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模擬戦II

 放たれた雷の槍は不規則な軌道を描く。

 一眼見て威力も速度先ほどとは違うことがわかる。


(さっきのは小手調べかよっ!)


 今までの盾では防ぎきれない。


(二つ、三つ…ちっ!)


 的確な数を把握する暇はなかった。体を覆うだけの盾を展開する。

 やったことがない大きさだが何とか成功する。

 だが、突き刺さった雷の槍によって嫌な音が響く。


「五本か。思ったより柔いな」


 五本目で盾が貫かれる。軌道が逸れたため当たらなかったが……。

 レオンの台詞通り、相手取るには耐久度が足りない。

 力の限界なのか、技量が足りないのか。理由を分析することすらできない。

 絶え間なく襲って来る雷の槍をその都度盾を展開し、防ぐ。


「こらあかん。柳瀬きゅん、ギブアップするなら今の内やで」

「ご親切にどうも!」


 足を使って槍の数をコントロール……槍の方が速い。

 不規則な軌道を読み切り、盾をその分だけ展開……不可能。

 そもそも、レオンの上限は今なのか? もっと数が増やせるのなら敗北は必至。


(このままでもジリ貧だけどな!)


 レオンが再び指を鳴らす。

 巨大な雷の槍が五本現れる。


(五本を一本にしたか)


 これでズラして耐えることも難しくなった。


「降参しろ。致命傷は出来る限り避けるが……保証はできない」

「ご配慮痛みいるね……」


 軽口を叩くが、もう降参したい気持ちでいっぱいだった。

 なら、何故続けるのか。

 相手はおそらく学園でもトップクラスの実力者。

 一方で俺は転校したての初心者。

 観衆のリアクションも悪くない。まあまあ頑張ったよって空気だ。

 ……三人を除いて。


「終わりね」

「ああ、降参するのが賢い選択だ」

「…………」


 言葉の割に彩菜、アドルフ、セツの表情は他の観衆とは違った。

 彩菜は安堵、アドルフは疑念、セツは不満。

 感情が自然と読み取れる。


(まあ、どう思われようと関係ないか)


 俺は、俺のやりたいようにやる。

 レオンの先にリュウオウが映る。

 彼らに会うためにはここで引くわけにはいかない。

 わかるのだ。ここでの敗北は道が途絶えることを意味すると。

 右手が熱くなる。


『リュウノクニに裁きを』


 大剣の言葉が蘇る。

 全身が熱くなり、腹の底から力が昇ってくる。


(……違う)


 この力は違う。ここで使うものではない。


(冷静になれ! 能力の性質を見極めろ!)


 風の盾で槍は防ぎ切れる。


「……引く気はないか。ならば己が愚行を嘆くが良い!」


 レオンの怒声に合わせ、雷の槍がもう一段階大きくなる。一体、何本分なのだろうか。


「バカ! 降参しなさい!」


 彩菜が声を張り上げる。

 ごめんと心の中で謝る。


「貫けっ!」


 見極めろ。

 雷の槍はあくまで能力。

 自然のそれとは違って……。


(流れが見える……っ!)


 槍の描く軌跡が浮かび上がる。

 五本の槍は角度を、着地点を、タイミングをずらして襲いかかってくる。

 的確に詰むように配置された攻撃に賞賛を。


(風の盾は渦を成す)


 レオンが直接攻撃してきた時、弾き飛ばすことが出来た理由。

 青銅で出来た盾ではない。風の流れが盾を成しているだけなのだ。


(なら、防ぎ切ることができなくても)


 穂先が盾に触れる。

 渦の流れを推進力で乗り越えようとする槍を、


(これでどうだ……!)

「っ!?」


 風の盾そのものを渦の流れに合わせて動かす。

 次いで貫通。だが、雷の槍は明後日の方向に飛んでいく。


 二本。

 三本。

 四本。

 五本。


 五本全てを受け流す。

 流れ弾に観客の悲鳴が響くが、意識を割く余裕はない。

 レオンは一瞬表情を崩したものの、既に平静を取り戻していた。

 俺の対処に対する対処を考えているはず。


「…………」

「っ!」


 レオンの雰囲気が変わる。

 威圧感が増し、空気が重く、鳥肌が立つ。

 本気だ。


「アカンで会長」


 テオが静かに告げる。

 それが意味するところを俺は知らない。だが、おいそれと使って良い力ではないらしい。


「柳瀬隆治……」


 だが、レオンの耳には届かない。

 名前を呼ぶ声には憎悪に近い感情が込められていた。

 レオンは右手を高々を上げ……、


「やめたまえ」


 重苦しい空気に声が通る。

 いつの間にかアドルフがレオンの前に現れ、その手を押さえていた。


「これはあくまで模擬戦、そして彼は味方だ。そうだろう?」


 穏やかな声にレオンはゆるりと顔を上げる。

 表情はアドルフに隠れて見えない。


「君のプライドは尊いものだ。だからこそ、場をわきまえなければならない」

「…………はい」


 どうやら説得に成功したようだ。

 胸を撫で下ろす。


(……今のは)


 場が落ち着いたことで気になるのは、レオンの豹変ぶり。

 観衆も戸惑っているようだった。つまり、とても珍しい姿ということだ。

 少なくとも短気で済む話ではない。


「お疲れ、柳瀬きゅん」

「……ありがとう」


 肩を叩いてきたテオが労いの言葉をかけてくれる。


「なあ「すまんな、言えないんや」……だよな」

「オッチャンおらんくても俺が止めてたから」

「うん、わかってる」

「っ!?」


 同意するもテオは言葉を返してこない。

 不思議に思い、顔を見ると目を見開いていた。


「どうした?」

「……正気か?」

「は?」

「俺が止めてたってホンマに信じるんか!?」


 自分から言っておいて何だこいつは。


「意味がわからん」

「いやいや、信じひーやん普通」

「はあ?」

「適当こいてるとか思わんの? 説明もろくにせーへんのに」

「言い辛いことの一つや二つあるだろ。信じない理由にはならないって」


 別に普通のことだと思うのだが、テオは納得できないようだった。


「柳瀬きゅん、ピュアすぎるで? 早死にするタイプや」

「普通だって普通」

「や、普通やない! そんなんやと良いように使われて直ぐに死んでまうで」

「テオの過去も気になってきたよ……」

「なんでや!?」


 面倒くさいのでテオは放置し、レオンの方へと行く。

 途中、半目で睨んでくる彩菜とどこか得意げなセツに手を振る。


「お疲れ様」


 変な空気を壊したくてあえて軽く声をかける。


「……ああ」

「良い練習になったよ、ありがとうな」

「……こちらこそ」


 俺の意図を受け取ったのか、レオンの表情が少しだけ明るくなる。


「まさか防がれるとはな」

「あー、まあ、防ぐというか誤魔化したというか」


 誇るには微妙なやり方だったので困っていると、


「能力の性質を生かした素晴らしい戦いだった」


 アドルフが賞賛してきた。


「ありがとうございます」

「ふっ、それはこちらの台詞だ」

「は、はあ」

「学園に入ってくれてありがとう。平和のため、その力を貸してほしい」


 ギクっ!

 擬音と共に心臓が跳ねる。

 どちらかというとリュウ側なのよね、俺。


「俺からも頼む。力を貸してくれ」


 事情を知っている(見ていた)はずのレオンまで、しかも手をこちらへ伸ばし、頼んでくる。

 手を取らないのは露骨すぎる……だけど、取ったら取ったでややこしい。


「あ、あー、こちらこそ、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い、します?」


 困った末、曖昧な返答をしつつ手を取るのだった。

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