友との語らい
ナカツノクニ学園の寮は豪華だ。
まず一人部屋、これが大きい。その上で広く、綺麗な作りはホテルのそれを思わせる。
広さも一人なら十分なほどあり、ネット環境も整っている。
学生でありながら本質は兵士なため、授業料を払うどころか給料がでるらしい。
生きるためにバイトが欠かせなかった身としては幸せすぎて逆に怖い。
「しかもリュウに会える職場って最高だ」
美しいものを見るのが好き。
心が洗われる気がするから。
絶景や名画をはじめ、色々あるけれどリュウは別格だった。
金色のリュウオウは正に神が作りし美の化身。
ヴィーナスだって裸足で逃げ出すに違いない。
「それに、気の良い人らばっかだしな」
気にかけてくれる彩菜やセツはもちろん、テオやレオンだってしっかりと話を聞いてくれた。
きっと、遠巻きに見ている生徒たちも話せばわかる人らなのだろう。
「ま、リュウを美しいとか言ってんだから仕方がないわな」
美は魂。人それぞれ好む形があるものだ。
しかも、彼らからすればリュウは排除すべき敵であり、リュウを信奉する敵対組織もある。
過激な手段に出ないでくれているだけ感謝するべきだ。
「……とはいえ」
いつか、どうしようもなく対立する時が来るかもしれない。
俺は俺が美しいと思ったものは傷つけられない。傷つけたくない。
(リュウなら全部美しいってことにはならないと思うけど)
漫画やゲームの知識を活かし、色々なリュウの姿を思い浮かべる。
カッコ良い、美しい、微妙……様々なデザインがある。
生きている姿を見れば、感想も変わるかも知れないが。
「彩菜も言ってくれたし、好きにすれば良いか」
対立することになっても、俺は彩菜たちを傷つけるつもりはない。相手がどうであれ。
それが最低限の筋だと思っている。
「くー! 疲れた!」
背を伸ばし、布団にダイブする。ふかふかだ。
軽く、それでいて暖かい掛け布団。
日本だと夏の時期だが、ナカツノクニの夜は少し肌寒い。
聞く限り暑い時期より寒い時期の方が長いようだ。
特に冬の時期は外に出るのも一苦労するとか。おかげでリュウも現れないらしいが。
「おっ?」
テーブルの上にある携帯が震え出す。
画面を見ると……冬馬からだった。
「おっす」
「もしー? 隆治さんの電話っすか?」
「隆治さんの電話にかけたのなら隆治さんだよ」
「怪しいなあ。合言葉をどうぞ」
「冬馬の初恋の相手はクミ先「だー! 思い出させるな!」へっ」
我ながら悪い笑みを浮かべている。
長い付き合いだ。ネタは沢山持っている。
「やめてくれよな、マジで。たまに夢に見るんだから」
「……それはちょっと引くわ」
「なんでだよっ!?」
「引きずりすぎだろ」
小六の時の教育実習生だろ、確か。
告白までしたけど……あっ。
「そろそろ良いんじゃないか?」
「は? 何がだよ」
「俺、大人になりましたよ(低音ボイス)」
「っ!?」
先生の答えは大人になっても好きでいてくれたらね、だった。定番の優しい返しだ。
まあ、十六ってまだガキだけど。
「ば、バカ野郎! 言えるわけねーだろっ!」
「ガチ反応すぎるだろ」
「う、うるせー!」
あまりに反応が良すぎる。
こいつ、さては考えたことあるな?
「落ち着け。俺たちはまだガキだ」
「わかってるわ! せめて成人してからだってのは!」
「待て待て」
口を滑らせた悪友にストップをかける。
「おやめなさい。ちょっと怖いので」
「あ?」
ガチトーンで威嚇してきた。
「……本気なのか?」
「…………」
沈黙は肯定なのよ。
「ま、まあ、今は自由恋愛の時代だしな。歳の差だって一回りもないし、余裕余裕!」
ストーカーにさえならなければ。
冬馬って思い込み強いところあるから少し怖いです。
「……だよな」
「はい?」
「今はあれだけど、社会人になればおかしくないよな」
「……え、ええ」
「高卒で就職……いや、それだと生涯収入が……」
ブツブツと呟く冬馬。こめかみを抑える俺。
ちょっと本気で考え始めちゃったよ。
わざわざ褒めないが冬馬は顔も、性格も、そして頭脳もまあまあ良い。
彼女いないとか不思議ってクラスの女子によく言われていた。告白もたまに。
「あ、あのな」
「どうした?」
いきなり落ち着くな! と全力でツッコミたい衝動を抑え、大事なことを告げる。
「先生にも選ぶ権利があるからな」
「…………」
間が怖かった。そんなの関係ないよとか言われたらどうしよう。
「はっはっは、当たり前だろ」
どうやら、杞憂で済んだらしい。
笑い声が硬い気もするが……。
「最後に俺を選んでくれたら良いだけだし」
「怖いわ!」
優しい声色に鳥肌が立った。
いくら夏だからってホラー話はやめてくれ。
「選んでもらえるように頑張るって話だよ」
もう取り繕う気もないらしい。
良いのか、お前の青春それで。
(なーんて、俺が言えることではないよなあ)
俺に至っては相手は人間ですらない。
リュウに会うために今までの生活を捨てたのだ。しかも、命懸けの舞台に。
(……俺の方がおかしいか、これ)
「ところで学校はどうよ」
「楽しいぜ。気の良い人らばっかだし」
「それは良かった。まあ、心配してなかったけどな」
無駄にコミュ力あるもんなと、褒めてるのかバカにしてるのか、わからない言い回しをする。
「心配なのは……」
そこで言葉を切る。
言いたいことはわかったので苦笑し、
「大丈夫だって。適当にやってるから」
嘘をつく。
冬馬には親父の転勤のせいでって説明した。
「……無理すんなよ」
「してないしてない!」
本当は一人暮らしだし。
「むしろ、楽しいぐらいだよ」
「なら良いんだけどさ」
尚も納得できなさそうな冬馬を、
「あれれ? もしかして、俺と離れたのに楽しいってどういうことってか? ジェラってるんですか?」
全力で煽る。
「はあ!? ふざけんな、訂正しろ! お前の尻拭いしなくて済むとか天国ですわ!」
「強がるなって、俺のお尻拭くの好きだったんだろ? 正直になれよ」
「くそっ、心配して損した!」
「ありがとう〜、リュウちん感激でちゅ〜」
「まーじでキモいからやめな」
流石にやりすぎたか。トーンがガチだ。
「はぁ……まっ、ちょっとだけジェラってるかもな」
冬馬は優しい声色で、
「楽しいのは本当みたいだしな。いつの間にか、隆治も大人になったんだなって」
「親か!」
今日一で声が出た。
「兄貴分だ」
「身長俺より低いくせに?」
「器はでかいから良いんだよ!」
冬馬も今日一の声量だった。
「ヤバっ! 姉貴いるんだった!」
「ありゃまあ、それはそれは大変でーすね」
「お前のせいだからな!?」
「おかわりはダメだろ」
「っ!?」
冬馬が息を呑むと同時に扉の開く音がする。
必死に弁明する冬馬を尻目に、俺はそっと通話終了ボタンを押すのだった。




