監視任務I
「監視任務?」
「ああ、持ち回りでやることになっているんだ」
レオンが説明してくれる。
リュウがやってくるポイントは限られているため、常に人を配置しているらしい。
「私たちゴールドは最低一人、場所によっては複数人いなければならない」
「もちろん能力や性格、経験なども考慮しますよ」
彩菜とルーシャスが補足してくれる。
「じゃあ、生徒ってもっと多いんだな」
「分校もあるからね。監視につくのは一割ってところかしら」
「リュウの顕現状況にもよるがな。金色のリュウオウの一件も踏まえると増えるだろう」
「あれはびっくりしましたねえ。一歩間違えたら全滅でしたよ。金色のリュウオウは大人しいって噂でしたけど、違ったんですかね」
彩菜の横でお菓子を食べていたセツの手が止まる。
顔を上げ、俺を見てくる。どうしろと。
「さあな、何をするでもなく去った以上、思惑を探るのは難しい」
「そうですね。学園長たちがいないタイミングだって、今まで何度もありましたしね。三年前なんかーー」
ルーシャスはそこで言葉を切る。
表情を伺う。硬直させていた。冷や汗も流している。
(失言?)
セツにアイコンタクトを試みるも、再びお菓子へと意識を向けていたので通じない。
レオンは目を閉じ、彩菜は頬杖をつき、外を眺めていた。
重たい沈黙が流れる。
(気にならないといったら嘘になるけど)
無理に吐かせる程の興味はない。
忘れたいこと、タブーなことの一つや二つ、珍しくもない。
「監視だけど、テオの占いって関係してるのか?」
「ど、どうなんですかね?」
渡りに船とルーシャスが乗っかってくる。
「テオさんは学園長の手伝いをしていることが多いので、パーソナル情報として使われているんじゃないですか」
「どこに行くかは学園長次第なのか」
「いや、教官や職員もまじえた会議で決められる。影響力は強いがな」
「周期的に今回は私かしら。会長もだっけ?」
「いや、俺はもう少し後のはずだ」
「お二人が同時に抜けるのはないですよ。学園の警備が手薄になってしまいます」
ルーシャスの話ぶりからするに二人が1、2を争っているのだろう。
幸か不幸か、二人の戦う姿を見た身としては納得できる。
「俺はいつになるかな?」
「うーん、普通は入学してから一ヶ月後ぐらいに行きますけど」
「会長との戦いを鑑みて、どう判断するか。隆治は例外側っぽいし」
彩菜の何気ない言い回しが引っかかる。
「彩菜、例外側ってどういう意味だ?」
尋ねた瞬間、彩菜は露骨にしまったとの顔をする。
「え、えーっとね、素晴らしい素質の持ち主ってことよ!」
「……嘘っぽい」
「嘘じゃないわよ!」
声のボリュームが上がるのがまた嘘くさい。
冷ややかな視線を向ける。
「そ、そんな目で見ないでよ。私と隆治の仲じゃない」
「ええーい観念しろーい! 口を滑らせた彩菜が悪いんだ!」
「だ、だから、例外側“っぽい”ってだけなの! 予想みたいな」
「予想でも妄想でも良いよ。話して」
「でもでも……」
でもでもだってで粘る彩菜。
追求の手を緩めない俺。
何度かラリーを繰り返しているとレオンがため息を吐き、
「例外側とは生徒が勝手に言っていることだ」
「公然の秘密って意見もあります」
「ルーシャス」
今日のルーシャスは失言が多い。
レオンに怒られ、しゅんと体を縮める。
「例外とは原則に沿わない者のことだ。俺の家みたいにな」
屋上での話を思い出す。
レオンの家系は例外的に必ず能力者が生まれる、とかだっけ。
「つまり、俺の能力も原則に沿わないと」
「可能性! 可能性だからね!」
「そんな必死に否定しなくても良いような……」
彩菜の態度に違和感を覚える。
例外が存在するなど当然というか何というか。
「何事もそうじゃないか? 例外はつきものだろ」
「僕もそう思うんですけどね」
ルーシャスは同意する。
だが、彩菜とレオンは渋い顔をしている。
何か事情を知っているのだろうか。
レオンなんか例外側なのに。
「色々あるんだ……。二人とも、あまり口にしないように。円野も」
「ええ、反省するわ……」
珍しい。ここまでへこんでいる彩菜など初めて見た。
横にいるセツは眉一つ動かさずに、項垂れている彩菜の頭を撫でる。
それに対し彩菜は感謝の言葉を言いつつ、お菓子を追加する。
満足げに目を細めるセツ。
「あれはどっちが飼い慣らされてるんだ?」
「彩菜さんですね」
「円野だな」
俺もそう思う。
ふとセツの意見が気になる。学園長の血縁らしいし。
「なあ、セツはどうなると思う?」
「監視のことですか?」
頷くとセツはお菓子を皿に置き、窓の外……その先にある“何か”を見つめる。
「まだ、時ではない」
そして、ボソリと呟くのだった。




