


(おかしい。もっと奥にいるとかか? 見張りはいたのに?)


 入口に配置するならば階段などにいても良さそうだが。


「セツ、この神殿はどこまで続いてるんだ?」

「最下層は三階」

「いるとしたらそこか」


 人数が少ないのだろうか。だから、入口だけとか。

 もしくは、不測の事態が起き、対処に追われているのか。

 後者の場合は味方が戦っているのかもしれない。


(リュウはいないよな、流石に)


 人の身からすれば広いが、どうしてもリュウが活動するには狭すぎる。

 それとも、世界を渡る時は広さなど関係ないのだろうか。


「リュウと戦ってる可能性は?」


 セツは少し考えた後、


「可能性はあります。渡る時、運悪く狭い空間に出ることが」

「建物に挟まれたりみたいなことは」

「それはありません。再構成する……らしいので」


 セツにしては珍しく伝聞系だった。

 理論の話だからだろうか。

 まあ、詳しく説明されても理解できないので構わないが。


「力だけの状態では捕獲できません。逃げないよう監視しつつ、罠を仕掛けているのかもしれません」


 合点がいった。

 レオンから話を聞いた時、“利益を得たい連中”はどうするつもりなのかと疑問に思った。

 力だけの状態時に色々と仕掛けを済ませておくのか。


「仮にリュウの捕獲を試みる場合、優先すべきはリュウだよな?」

「はい、私たちの目的はあくまでリュウを帰すことです」

「なら、遠目からでも能力を叩き込めば良さそうか」


 風の足場を作る訓練で飛ばす感覚も掴んだ。

 どの程度の威力かはわからないが、それなりにはなるだろう。

 最悪……。


(セツ相手なら良いよな)


 俺の能力に形がないこと。

 セツにならバレても良い気がする。

 人の秘密を言いふらすタイプではないし、何故だが俺を信頼してくれている。


(あくまで、必要とあらばってだけだけど)


 昔から秘密主義なのだ。

 開示する情報は選びたい。


「よし、行こう」


 後ろも警戒しつつ、階段を下っていく。


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