異常事態
ゲートを通った先は建物の中だった。
ソファー、机、暖炉などが置かれた広い部屋、談話室だろうか。
奥にあるホワイトボードには役割分担とおぼしきメモが書いてある。
「あれ……」
最後に入ってきた教官が呟く。
見るとセツや他の生徒もキョロキョロと部屋の中を見回している。
「何かおかしいんですか?」
「……あ、君は初めてだったね」
忘れてたと頭をかき、
「誰かしらいるはずなのに……」
「なのに、いない……。たまたまですかね?」
教官はゆっくりと首を傾け、目を閉じる。
「たまたま、なのかな……。うーん……」
考え込む教官。
見れば同じ疑問を抱いていたであろう面々は、教官の判断を待っていた。
十数秒後、教官は目を開け、
「異常事態と判断……。各自、警戒して探索……」
『はい!』
他のクラスの生徒たちは大きく返事をし、二人一組で手分けして探索を始めた。
あっという間の出来事にポカーンと呆けてしまう。
「みんな、優秀、楽……」
教官は満足げだ。
「君たちも……気をつけて……」
「は、はい」
セツを見る。
俺と同じく置いてけぼりを喰らった割には落ち着いていた。……いつもか。
「セツ、俺たちも行こう」
「わかりました」
セツは教官の一瞥をくれ、部屋の外へと出ていく。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい……」
ひらひらと力無く手を振る教官に背を向け、セツの後を追う。
セツは俺がついてくるのを確認すると歩みを進める。
「どこか行く当てがあるのか?」
「まずは外に出ましょう」
「外に?」
「リュウが出たかもしれません」
「なるほど」
リュウが出た際は速やかに学園に知らされる。
また、宿舎内には警報が鳴らされる決まりだ。
とはいえ、緊急事態時に全ての決まりを守れるとは限らない。
優先度を考えるとリュウの対処に追われている可能性は十分ある。
「ここは……山の中腹、ぐらいか」
外に出る。
まず目に入ったのは、山の上へ登る道と下る道だ。
次いで高い木々、木漏れ日に目を細める。
上空の様子ははっきりとはしないが、リュウがいるようには見えない。
(戦闘の音も、人の話し声も聞こえない)
風が木々を揺らす音だけだ。
「監視場所は麓と頂上にもあります」
道の真ん中に出て上と下、遠くを見る。
視界の範囲内では異常は感じ取れない。音が聞こえないのだから当然か。
「ここからじゃわからないな」
他の人たちと話し合って分担した方が良さそうだ。
「一旦、相談しに戻るか」
「…………」
セツは俺の言葉に反応を見せない。
ジッと上を見つめている。
「まだ時ではない……」
(また言ってる)
セツは時折意味深なことを呟く。
俺がーー俺だけでなく、彩菜たちですらーー知らないことを知っている。
何故、俺の側にいるのだろう。
俺に何があるのだろう。
聞いたところで無視されるか、無言で返されるかが関の山だ。
(かといって遠ざける理由もないんだよなあ)
それなりに面倒を見てくれるし、リュウマニアっぽいし、実はお茶目なところがあるし。
(害意はない……と思う)
秘密の一つや二つ、誰にでもあるだろう。
セツはわかりやすいだけ。そう、わかりやすいだけなのだ……。
「なあ」
「はい」
「もしかして、蒼炎のリュウオウって復活しそうなの?」
「っ!?」
あからさまに動揺する。
無表情をキープしようとしているからか、口を固く結ぶ。だが、力を入れすぎているため、痛いところを突かれたのは明白だった。
「そっかそっか」
「っ! な、何も言ってません……」
「うん、言ってないな」
だからなんだって話だが。
「ところで復活の話って学園長は知ってるの?」
「っ!?!?」
追撃に衝撃を受け、よろめくセツ。
「私、何も言ってません」
「言ってないのかあ。俺は良いけど、これで損害とかでたらあれだよな」
「ち、違います」
頭と両手を横に振り、否定してくる。
必死さがちょっと可愛い。
「復活とか、私、言ってません」
「言ってないな。復活とは」
そう読み取れる言い回しをしてるだけで。
「それで、信憑性はどれくらいなんだ?」
流石に明確な復活時期がわかっていると思うが。
そうでなければ今の惨状に説明がつかない。
「…………」
セツは視線を泳がせる。
どこまで話して良いか考えているのだろうか。
「…………それなり」
セツは小さく小さく答える。
横にいる俺でも耳を傾けないと聞こえない。
「いつかする。それがいつかは……」
「封印でもしてるのか?」
セツは一瞬躊躇うが首を横に振る。
(近いけど違うのか)
「リュウオウは滅ぼせない」
セツはポツリと零す。
「眷属はリュウオウへと還る」
(リュウオウは死なず、眷属のリュウもまたリュウオウへと還るのみ)
これは教科書に書いてあるレベルの話なのか?
それともセツだけ、学園長の血縁だから知っているのか。
はたまた、セツが信じる流説なのか。
(まあ、どうでも良いか)
知る日が来て欲しいとは微塵も思わない。
リュウオウを殺す気などサラサラないし、そもそも出来るとは思えない。
「とりあえず、神殿の方を確認しに行くか」
頂上の方向を指差して提案する。
「行きましょう」
足早に登り始めたセツの後ろを追うのだった。




